• TSRデータインサイト

2020年度 「負債1,000万円未満の倒産」調査

 2020年度(20年4月‐21年3月)の負債1,000万円未満の企業倒産は、2月までの11カ月で563件(前年同期比21.3%増)に達した。2000年度以降で最多の2009年度(566件)を抜き、最多記録を更新することが確実になった。負債1,000万円以上の企業倒産が歴史的な低水準をたどるなか、支援効果が行き渡らない、小・零細規模の苦境が浮き彫りになった。
 産業別で最も多かったのは、新型コロナ感染拡大の影響が深刻な飲食業を含むサービス業他の273件(前年同期比35.8%増)。負債1,000万円未満の倒産の約5割(構成比48.4%)を占めた。
 業種別では、コロナ禍で休業や時短営業が直撃した飲食業(55→95件)、医療,福祉事業(23→31件)が増加した。一方、リモートや在宅勤務の広がりで巣ごもり需要が恩恵となった飲食料品小売業(19→10件)は減少した。
 原因別の最多は、「販売不振」の416件(構成比73.8%)。業歴が浅く、事業環境の変化への耐性が乏しい「事業上の失敗」は29件発生している。
 形態別は、破産が545件(前年同期451件)で、約9割(構成比96.8%)を占めた。一方、再建型の民事再生法は12件(同2.1%)にとどまり、小規模事業者の経営再建の難しさを示している。
 1月に再発令された緊急事態宣言が1都3県で再延長され、コロナ禍の収束が見えないなか、小・零細規模の経営体力は消耗している。国や自治体、金融機関による資金繰り支援策が奏功し、負債1,000万円以上の企業倒産は低水準をたどるが、水面下では負債1,000万円未満の倒産が過去最多をうかがう。小・零細企業、商店に寄り添った、すそ野を広げた支援策が急がれる。

  • 本調査は2020年度(2020年4月-2021年3月)で、2021年2月までに全国で発生した企業倒産(法的、私的)のうち、通常の「倒産集計」(負債1,000万円以上)に含まれない負債1,000万円未満の倒産を集計、分析した。

年度倒産 最多件数を更新、初めて600件台に乗せる可能性も

 2020年度の負債1,000万円未満の企業倒産が、2月までの11カ月間で累計563件(前年同期比21.3%増)と急増している。2000年度以降で最多の2009年度(566件)を上回ることが確実で、初めて600件台に乗せる可能性も出てきた。
 四半期別では、初の緊急事態宣言の発令で外出自粛、営業時短などが直撃した2020年4-6月期は168件(前年同期比51.3%増)と急増、7-9月期も187件(同36.4%増)と大幅に増えた。
 「Go To キャンペーン」が始まった10-12月期は141件(同7.6%増)と増加率が縮小し、2021年1月は33件(前年同月比29.7%減)、2月34件(同10.5%減)と減少に転じた。ただ、緊急事態宣言の再発令や後継者問題など経営課題を抱えるなか、支援策の副作用で過剰債務に陥り、コロナ禍の厳しい経営環境で業績不振から抜け出せない小・零細企業は多い。

1000万未満

産業別 10産業のうち、8産業で増加

 産業別では、小売業、不動産業を除く8産業で、前年同期を上回った。
 最多は、サービス業他の273件(前年同期比35.8%増)。倒産に占める構成比は48.4%で、約5割を占めた。「食堂,レストラン」(14→21件)、「酒場,ビヤホール」(11→16件)、「バー,キャバレー,ナイトクラブ」(6→20件)などの飲食業で増加した。
 以下、建設業80件(前年同期比6.6%増)、小売業59件(同10.6%減)と続く。
 減少率が最も高い小売業は、「織物・衣服・身の回り品小売業」(10→12件)が増加する一方、「飲食料品小売業」(19→10件)が減少した。

形態別 9割以上が消滅型の破産

 形態別の最多は、破産が545件(前年同期比20.8%増)。倒産に占める構成比は96.8%(前年同期97.1%)で、前年同期より0.3ポイント低下した。
 次いで、「民事再生法」が12件で、すべてが個人企業の小規模個人再生手続きだった。このほか、「取引停止処分」「特別清算」が各3件。
 負債1,000万円未満は、小・零細企業がほとんど。企業体力もぜい弱で、業績低迷から抜け出せず新型コロナによる業況悪化も加わり、消滅型の破産を選択しており、再建の難しさを示している。また、長年にわたり休眠状態が続き、個人破産にあわせて法人を処理するケースも散見される。

原因別 販売不振が7割以上

 原因別の最多は、「販売不振」の416件(前年同期比27.2%増)。倒産に占める構成比は73.8%(前年同期70.4%)で、前年同期より3.4ポイント上昇。
 次いで、「他社倒産の余波」が51件(前年同期比±0.0%)。
 「事業上の失敗」が29件(同3.3%減)。業歴が浅く、事業基盤の構築途上で業績低迷から抜け出せなかった企業も多い。
 このほか、「既往のシワ寄せ(赤字累積)」が23件(同64.2%増)。また、代表者の死亡・病気などを含む「その他」は22件(同4.7%増)だった。
 『不況型』倒産(既往のシワ寄せ+販売不振+売掛金等回収難)は442件(前年同期比29.2%増)で、構成比は約8割(構成比78.5%)だった。

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

「社長の出身大学」 日本大学が15年連続トップ 40歳未満の若手社長は、慶応義塾大学がトップ

2025年の社長の出身大学は、日本大学が1万9,587人で、15年連続トップを守った。しかし、2年連続で2万人を下回り、勢いに陰りが見え始めた。2位は慶応義塾大学、3位は早稲田大学と続き、上位15校まで前年と順位の変動はなかった。

2

  • TSRデータインサイト

内装工事業の倒産増加 ~ 小口の元請、規制強化で伸びる工期 ~

内装工事業の倒産が増加している。業界動向を東京商工リサーチの企業データ分析すると、コロナ禍で落ち込んだ業績(売上高、最終利益)は復調している。だが、好調な受注とは裏腹に、小・零細規模を中心に倒産が増加。今年は2013年以来の水準になる見込みだ。

3

  • TSRデータインサイト

文房具メーカー業績好調、止まらない進化と海外ファン増加 ~ デジタル時代でも高品質の文房具に熱視線 ~

東京商工リサーチ(TSR)の企業データベースによると、文房具メーカー150社の2024年度 の売上高は6,858億2,300万円、最終利益は640億7,000万円と増収増益だった。18年度以降で、売上高、利益とも最高を更新した。

4

  • TSRデータインサイト

ゴルフ練習場の倒産が過去最多 ~ 「屋外打ちっぱなし」と「インドア」の熾烈な競争 ~

東京商工リサーチは屋外、インドア含めたゴルフ練習場を主に運営する企業の倒産(負債1,000万円以上)を集計した。コロナ禍の2021年は1件、2022年はゼロで、2023年は1件、2024年は2件と落ち着いていた。 ところが、2025年に入り増勢に転じ、10月までの累計ですでに6件発生している。

5

  • TSRデータインサイト

解体工事業の倒産が最多ペース ~ 「人手と廃材処理先が足りない」、現場は疲弊~

各地で再開発が活発だが、解体工事を支える解体業者に深刻な問題が降りかかっている。 2025年1-10月の解体工事業の倒産は、同期間では過去20年間で最多の53件(前年同期比20.4%増)に達した。このペースで推移すると、20年間で年間最多だった2024年の59件を抜いて、過去最多を更新する勢いだ。

TOPへ