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理研数理・江田社長 独占インタビュー(後編)「富岳」の民間利用を促進する

―スパコン「富岳」の活用は

 最近の分かりやすい例でいえば、「富岳」コンピュータを使った飛沫の拡散シミュレーションがある。新型コロナウイルスの感染拡大を抑制する為に、大きな貢献があったと評価している。
 治療薬候補の同定においても、「富岳」だから実現できる研究も進んでいる。
 今後は、これらの成果が、さまざまな施設や空間、商品の開発に利用されていくものと期待している。
 「富岳」は、昨日まで見えなかった世界をクリアにしている。ニューノーマルの設計図を、私たちに提供してくれるかもしれない。
 但し、これまで「京」や「富岳」の利用は、アカデミアの研究に利用されることが多く、一部の企業を除けば、産業界には縁遠い存在であったと思う。
 行政や理研も、民間企業の利用を促進すべく取組んでいるが、本格化はまだこれからの状況だ。
 このテーマにおいても、理研数理は一翼を担っていきたいと考えている。
 研究で扱うデータは膨大で、ビジネスの世界の「ビッグデータ」は未だスモールかも知れない。だから企業側は、「富岳」の必要性を感じない。それは昨日までは正しい。
 DXは、データミックスの時代でもある。単一企業が保有するデータはスモールでも、掛け合わせることで、計算量も価値も飛躍的に高まる。コミュニティーを作って、共有財産になるイノベーションを起こすべきだ。
 海外では、同一業種でデータを共有して、参加者全員のステージを上げてから、個社が清々しく競争する。日本では、海外企業よりずっとスモールなデータしか持っていないのに、個社で囲い込む。そんな話を聞くことがある。
 この点においても、ルールの整備とマインドチェンジが必要だが、待っていれば確実に日本はDXで不戦敗となる。出来るところ、意志あるところから理研数理はアプローチを行う。

江田社長(後編)

‌インタビューに応じる江田社長

―「富岳」はどうすれば使えるのか

 民間の方が「富岳」を使うにはどうしたらいいか、大部分の人はわからないと思う。多くの関係者が、利用普及に向け苦心されているが、もっとモチベーションを高める仕掛けが必要と考えている。
 「富岳」には、多くの目的や使命があり、民間企業の利用が全てではない。加えて理研数理は、プロバイダーに過ぎないので、全体のストラテジーを語る立場には無い。
 だからこそ、理研数理は、マネタイズにこだわりたい。売りたいから商品性や市場性、プロモーションをしっかり考える。マネタイズをしっかりやって、利用者を増やしていきたい。今は、その準備期間なので、個別のお引き合いに対応している。
 「富岳」は日本全体の計算機リソースの4割に相当する。新型コロナウイルスに限らず、「富岳」ゆえに可視化出来る世界がある。これから沢山の人類史上初が発表されていくものと期待している。
 国民の共有財産として、もっと皆さんに身近に感じていただき、企業のイノベーションツールとして認識してもらえるよう取組んで行く。

―IT技術と数理科学のシナジーについて

 データ分析だけでは経済価値は実現しない。その結果を最適化して、効用を最大化する為の仕掛けが別途必要になる。
 DXをデータサイエンスとイコールだと考える方もいるが、個社で大切なのは、むしろ業務への最適化とシステム実装の方だ。
 「うちはデータを持っていないので、DXはまだ先」は、あり得ない。オープンデータ・知財であっても、自社に適用出来る素材は沢山ある。数理の最適化設計と、とにかく迅速なシステム開発がお客様とベンダーのこれからの共通テーマだ。
 理研数理も、このような素材を広く提供していきたい。例えば、私たちが研究開発を進めている業況変化予測は、適用範囲をお客様と一緒に広げている。私たちは当初、金融機関の与信管理にその可能性を認めていた。ところがお引き合いいただく大半は、非金融のお客様で、ターゲットマーケティングが中心だ。なるほどこれまで営業活動は、非科学的だったので、DXのテーマだらけだ。
 私は、理研数理とJSOLの二足の草鞋で、DXのダイナミズムを日々感じられていることを本当に幸福だと感じている。
 IT業界は必ず二極化すると実感している。当面は従来業務の需要が旺盛なので、同業者の多くは、絶対的な変化に気づかないかもしれない。数理科学を用いてROIを提案できるか、工数と単価の見積りに終始するか、モデルもスキルも別物になっていく。

―これからの時代に必要とされる人材は

 今はデータサイエンティストという職業が給与面でも優遇されているが、むしろ必要なのは、DXでお客様や自社の業績をどう高めていくか考察出来るアナリストやコンサルタントの方だと思う。
 これからの時代、「何を実現したいか」を常に考えている社員がいることが重要だと思う。意外かも知れないが、そんな社員は殆どいない。
 「何をしたいか」「自分がどうなりたいか」を考えている社員は、沢山いる。但しそれは、会社から与えられることへの期待がベースになっていると思う。これは、不確実性を回避することが、何より重要だった「失われた期間」に熟成されたマインドだ。
 若者は、私たちの世代より圧倒的な情報量の中にいる。SNS等で日常と異なる世界に交わる機会も多い。
 自社のことしか知らない、同業の慣習を疑わない私たちと比べ、イノベーションのポテンシャルはそもそも高い。
 経営者自らが、実現したい未来をはっきりと宣言することが起点になると思う。「DXで何かやれ」ではダメだ。
 実現したい未来を語り合う社員が多い企業は、DX下の強者になると考える。解決しなければならない現在を、沢山抱えた国なのだから、極めて確実性の高い予測だ。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2021年6月15日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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