20年3月期決算上場企業「役員報酬1億円以上開示企業」調査【最終】
上場企業の2020年3月期決算で、1億円以上の役員報酬の開示は256社、人数は531人だった。
3年連続で増加をたどり、過去最多を記録した前年同期より、社数で25社(前年同期281社)、人数で40人(同571人)、それぞれ減少した。前年同期を下回ったのは、社数が4年ぶり、人数が8年ぶり。
役員報酬額のトップは、住友不動産の高島準司元会長の22億5,900万円。報酬内訳は、基本報酬6,500万円、退職時報酬21億9,400万円で、過年度に留保されていた退職時報酬が支払われた。
上位10人では、外国人役員が過半数の6人を占めた。グローバルな人材確保で報酬の高額化が定着しつつあることを示している。
開示人数の最多は、日立製作所の18人(前年同期17人)で、初のトップとなった。
役員の個別開示制度は、2010年3月期から報酬1億円以上が開示されている。2010年3月期から11年連続で開示された役員は62人で、全体の531人の1割(構成比11.6%)にとどまった。
2017年3月期以降、3年連続で開示社数・人数とも最多を更新してきた。しかし、2020年3月期は、グローバル展開する企業を中心に世界経済の減速や米中貿易摩擦、さらに新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、企業業績は停滞し、人数・社数ともに減少した。
コロナ禍が長期化すると一層の業績悪化も危惧され、2021年3月期の役員報酬1億円以上の開示社数、人数は2年連続で減少する可能性もある。
- ※本調査は、全証券取引所の上場企業2,403社(うち、上場廃止10社)を対象に、2020年3月期の有価証券報告書で役員報酬1億円以上を個別開示した企業を集計した。上場区分は2020年9月30日現在。
- ※ 2010年3月31日に施行された「企業内容等の開示に関する内閣府令の改正」で、上場企業は2010年3月期決算から取締役(社外取締役を除く)、監査役(社外監査役を除く)など、役職別及び報酬等の種類別の総額、提出企業と連結子会社の役員としての連結報酬1億円以上を受けた役員情報の有価証券報告書への記載が義務付けられた。内閣府令改正は、上場企業のコーポレート・ガバナンス(企業統治)に関する開示内容の充実を目的にしている。
役員報酬額トップ 住友不動産 高島準司元会長の22億5,900万円
2020年3月期の役員報酬の最高は、住友不動産の高島準司元会長の22億5,900万円だった。
報酬内訳は、基本報酬6,500万円のほか、退職時報酬21億9,400万円で、過年度に留保されていた退職時報酬が大きかった。
2位は、ソフトバンクグループのマルセロ・クラウレ副社長COOの21億1,300万円(前年同期18億200万円)。SB Group US Inc.とスプリントからの報酬で、基本報酬15億2,700万円、株式報酬3億300万円ほか。
3位は、武田薬品工業のクリストフウェバー社長の20億7,300万円(同17億5,800万円)。基本報酬は2億7,300万円だったが、賞与6億7,500万円、長期インセンティブ11億2,500万円などの業績連動報酬と非金銭報酬が大半を占めた。
4位はソフトバンクグループのラジープ・ミスラ副社長の16億600万円(同7億5,200万円)、5位はトヨタ自動車のDidier Leroy取締役の12億3,900万円(同10億4,200万円)の順。
日本人役員は、役員退職慰労金(引当金繰入額を含む)で多額の報酬を得るケースが多い。
一方、外国人役員は、賞与や業績連動報酬のほか、ストックオプションや株式報酬など非金銭報酬で多額の報酬を得るケースが目立つ。最近は退職慰労金制度を廃止する企業も増え、グローバル企業で多くみられる業績連動の報酬体系に移行しつつある。
報酬額10億円以上は8人(前年同期8人)、1億円以上2億円未満は385人(同424人)だった。
2年連続で開示された390人のうち、213人(構成比54.6%)は報酬総額が増加した。
個別開示制度が始まった2010年3月期以降、11年連続の開示は62人(同11.6%)だった。
業種別 製造業が137社で最多
業種別で、社数は製造業が137社(構成比53.5%、前年同期148社)で最多。次いで、運輸・情報通信業27社(同10.5%、同28社)、卸売業20社(同7.8%、同24社)の順。
開示人数は、最多が製造業の272人(同51.2%、同318人)。以下、金融・保険業63人(同11.8%、同48人)、運輸・情報通信業52人(同9.7%、同52人)と続く。
製造業では、日立製作所18人(同17人)、ファナック8人(同10人)、東京エレクトロン8人(同9人)と、上位に名を連ねた。また、イビデン2人のほか、鈴茂器工、沢井製薬、ヘリオステクノホールディングが各1人など、2020年3月期に初めて個別開示に登場した。ただ、前年同期に21人を開示した三菱電機は開示人数が1人と、大幅に減少した。
金融・保険業は63人(前年同期48人)と、大幅に増加した。三菱UFJフィナンシャル・グループ10人(同8人)、 野村ホールディングス7人(同1人)、大和証券グループ本社が前年同期と同数の5人。三菱UFJフィナンシャル・グループや、三井住友フィナンシャルグループ(開示人数3人)で個別開示があったが、みずほフィナンシャルグループは2年連続で個別開示がなかった。
企業別 日立製作所が18人で初のトップ
役員報酬を開示した256社のうち、人数の最多は日立製作所の18人(前年同期17人)だった。2017年3月期まで1ケタにとどまったが、2018年3月期以降は18→17→18人で推移し、開示制度が始まった2010年3月期以降、初めてトップとなった。前年同期トップの三菱電機は1人(同21人)に大幅に減少した。
2位は、三菱UFJフィナンシャル・グループの10人で、前年同期8人から2人増。3位は8人のファナック(前年同期10人)、東京エレクトロン(同9人)、三菱商事(同8人)、三井物産(同7人)の4社。グローバル展開する電機メーカーや商社のほか、金融などが上位に顔を揃えた。
開示人数別は、最多は1人の137社(構成比53.5%、前年同期162社)。2人が62社(同24.2%、同63社)、3人が25社(同9.7%、同23社)。10人以上は2社で、前年同期3社から1社減少した。
2010年3月期決算から役員報酬の開示制度が始まり、2020年3月期で11回目を迎えた。
2019年3月期は、グルーバル展開する企業を中心に好業績をあげ、過去最多の社数・人数となったが、2020年3月期は米中貿易摩擦や人件費の上昇、新型コロナ感染拡大で業績が低迷。東日本大震災の影響を受けた2012年3月期以来、8年ぶりに社数・人数ともに前年同期を下回った。
役員報酬の個別開示制度は、役員報酬のあり方をステークホルダーに説明する意識が年々高まり、同業他社と役員報酬額の比較が可能になると同時に、株主や従業員などステークホルダーへの説明責任や報酬額の基準が明確になり、評価される面も多い。
役員報酬は当初、業績などの実績より慰労への対価で多額の役員退職慰労金の支払があった。しかし、ここ数年は企業が退職慰労金制度を廃止し、業績に連動した報酬体系に移行している。このため、報酬額が大きな役員ほど、賞与や業績連動報酬が増加し、さらにストックオプションや株式報酬などの非金銭報酬も増えてきた。
グローバル化が進むなか、外国人役員を登用するために高額報酬につながる側面も大きい。
コーポレートガバナンス(企業統治)やコンプライアンス(法令順守)への意識が高まり、役員報酬の決め方や報酬額の妥当性などの説明責任はより重要になってきている。