• TSRデータインサイト

【取材の周辺】追跡取材1年半、事業譲渡の「フタバ図書」 これまでを振り返る

 (株)フタバ図書(TSR企業コード:740122053、広島市中区)は、1年半前から揺れ続けた。
 フタバ図書は広島県など山陽3県を中心に、東京都や埼玉県にも出店、ピーク時は60店舗以上の書店を展開していた。東京商工リサーチ(TSR)に公開した決算書では、ピークの2010年3月期の年商は約400億円で、国内では大手の老舗書店と評されていた。
 書籍販売だけでなく、レンタル店、ネットカフェ、ゲームセンター、コンビニエンスストア、居酒屋、ブランド品買取り店、フィットネスクラブなど、金融機関から次々と資金を調達し、積極的に事業を拡大した。ところが2019年6月、一部店舗で雑誌などの入荷遅延や取引先への支払が遅れる事態が発生した。フタバ図書は、「物流トラブル」、「システム障害」と説明したが、取引先や顧客の間に動揺が広がった。TSR本社情報部と広島支社情報部は、「揺れる」フタバ図書を追い続けた。

約40年の粉飾決算

 TSRは取材を進める中で、フタバ図書の取引先から「約40年間の粉飾決算」の裏付けを得た。これとは別に、フタバ図書がTSRに公開していた決算内容が単体でなく、グループ全体の数値だったことをフタバ図書が告白した。その頃、フタバ図書はバンクミーティングを開催、金融機関に長年の粉飾決算を認めたうえで、支援を要請した。
 だが、不信感は根深く、調整は難航した。弁護士やコンサルタント会社はフタバ図書の存続を目指し、店舗の閉鎖など経営改善を進めつつ金融機関への説明を続けた。
 出版不況が叫ばれるなど、インターネット通販や電子書籍との競争は厳しさを増している。フタバ図書の再建方針がなかなか明らかにされず、不安と不信の声が高まっていた。フタバ図書の存続は難しいとの情報さえ入り始めていた。
 ただ、コロナ禍の“巣ごもり需要”や「鬼滅の刃」などコミック雑誌の人気も僥倖(ぎょうこう)となって背中を押した。
 金融機関の一部では、フタバ図書の過去の経営姿勢や取引に不信感が根強く、ギリギリまで交渉は続いた。計画の柱である事業再生ADRを進めるための節目が今年1月末だったとみられる。ここに来て、フタバ図書の動向が再び注目されていた。


 広島県が出資するひろしまイノベーション推進機構や地元企業、出版取次、大手書店などの支援で「フタバ図書」の名前は残る。放漫経営を長年続けたフタバ図書の事業継続に向け、多くの関係者が時間を割き、交渉を続けた。
 過去の決算処理について、公の場で説明されることはなかったが、過去の知名度に安住した経営との決別は必要だ。再生の道のりは端緒についたばかりで、低下した信頼回復は容易でない。フタバ図書の再生は、地域企業の再生の見本となるのか、事業再生ADRの真価も期待されている。

フタバ図書

‌フタバ図書の本社(TSR撮影)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2021年2月1日号掲載予定「取材の周辺」を再編集)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

2024年度「人手不足倒産予備軍」  ~ 今後は「人材採用力」の強化が事業継続のカギ ~

賃上げ圧力も増すなか他社との待遇格差で十分な人材確保ができなかった企業、価格転嫁が賃上げに追い付かず、資金繰りが限界に達した企業が事業断念に追い込まれている。  こうした状況下で「人手不足」で倒産リスクが高まった企業を東京商工リサーチと日本経済新聞が共同で分析した。

2

  • TSRデータインサイト

2025年1-11月の「人手不足」倒産 359件 サービス業他を主体に、年間400件に迫る

深刻さを増す人手不足が、倒産のトリガーになりつつある。2025年11月の「人手不足」倒産は34件(前年同月比70.0%増)と大幅に上昇、6カ月連続で前年同月を上回った。1-11月累計は359件(前年同期比34.4%増)と過去最多を更新し、400件も視野に入ってきた。

3

  • TSRデータインサイト

【社長が事業をやめる時】 ~消えるクリーニング店、コスト高で途絶えた白い蒸気~

厚生労働省によると、全国のクリーニング店は2023年度で7万670店、2004年度以降の20年間で5割以上減少した。 この現実を突きつけられるようなクリーニング店の倒産を聞きつけ、現地へ向かった。

4

  • TSRデータインサイト

2025年1-11月の「税金滞納」倒産は147件 資本金1千万円未満の小・零細企業が約6割

2025年11月の「税金(社会保険料を含む)滞納」倒産は10件(前年同月比9.0%減)で、3カ月連続で前年同月を下回った。1-11月累計は147件(前年同期比11.9%減)で、この10年間では2024年の167件に次ぐ2番目の高水準で推移している。

5

  • TSRデータインサイト

地場スーパー倒産 前年同期の1.5倍に大幅増 地域密着型も値上げやコスト上昇に勝てず

2025年1-11月の「地場スーパー」の倒産が22件(前年同期比46.6%増)と、前年同期の約1.5倍で、すでに前年の年間件数(18件)を超えた。