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サイゼリヤ堀埜社長「正社員を増やす 時短営業だからこそ成り立つ」 単独インタビュー[前編]

 東京商工リサーチ(TSR)の集計では、新型コロナウイルス関連破たんは1600件(負債1000万円未満を含む)を超え、トップは飲食業で300件を超える。来店客数の減少や休業・時短営業の要請などで、脱落した企業が多数を占める。
 苦境にあえぐ飲食業界で、異色の成長をみせる(株)サイゼリヤ(TSR企業コード:320254631、埼玉県)は、コロナ禍の2019年12月~20年12月で店舗数を増加させ、スクラップを進める他社とは一線を画している。また、厳しい決算に追い込まれた大手外食チェーンが多い中、今期の黒字見通しを示した。
 コロナ禍の取り組みや外食産業の展望について堀埜一成社長に話を聞いた。

-コロナ禍で始めた取り組みは

 いろいろな取り組みを新たに始めたが、まず、お客様に見える形で変えたのは価格帯だ。これまで価格の末尾は99円だったが、会計時の接触時間を減らすため、50円、100円単位にそろえた。さらに、注文もお客様に紙に書いて頂く方式に切り替えた。まさに、AX(アナログトランスフォーメーション)だ。
 他社では注文にタッチパネルを採用するところもあるが、当社のようなレストランとはどうも相性が悪い。お客様との接触回数が多いのがレストランのフォーマットだからだ。接触回数は減らさず、コンタクト時間を短くできるのが利点だ。

-手書き注文の導入までの経緯は

 もともとオリンピックを見据えて進めていた。注文時にハンディターミナルなど端末を使用するのは日本だけ。その辺の謎も知りたいと思い、様々なテストをやってきた。初めはグローバルスタンダードに則って、店員が手書きで注文を取るようにしたが、様々な不具合が出てきたため、お客様に書いてもらうようにした。
 2年ほどテストを続け、形になった。いつからスタートしようか思案していたところに新型コロナウイルスの感染が拡大。「これは使えるぞ」ということで、全面導入した。

-そのほかの取り組みは

 お客様から見えない部分では、人事制度で、正社員数を増やしている。もともと従業員は2万5,000人~3万人で、そのうち正社員は約2000人。残りはアルバイトやパートタイマーなどいわゆる非正規社員だった。
 しかし、緊急事態宣言で時短営業、休業した際、非正規社員の収入が安定しないということが目に見えてわかった。同時に、時短営業では、コスト的に正社員でやっていけるということが見えてきた。
 今までは営業時間が長く、正社員だけで店舗を維持するのは難しかった。しかし、営業時間を22時くらいまでにすると、正社員一人の体制も可能だ。今までかかっていた残業代などの費用も発生しなかったりする。そこにパートタイマーを加えて、かなり生産的な体系が作れるとわかり、正社員をバンっと増やす方向に転換した。コストを考えると、正規採用を増やすことは難しいと思っていたが、営業時間を短くすると意外と成り立つことがわかった。

-具体的な新規採用状況は

 今年4月に約170人の新入社員を採用した。さらに、9月にも入社予定者がおり、1年間で計200人くらい入社の予定。新入社員にはもともと店舗で働いていたパートタイマーやアルバイトも多い。今までは、なかなか採用できていなかったが、新型コロナの影響か、やっぱり正社員のほうがいいと言って来てくれる。
 こういった人材を、弊社では「キャプテン社員」と呼び、異動や長期出張がなく、しかも採用にあたり学歴は不問とした。正社員の場合、他社では学歴が重要視されることもあると思うが、当社ではみな頼もしい戦力となっている。さらに、年齢という枠も外したので、今年の入社式には20代から50代までの新入社員が集まった。

サイゼリヤ前編

‌インタビューに応じる堀埜社長

-他の外食企業でも取り入れられるか

 全ての企業に当てはまるとは言えない。成長期や成熟期、それぞれのフェーズによって、カスタマー・インティマシー(顧客親密性)、オペレーショナル・ エクセレンス(業務の卓越性)、プロダクト・リーダーシップ(製品リーダーシップ)の3つのうち、2つに重点を置き、1つを捨てなければならない。
 成長期のときは、新店の出店が続くため新規客増に集中することになり、お客様個々との親密性はなかなか高めにくい。このような状況下では、よい商品と作業の効率性が大事になってくる。
 一方、現在の我々のような成熟期の企業のお客様はほとんどがリピーター。作業の効率性よりも顧客との親密さを優先したい。そこがコロナ禍においてカチッとはまり、組織自体を全部変えていくことにした。
 フェーズによって、3つのポイントのうちどの2つを重視するかがキーになる。それをしなければ、1000店を超えたらその後は減少していく、もしくは1000店を超えられない。

