• TSRデータインサイト

破産会社の7割で、社長個人も破産へ

 会社が破産すると、社長の約7割が個人破産に追い込まれている。政府は経営者保証の解除を進めるが、金融機関からの新規融資の6~7割に経営者保証が付いている。2020年度に破産した5,552社のうち、3,789人の社長が破産開始決定を受け、社長破産率は68.2%の高率に達したことがわかった。
 東京商工リサーチ(TSR)は、2020年度(2020年4月~2021年3月)に官報に破産開始決定が掲載された法人(株式会社、有限会社、合同会社)と、社長個人を調査した。初めて全国的な破産会社と社長の破産を追跡調査した。
 政府は経営者の早期事業再生などを支援するため、「経営者保証に関するガイドライン」を策定し、経営者保証の弊害解消を進めている。金融庁や中小企業庁によると、2020年度に実行された新規融資で経営者保証に依存しない融資は、政府系金融機関が38%(2017年度34%)、民間金融機関は27.2%(同16.5%)にとどまり、いまでも新規融資の6~7割では代表者の個人保証が条件になっている。
 これまでの担保や個人保証に依存した貸出で、「経営者保証なし」では資金調達が難しく、必要な借入額を調達できないことが多い。金融機関は債権保全リスクを前提に、保証が厚いほど多くの資金融資が可能だ。一方、社長は借入負担は増しても、必要額を調達できるメリットは大きく、経営者保証の解除に向けた取り組みのバランスは難しい。
 経営者保証を減らすには、金融機関の努力だけでなく、社長も会社の財務健全性や将来価値を高め、社長個人と会社の資金の流れを厳格に区分することが求められる。ただ、長引くコロナ禍で過剰債務に陥った企業も増えており、今後はさらに社長の破産率が上昇することも危惧される。

  • 本調査は、2020年度(2020年4月1日~2021年3月31日)の官報公告で、破産開始決定を受けた株式会社、有限会社、合同会社の 5,552社を対象に調査した。同期間に破産開始決定を受けた個人のうち、TSRデータベースに収録された破産会社の代表者のほか、 破産管財人、管轄裁判所などを条件に取材し、破産会社の社長とした。
    負債1,000万円未満も対象。同一社長で複数の会社が破産している場合、事件番号が若い1社のみを対象にした。

破産会社の社長破産率は約7割、破産会社と同時に個人破産が9割超

 破産した5,552社のうち、社長個人も破産したのは3,789件(構成比68.2%)で、破産会社の社長破産率は約7割にのぼった。社長個人の破産開始決定の時期は、法人と同時が3,445件(同90.9%)で、9割に達した。破産会社の社長の大半は、会社と同時に個人も破産開始決定を受けている。

hasan

産業別、建設業が高水準

 破産会社で社長も個人破産した「社長破産会社」(銀行取引停止、民事再生法などの申請後、破産に切り替えた会社を除く3,608件を対象)と2020年度の全倒産(負債1,000万円以上)の構成比を比較(比率差)した。
 産業別では、建設業の社長破産率が高く、全倒産との比率差が2.0ポイントだった。設備投資が重く、社長個人の資産投下や担保提供が負担になっているようだ。
 一方、比率マイナスだったのは、サービス業他の▲4.1ポイント。対象から個人企業を除外しており、小・零細規模で個人企業の多い飲食業などのサービス業他は比率が低下したとみられる。

hasan

原因別、販売不振が高位

 原因別で比較した。「販売不振」と「既往のシワ寄せ」の社長破産率が高かった。「販売不振」は、社長破産会社が2.3ポイント上回った。売上低迷が長引き、資金調達や取引に際し、社長個人の保証を付けるケースが多かったようだ。
 また、赤字累積の「既往のシワ寄せ」も0.6ポイント高く、販売不振と同様に破産するまで社長個人の資産を投下し、債務を膨らませながら事業継続を目指したとみられる。
 連鎖倒産の「他社倒産の余波」は、今回の調査で同一社長の複数の会社破産を1社に集計したため、比率が低く出た。
 2020年度全倒産のうち、1,434社の個人企業他を除き資本金を比較した。資本金1千万円以上5千万円未満が比率差▲5.4ポイント、5千万円以上1億円未満が▲1.8ポイント、1億円以上が▲0.6ポイント、いずれも低かった。資本金が大きな会社ほど社長破産率が低く、資本金の少ない小・零細企業は比率が高かった。

hasan


 破産会社の社長個人の破産を調査すると、金融機関の経営者保証の比率と近い結果になった。すでに国は経営者保証の解除に向けた取り組みを進めているが、経営者保証を解除することで、企業が必要な資金を調達できないことは避ける必要があり、企業に寄り添った議論が必要だ。
 新型コロナウイルスの感染拡大で、ゼロゼロ融資(実質無利子・無担保融資)が行われ、条件付きながら社長の個人保証が付かないケースもある。一方で、返済見通しが立たない過剰債務を抱えた会社が多く、コロナ収束後の国の支援策の状況によっては、社長破産率が高まる可能性がある。
 新しい私的整理ガイドラインが議論されている。長年続いた社長の個人保証を、急にすべて解除することは現実的に難しい。コロナ禍が長期化し、資金が必要な企業が多いだけに、事業再生や廃業などの支援策を含め、緻密なハンドリングが求められている。

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

「人手不足」企業、69.3%で前年よりも悪化 建設業は8割超が「正社員不足」で対策急務

コロナ禍からの経済活動の再活性化で人手不足が深刻さを増し、「正社員不足」を訴える企業が増加している。特に、2024年問題や少子高齢化による生産年齢人口の減少などが、人手不足に拍車をかけている。

2

  • TSRデータインサイト

「食品業」倒産 2年連続増加の653件 原材料やエネルギー価格、人件費上昇が負担

歴史的な円安が続くなか、歯止めが掛からない食材の価格上昇、人件費などのコストアップが食品業界の経営を圧迫している。2023年度(4-3月)の「食品業」の倒産(負債1,000万円以上)は653件(前年度比16.3%増)で、2年連続で前年度を上回った。

3

  • TSRデータインサイト

【破綻の構図】テックコーポレーションと不自然な割引手形

環境関連機器を開発していた(株)テックコーポレーションが3月18日、広島地裁から破産開始決定を受けた。 直近の決算書(2023年7月期)では負債総額は32億8,741万円だが、破産申立書では約6倍の191億円に膨らむ。 突然の破産の真相を東京商工リサーチが追った。

4

  • TSRデータインサイト

2024年の「中堅企業」は9,229社 企業支援の枠組み新設で、成長を促進し未来志向へ

東京商工リサーチの企業データベースでは、2024年3月時点で「中堅企業」は9,229社(前年比1.2%増、構成比0.7%)あることがわかった。うち2023年の中小企業が、2024年に「中堅企業」に規模を拡大した企業は399社だった。一方、「中堅企業」から「中小企業」へ規模が縮小した企業も311社みられた。

5

  • TSRデータインサイト

「経営者保証」 75%の企業が「外したい」 保証料率の上昇、金融機関との関係悪化を懸念する声も

資金調達時の経営者(個人)保証について、「外したい」と回答した企業が75.5%にのぼり、経営者保証に拠らない融資へのニーズが大きいことがわかった。ただ、保証料率の上乗せや金融機関との関係悪化を懸念して経営者保証を外すことに慎重な企業も多い。

TOPへ