• TSRデータインサイト

【破綻の構図】工作機械メーカー・機工舎の破産、代表者と「実質支配者」の間で

 油圧機器メーカーの(株)機工舎(TSR企業コード:310242860、埼玉県)が5月11日、さいたま地裁越谷支部に破産を申請した。
2020年5月期の資産総額は4億9729万円、純資産は1億8696万円(現預金は1億4171万円)。差し引くと同期末の純負債は3億1033万円だった。だが、破産申請時の負債総額は5億7779万円に膨らんでいた。
取材を進めると、負債が膨らんだ要因はコロナ禍の業績不振だけでなく、どこでも起こりうる経営リスクも浮かび上がってきた。

 機工舎は1975年に設立され、1983年に草加市から現在の春日部市に移転した。自動車ブレーキメーカーや建設機械向け油圧機器メーカーに受注基盤を築いていた。
設立メンバー5人が交代で代表を務めていたが、2003年に初めて設立メンバー以外のX氏が代表に就いた。だが、やはり実態は設立メンバーのA氏が中心だった。
A氏は、会社の経理や税務申告など一切の事務を担っていた。経理業務に関与する社員も税理士もおらず、総勘定元帳の記帳は厳格さに欠け、数年ごとに入る税務調査で粉飾を指摘されたこともあった。X社長や他の取締役が税理士への依頼を進言してもA氏は聞く耳をもたない。A氏の権限が強かったとはいえ、他の役員の善管義務を問われても仕方ないズサンな体制だった。
元々、借入金に依存した経営だったが、最大の顧客だった自動車ブレーキメーカーの事業縮小で、2020年2月頃から受注が激減した。さらに、コロナ禍で建設機械向け油圧機器メーカーからの受注も減少した。
大口顧客からの受注減少は、たちまち資金繰りを直撃し、借入返済や外注費、従業員給料の支払いに支障を来した。そこで2020年9月、コロナ関連融資でメインバンクから8000万円を調達し、ひと息ついたが、その後も受注は大きく落ち込んだまま。コロナ関連融資で調達した資金も2021年2月には底を尽き、経営陣が会社に資金を貸し付けて凌ぐ状態に陥った。それでも事態は好転せず、4月15日の手形決済の目途が立たず、4月7日に弁護士に破産手続きを相談。4月14日に従業員を解雇し、15日に破産準備の告知文を工場に掲示した。
2020年5月期の決算書には未処分利益が1億7011万円と記載されている。だが、申請代理人の聴取にA氏は1億7000万円の累積赤字と伝えた。借入金も決算書には一部しか計上せず、現預金も実態と合致しない。
A氏は破産手続きの後、健康上の理由で死去した。「破産申立書」には、資産概要が丁寧に記載され、債権者への謝罪が何回も記されていた。問題がどこにあったのか。中小企業の経営リスクはどこにでも隠れている。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2021年8月11日号掲載予定「破綻の構図」を再編集)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

2025年1-9月の「人手不足」倒産が過去最多 「従業員退職」が前年の1.6倍増、初の年間300件超へ

2025年9月に「人手不足」が一因となった倒産は、調査を開始した2013年以降では月間最多の46件(前年同月比109.0%増)を記録した。また、2025年1-9月累計も、過去最多の285件(前年同期比31.3%増)に達し、人手不足はより深刻さを増していることがわかった。

2

  • TSRデータインサイト

ケーキや和菓子は「高値の花」に、スイーツ店が苦境 倒産は過去20年で最多ペース、競合商品も台頭

街のスイーツ店が苦境に陥っている。材料コストの上昇、酷暑、人手不足が重なり、商品値上げによる高級化も購入機会の減少につながったようだ。2025年1-9月の菓子製造小売の倒産は、過去20年で最多の37件に達した。

3

  • TSRデータインサイト

2025年1-9月「後継者難」倒産が過去2番目 332件 高齢化が加速、事業承継の支援が急務

代表の高齢化が進み、後継者が不在のため事業に行き詰まる企業が高止まりしている。2025年1-9月の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)は332件(前年同期比4.5%減)で、2年ぶりに前年同期を下回った。だが、2025年は過去最多だった前年同期の348件に次ぐ、過去2番目の高水準だった。

4

  • TSRデータインサイト

2025年 全国160万5,166社の“メインバンク“調査

全国160万5,166社の“メインバンク”は、三菱UFJ銀行(12万7,264社)が13年連続トップだった。2位は三井住友銀行(10万1,697社)、3位はみずほ銀行(8万840社)で、メガバンク3行が上位を占めた。

5

  • TSRデータインサイト

2025年度上半期の「円安」倒産30件 仕入コスト上昇が卸売業を直撃

2025年度上半期(4-9月)の「円安」関連倒産は、30件(前年同期比31.8%減)だった。上半期では、2022年度以降の円安では前年度の44件に次いで、2番目の高水準になった。

TOPへ