上場企業の 「GC注記」、「重要事象」記載は 66社 コロナ禍のピークから3割減少、記載の復活は8社
2025年3月期決算 上場企業「継続企業の前提に関する注記」調査
2025年3月期本決算を発表した上場企業約2,300社のうち、決算短信で「継続企業の前提に関する注記(ゴーイングコンサーン注記)」(以下、GC注記)を記載したのは21社(前年同期24社)だった。
また、GC注記に至らないが、事業継続に重要な疑義を生じさせる事象がある場合に記載する「継続企業に関する重要事象」(以下、重要事象)は45社(同54社)だった。
GC注記と重要事象を記載した企業は合計66社で、前年同期(78社)から12社減少した。また、コロナ禍以降で最多だった2022年3月期本決算の94社からは28社減少し、GC・重要事象の記載企業の減少が鮮明となった。
理由別では、コロナ禍の影響をGC注記・重要事象の要因の一つに挙げたのは2021年3月期は46社を数えたが、2025年3月期決算は1社に激減。上場企業はすでにコロナ禍を乗り越えたようだ。
ただ、競争激化やビジネスモデルの陳腐化に加え、原燃料・人件費などの物価高がのしかかり業績浮上に至らない企業は増えている。2025年3月期決算の66社のうち、17社は中間決算で記載がなく、本決算で新たにGC注記・重要事象を記載。また、このうち8社は2024年3月期決算以前にはGC注記・重要事象を記載したことがあり、記載が復活したケースだった。上場企業でも大手を中心に、業績好調組と不振企業との二極化が広がっている。
※ 本調査は、全証券取引所に株式上場する3月期決算企業を対象に、6月3日までに発表した2025年3月期決算の決算短信に「GC注記」及び「重要事象」を記載した企業の内容、業種などを分析した。
GC注記と重要事象の記載企業は減少へ
GC注記と重要事象を記載した上場企業は合計66社だった。コロナ禍以降は、ピークの2022年3月期本決算の94社から約3割(29.7%減)減少した。
GC注記企業は21社で、2024年9月中間決算から3社減少した。21社のうち、中間決算ではGC注記の記載がなかったが、3月期本決算で記載した企業は4社だった。このうち、2社は中間決算では重要事象の記載にとどまっていたが、経営への影響がより深刻化し本決算でGC注記を記載した。なお、中間決算でGC注記を記載していた(株)創建エース(東証スタンダード)、ウィルソン・ラーニング ワールドワイド(株)(東証スタンダード)の2社と、重要事象を記載していた河西工業(株)(東証スタンダード)は、2025年3月期決算の発表を延期している。
また、中間決算でGC注記を記載した(株)日本電解(東証グロース)は、2024年11月に民事再生法の適用を申請した。粉飾決算が発覚して決算を訂正しないまま倒産した2社を除くと、GC注記・重要事象を記載した上場企業の倒産は34社連続となった。
本業不振が約9割
GC注記・重要事象を記載した66社の理由を分類した。
66社のうち、58社(構成比87.8%)が重要・継続的な売上減や損失計上、営業キャッシュフローのマイナスなどの「本業不振」を理由とした。売上減少や原燃料価格、人件費の上昇によるコスト増で採算悪化した企業が目立った。
次いで、「資金繰り悪化・調達難」が10社(同15.1%)で、資金繰りに不安を抱える企業が多い。このほか、有利子負債の増加に伴う財務悪化が7社(同10.6%)、取引金融機関からの資金調達で「財務制限条項に抵触」しているケースの6社(同9.0%)が続く。
債務超過への転落は3社だった(一部、個別決算を含む)。債務超過は上場廃止基準にも抵触するため、利益の積み上げや増資などの早急な資本増強策が求められる。
※重複記載のため、構成比合計は100%とならない。
「新型コロナ影響あり」は1社のみ
新型コロナによる影響を要因の一つに挙げた企業は1社で、大きく減少した。
「新型コロナ影響あり」の企業数は、ピークの2021年3月期は46社あったが、その後徐々に減少。5類感染症に移行後は減少ピッチがさらに拡大し、2025年3月期は1社だった。
上場企業の規模では、コロナ禍の影響が薄れていることが鮮明となった。
GC注記など66社のうち、製造含む3業種で7割超
GC注記・重要事象を記載した66社の業種別では、製造業が23社(構成比34.8%)で最多だった。電気機器メーカー、食料品、化学、医薬品など業種は多岐にわたるが、中堅規模や新興メーカーに集中した。
次いで、小売業と情報通信業が各13社(同19.7%)、サービス業が9社(同13.6%)と続き、これ以外の業種は2社以下だった。
母数が多い製造業のほか、小売業と情報・通信業が全体を押し上げ、上位3業種で49社と全体の74.2%にのぼった。
東証スタンダードが半数超える
上場区分別は、東証スタンダードが37社(構成比56.0%)で、半数以上を占め最多だった。
次いで、東証グロースが21社(同31.8%)、東証プライムが4社(同6.0%)と続く。このほか、名証や札証など地方上場が合計4社だった。
上場企業のなかで中堅クラスが多い東証スタンダード、新興企業が多い東証グロースが大半を占めている。老舗や名門として実績はありながらも、大手との下請構造のなかで収益確保が難しい中堅企業、業歴が浅く採算ベースに乗せられない新興企業が多い。
GC注記・重要事象を記載した企業は、中間決算に引き続き70社を下回り、減少が鮮明になった。コロナ禍から事業環境が好転し、GC注記・重要事象の社数はさらに減少した。
ただ、コロナ禍前の50社台で推移した時期と比べると、GC注記・重要事象の記載企業は高い水準にあることに変わりはない。コスト上昇や人手不足の問題が顕在化し、価格転嫁が進まず、計画通りの利益を確保できない中堅企業の苦戦ぶりがうかがえる。
また、当決算で初めてGC注記や重要事象を記載したり、一時は業績回復したが再び落ち込み、数期ぶりに記載したケースも目立った。再建を達成して記載を解消する企業がある反面、不安定な業績を露呈する不振企業も少なくない。上場企業の倒産は低水準でも、GC注記・重要事象を見る限り上場企業の経営悪化を知らせるシグナルになっていることに変わりはない。