-店舗の変化は

 全店舗に現場で判断できる責任者、つまり正社員を置いておくようにした。時短営業にしたことで、すべての時間帯に正社員を置くことが可能になった。
 正社員を一人置き、顔なじみになった方がお客様の安心度が上がる。特に、今まで管理の行き届かない深夜帯があったが、そこに正社員を入れ整備することで、一層のサービスレベル向上につながる。さらに、非正規社員を次から次に採用し教育を繰り返すより、生産性もあがるため、正社員を増やすという発想につながった。

-今年のGWの緊急事態宣言の影響は

 時短営業や酒類提供の見合わせなど様々な影響はあった。ただ、6月末まで期間が延長すると想定していた。社員たちにもその意識をさせ、途中で宣言が解除されればすぐに動ける体制を取っておくよう指示をしていた。通常営業への戻し方は非常に難しい。緊急事態宣言が終わったからといって、一気に以前のような売上を取りに行こうとすると、大変なムダが発生する可能性がある。地域による客数の戻りの差もあるし、少しずつ様子を見ながら段階的に引き上げていくことを考えている。

-コロナ禍における消費動向の変化は

 まず、客層としては一人客が増えた。さらに、子連れのお客様がディナーの時間帯より少し前に来店されるケースが顕著になった。
 客単価について、緊急事態宣言下の今は、下がっている。酒類の提供ができず、注文点数が減り、食事だけになる。加えて、20時までの営業で食事時間も短いからだ。
 ただし、コロナ禍全体を通してみると、客単価は上がっている。来店目的がクリアになっているように思う。お客様が「たまたまあるから来よう」ではなく「しっかり食事をしたい」と意図をもって来店されている。

-酒類が提供できないのは痛手では

 客単価、客層は若干変わってくる。ただ、一回目の緊急事態宣言下で、自主的に「一人一杯まで」と酒類の制限をしていた。売上には影響したかもしれないが、絶対に飛沫がよくないと導入した。
 そのほか、「しゃべれるくん」というお食事マスクを出した。当時はさんざん色々なことを言われたが、半年後位にはマスク会食が推進されるようになった。いま、国が感染拡大防止のために様々な施策を進めているが、我々は2020年3月頃から様々な取り組みを通し、コロナ禍での安全な店舗運営に努めている。

-なぜ、問題に対し素早く対処できるのか

 弊社では、常に何かテストをやっている。では、どういうテストをするか。問題の本質を見極め、それを整理し対策を進める。我々は、問題解決のプロフェッショナルだ。
 過去にはコストゾーンのキッチンを半分にした。空いたスペースを客席にすると、売上も大幅にアップした。当時、2年かけて約30のプロジェクトを進めた。目立った問題点の解決に取り組み、とにかく妥協はしなかった。方針の出し方や解決策の進め方などが、今のベースになっている。
 これまでのテストをもとにできたのが、ビジネスインテリジェンス。データプールを作り、現在も商品の方向性、人事、マニュアルなどの解析をしている。

-未曾有の事態に変化を起こすことに抵抗は

 勇気がいるが、それが好き。私は社長就任時に「理念以外変えます」と会長の前で宣言している。会長もそれを受け入れてくれるなど好条件が揃っていた。
 ただ、変えるには時間がかかる。もともとは8年計画としていたが、なかなか進まなかった。大きく変わり始めたのは、ようやく8年過ぎたあたりから。それでもやっぱりわからない部分がたくさんある。
 2代目の就任期間は平均して短いと言われるが、それでは何も気付かず何もできない。2代目の役割は花咲かせることではない。創業者が一気に立ち上げたら、実は穴だらけで土台はぐらぐら。私はそこに石を入れる役割だと思っている。

(続く)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2021年6月22日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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