第7回上場企業「雇用調整助成金」調査 全体の2割超が申請 申請社数、計上額ともに増勢
新型コロナウイルス感染拡大で2020年4月、雇用の維持を図る目的で現行の雇用調整助成金(以下、雇調金)が始まった。上場企業で、2021年5月末までに開示された決算資料で雇調金を計上・申請が判明したのは770社で、上場企業全体(3797社)の20.2%に達することがわかった。
前回調査の2021年4月末の716社から54社(7.5%)増え、2020年11月に調査を開始以来、前月比で最も高い伸び率となった。計上額は4435億9890万円で、4月末から491億2360万円増加し、上場企業だけで4000億円を超えた。
3月期決算の上場企業が相次いで雇調金を追加計上したほか、新たに申請を記載する企業も増え、企業数と計上額を押し上げた。
2021年6月に解除された10都道府県に対する緊急事態宣言は、解除やまん延防止等重点措置(以下、まん延防止措置)に変更されたが(沖縄県除く)、東京五輪・パラリンピックの開催を目前にしても、時短営業や外出自粛が引き続き求められている。このため、観光や交通インフラなどは当面、我慢の経営が続くとみられ、今後も申請社数、計上額は増加をたどるとみられる。
【計上額別】「100億円以上」が5社に
770社の計上額レンジ別は、最多は1億円未満で274社(構成比35.6%)だった。
次いで1億円以上5億円未満が263社(同34.2%)と続く。なお、100億円以上は前月4社から1社増え、5社となった。
4月末と比べ社数は、100億円以上(4社→5社)、10億円以上50億円未満(62社→73社)、1億円以上5億円未満(235社→263社)、1億円未満(272社→274社)。
一方、5億円以上10億円未満(64社→63社)は1社減少、50億円以上100億円未満(10社)は前月と同数だった。
【業種別】小売(外食含む)が4割超まで増加
770社の業種別では、製造が302社(計上額928億3940万円)で最多だった。
次いで、観光などのサービス148社(同883億3130万円)、外食を含む小売146社(同796億6480万円)の順。ただ、計上額では空運や鉄道などの運送(48社)が1451億5910万円でトップだった。本業に加え、宿泊事業や小売事業の不調も響いた。
全上場企業に占める利用率は、小売が41.9%と初めて4割を超えた。次いで、運送が38.4%、サービスが27.9%と続く。製造は21.0%だった。
今回の調査には5月の大型連休時の申請・計上実績は反映されていないため、上記のBtoC業種では、今後さらに増勢をたどる可能性が高い。
2020年4月からの雇用調整助成金の特例措置期間中に、雇調金を申請・計上した企業は770社で上場企業の20.2%と2割を超えた。4月末(18.6%)より構成比は1.6ポイント上昇し、雇調金を活用する上場企業は増えている。当初、昨春の緊急事態宣言で休業を迫られたメーカー、小売で申請が増えた。だが、その後も外出自粛や時短営業などが続き、時間の経過とともにサービス業や観光、外食、航空・鉄道などで影響が深刻化し、追加計上が相次いだ。
計上額の上位10社は、6社が運送業、3社がサービス(すべて観光関連)、1社が小売(外食)で、労働集約型で従業員を多数抱え、業績回復が遅れた業種で目立つ。業種間業績の“二極化”の広がりを反映している。
4月末に発令された3度目の緊急事態宣言は、6月20日まで2カ月弱に及んだ。この間、大都市圏の飲食店では時短営業や酒類提供の禁止があり、百貨店も売場ごとの間引き営業を強いられた。
さらに、観光やレジャー関連、交通インフラは、2年連続で5月の大型連休の需要が消失した。
雇調金の特例措置は、緊急事態宣言・まん延防止措置の対象地域を除き、4月で終了し、5月以降は一部支給金額を減額して継続する。ただ、緊急事態宣言が延長されている沖縄、まん延防止等重点措置の東京・大阪・愛知等の自治体では、特例措置が8月末まで延長される。
2021年度予算では、雇調金予算6117億円に加え、週20時間未満で働くパート従業員を対象に緊急雇用安定助成金124億円が計上されている。20年度分の繰越し分を合わせると、21年度に雇調金として充当されている予算は約1兆2000億円になる。ただ、4月1日から6月中旬まで、すでに6271億2800万円の支給が決定しており、予算と実行額は綱渡り状態が続く。
特例措置の該当地域は急激な感染者拡大がない限り、都市部に限定されるとみられる。ただ、消費回復の歩みは鈍く、雇調金の申請社数と計上額はしばらく増勢が続くとみられる。