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国内106銀行 中小企業向け貸出が過去最高も、伸び率は鈍化(2021年9月中間期 単独決算)

 国内106銀行の2021年9月中間期の総貸出金残高は、499兆1,332億円(前年同期比0.2%増)で、調査を開始した2010年以降、9月中間期では最高を記録した。ただ、コロナ禍の企業への資金繰り支援が一巡し、伸び率は鈍化した。
 総貸出金残高のうち、中小企業等向け貸出金残高は339兆4,312億円(同1.2%増)で、10年連続で前年同期を上回った。また、地方公共団体(以下、地公体)向け貸出金残高は36兆6,856億円(前年同期比1.4%増)で、それぞれ調査を開始以降で最高額を更新した。
 貸出金の伸び率は、中小企業等向けが前年同期(4.2%増)から3.0ポイント低下、地公体向けが前年同期(11.4%増)から10.0ポイント低下した。
 総貸出金残高に対する貸出比率は、中小企業等向けが68.00%(前年同期67.30%)で、9月中間期では4年ぶりに前年同期を上回った。地公体向けは7.34%(同7.26%)で、2011年9月中間期以降、上昇が続いている。
 長引くコロナ禍にオミクロン株が出現し、コロナ収束は不透明感が漂う。政府や金融機関の企業への資金繰り支援で企業倒産は歴史的な低水準で推移するが、ここにきて企業の過剰債務問題が浮上してきている。業績回復が遅れた企業も多く、コロナ後に向けどう経営再建に取り組むか、金融機関の力量が試されている。

  • 本調査は、国内銀行106行の2021年9月中間期決算の「地方公共団体向け」と「中小企業等向け」の貸出金残高を前年同期と比較、分析した(りそな銀行、沖縄銀行は信託勘定を含む)。「中小企業等」には、個人向け貸出を含む。

地公体向け貸出金残高 前年同期比1.4%増

 2021年9月中間期の地公体向け貸出金残高は36兆6,856億円(前年同期比1.4%増)だった。9月中間期としては調査を開始した2010年以降、11年連続で前年同期を上回り、過去最高を更新した。ただ、伸び率は、9月中間期としては2017年(2.1%増)を下回り、最小となった。
 106行のうち、地公体向け貸出金残高が前年同期を上回ったのは59行(構成比55.6%)で、前年同期(50行)より9行増加した。過剰債務を抱える中小企業が多いなかで、貸出先を企業から安全性の高い地公体へシフトした可能性がある。
 総貸出金残高のうち、地公体向け構成比は7.34%で、前年同期の7.26%を0.08ポイント上回った。地公体向け貸出金の構成比が前年同期を上回ったのは45行(構成比42.4%)で、前年同期の37行から8行増加した。
 地公体向け貸出比率の最高は、十八親和銀行の36.37%(前年同期42.14%)。次いで、熊本銀行35.12%(同30.12%)、北洋銀行31.87%(同31.09%)、青森銀行31.55%(同30.81%)の順。構成比40%以上はゼロ(同1行)、同30%以上は4行(同3行)だった。

貸出金

中小企業等向け貸出金残高は過去最高を記録、伸び率上位10行のうち、第二地銀が7行

 2021年9月中間期の中小企業等向け貸出金残高は339兆4,312億円(前年同期比1.2%増、同4兆2,120億円増)と、過去最高を更新した。ただ、コロナ禍の中小企業への資金繰り支援の一巡で、伸び率は前年同期(4.2%増)を下回った。
 総貸出金残高のうち、中小企業等向けの貸出比率は68.00%(前年同期67.30%)で、4年ぶりに前年同期を上回った。
 中小企業等向け貸出金残高が増加したのは87行(構成比82.0%)で、前年同期の102行より15行減少した。大手行が7行のうち4行(前年同期5行)、地方銀行が62行のうち52行(同61行)、第二地銀が37行のうち31行(同36行)で、中小企業等向け貸出金残高が前年同期を上回った。
 中小企業等向け貸出金残高の伸び率トップは、愛知銀行の前年同期比11.4%増。中小企業等向け貸出金は2兆1,345億円で、総貸出金に占める構成比は80.42%(同81.08%)だった。
 以下、百五銀行の前年同期比9.7%増、北日本銀行の同8.7%増、大東銀行の同8.5%増、島根銀行の同7.7%増の順で、伸び率上位10行のうち、第二地銀が7行だった。
 一方、減少率の最大は、スルガ銀行の同7.9%減(1,881億円減)だった。

地区別 全10地区で中小企業等向け貸出が増加

 銀行本店の所在地別では、10地区のうち、地公体向け貸出金残高は北陸、四国、九州の3地区を除く、7地区で増加した。増加率トップは東京の10.2%増、貸出比率のトップは北海道27.58%。
 中小企業等向け貸出金残高は、東京、北陸を除く8地区で前年同期を上回った。増加率トップは四国3.4%増。以下、中国3.1%増、北海道2.9%増、中部2.8%増、九州2.6%増の順。貸出比率は四国78.33%を筆頭に、近畿78.11%、関東77.35%、中部75.79%、九州70.70%と続く。

貸出金


 国内106銀行の2021年9月中間期の総貸出金残高は、2010年以降の9月中間期では最高を更新した。また、コロナ禍の中小企業への資金繰り支援で中小企業向け貸出金も増加した。
 ただ、コロナ関連支援の貸出は落ち着き、中小企業向け貸出金の増加率は1.2%増と前年同期の4.2%増より3.0ポイント低下した。
 中小企業の資金繰りの緩和に大きな効果をもたらした「実質無利子・無担保融資(ゼロ・ゼロ融資)」は、返済が始まっている。しかし、多くの中小企業は、長引くコロナ禍で業績回復が遅れ、債務の過剰感が高まっている。金融機関は今後、過剰債務を抱えた中小企業へのプロパー貸出の推進だけでなく、事業再構築や経営再建の支援などへの対応も同時に求められる。

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