• TSRデータインサイト

2021年3月期決算企業 業績動向調査(速報値)

 コロナ禍で2021年3月期決算に変化が起きている。2021年3月期決算は、2020年に全国で感染拡大した新型コロナウイルスの影響を期初から受けた決算となる。同期の増収企業率は2020年3月期に比べて大幅に低下し、大企業、中小企業そろって約7割が減収だった。一方、利益面では増益企業率が大企業53.9%(前期44.8%)、中小企業も49.5%(同44.5%)と改善した。
 「減収増益」の傾向が強まった背景には、コロナ禍ならではの要因があるようだ。コロナ関連支援の補助金や給付金、リストラによる人件費などの固定費削減、不動産などの資産売却など、様々な特別利益を計上し、減収でも一時的な増益を招いた構図が浮かび上がってくる。
 産業別では10産業中、金融・保険業を除く9産業が減収で、新型コロナの影響が広範囲に及んだことが鮮明に表れた。

  • 本調査は、東京商工リサーチ(TSR)の企業データベースに6月末時点で収録した約4万社の2021年3月期決算企業の業績を集計し、2017年3月期以降の過去4期分の3月期決算と比較した。
    資本金1億円未満、および個人企業を中小企業、資本金1億円以上を大企業と定義した。

減収企業は約7割に拡大

 増収企業の比率(増収企業率)は、コロナ前の2019年3月期は大企業、中小企業のいずれも5割超え(大企業61.5%、中小企業50.8%)だった。しかし、第4四半期以降コロナ禍の影響を受けた2020年3月期はともに5割を割り込み(大企業47.9%、中小企業47.3%)、通年でコロナ禍の影響を受けた2021年3月期はそろって30%台(大企業32.4%、中小企業34.8%)まで落ち込んで、約7割の企業が前年の売上高を下回った。

業績動向

利益合計は大企業が前期比8割減、中小企業は改善

 利益金額の増減率は、コロナ前の2019年3月期は大企業、中小企業ともほぼ同水準(大企業0.7%増、中小企業0.04%増)で前期を上回っていたが、2020年3月期は大企業が前期比26.9%減、中小企業が同31.4%減と減益に転じた。さらに、2021年3月期は大企業は同81.2%減と大幅に悪化したが、中小企業は同8.9%減と22.5ポイント改善し対照的な結果となった。
 大企業は、売上高の落ち込みに加え、店舗設備などの減損処理やリストラに伴う特別損失などで、最終赤字が巨額に及んだ企業も多く、全体の利益額を押し下げた。

業績動向

大企業、中小企業ともに増益企業率は高まる

 増減益企業率でみると、増益企業の構成比は大企業が9.1ポイントアップの53.9%で2期ぶりに50%を上回った。また、中小企業も5.0ポイントアップの49.5%で、大企業と中小企業はともに利益合計は減益となったが増益企業率はむしろ改善した。
 事業環境が悪化するなか本業不振が広がったが、コロナ関連支援策で利益を確保した企業が多いことを示している。

業績動向

中小企業の主要5産業は全てで減収

 中小企業の主要5産業(建設業、製造業、卸売業、小売業、サービス業他)の売上高増減率の推移をみると、コロナ前の2018年3月期、2019年3月期はともに前期比プラスを維持していた。しかし、2020年3月期は製造業、卸売業、小売業の3産業が前期を割り込み、2021年3月期は5産業すべてが前期比5%前後の減収に転じた。
 2020年3月期と比べ減収率の最大は建設業で、前期比8.2ポイント減少(2020年3月期3.3%増→2021年3月期4.9%減)した。資材調達の遅延のほか、店舗出店や新築住宅、リフォームなどの小規模工事の延期や中止が広がり、コロナ禍の影響が表面化した。次いで、サービス業他が6.8ポイント減少(2020年3月期1.8%増→2021年5.0%減)した。コロナ禍の直撃を受けた飲食業や宿泊関連などが含まれる。
 黒字企業の比率は3産業で上昇した。黒字企業率が最も高かったのは、建設業の83.1%で、上昇幅は2020年3月期から8.1ポイントアップした。次いで、サービス業他の上昇幅が7.9ポイント増で、減収率の落ち込みが大きかった2産業が黒字企業率ではアップした。

業績動向


 3月期決算企業は、コロナ禍の影響で売上の落ち込みが幅広い業種に及んでいる。
 だが、赤字率は前期より低下し、増益企業は増えている。深刻な事業環境の悪化で売上は減少したが、資産売却などのリストラやコロナ対応の補助金や給付金などの特別利益が利益を押し上げたことが背景にある。
 無担保・無利子融資などの資金繰り支援策も機能し、コロナ禍の倒産減少が続いている。ただ、感染拡大の収束は見通せず、本業回復は遅れている。厳しい経営環境が長引き、疲弊感は強まるなかで緊急避難的な支援策はいずれ終了し、支援頼みの経営維持にも限界が来る。
 中小企業の2021年3月期決算の開示はこれから本格化する。減収増益の状況がどう変化するか、引き続き今後の動向が注目される。

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

コロナ破たん累計が1万件目前 累計9,489件に

4月は「新型コロナ」関連の経営破たん(負債1,000万円以上)が244件(前年同月比9.9%減)判明した。3月の月間件数は2023年3月の328件に次ぐ過去2番目の高水準だったが、4月は一転して減少。これまでの累計は9,052件(倒産8,827件、弁護士一任・準備中225件)となった。

2

  • TSRデータインサイト

堀正工業(株) ~約50行を欺いた粉飾、明細書も細かく調整する「執念」 ~

東京には全国の地域金融機関が拠点を構えている。今回はそれら金融機関の担当者が対応に追われた。最大54行(社)の金融機関やリース会社から融資を受けていた老舗ベアリング商社の堀正工業(株)(TSR企業コード:291038832、東京都)が7月24日、東京地裁から破産開始決定を受けた。

3

  • TSRデータインサイト

インバウンド需要で「ホテル経営」が好調 8割のホテルが稼働率80%超、客室単価の最高が続出

コロナ禍の移動制限の解消と入国審査の緩和で、ホテル需要が急回復している。ホテル運営の上場13社(15ブランド)の客室単価と稼働率は、インバウンド需要の高い都心や地方都市を中心に、コロナ禍前を上回った。

4

  • TSRデータインサイト

2024年4月の「円安」関連倒産 1件発生 発生は22カ月連続、円安の影響はさらに長引く可能性も

2024年4月の「円安」関連倒産は1件発生した。件数は、3カ月ぶりに前年同月を下回ったが、2022年7月から22カ月連続で発生している。 3月19日、日本銀行はマイナス金利解除を決定したが、じりじりと円安が進み、4月29日の午前中に一瞬34年ぶりに1ドル=160円台に乗せた。

5

  • TSRデータインサイト

約束手形の決済期限を60日以内に短縮へ 支払いはマイナス影響 約4割、回収では 5割超がプラス影響

これまで120日だった約束手形の決済期限を、60日に短縮する方向で下請法の指導基準が見直される。約60年続く商慣習の変更は、中小企業の資金繰りに大きな転換を迫る。 4月1~8日に企業アンケートを実施し、手形・電子記録債権(でんさい)のサイト短縮の影響を調査した。

TOPへ