森トラスト・伊達美和子社長 「コロナ禍でもオフィス需要は根強い」独占インタビュー(前編)
「新型コロナウイルス」感染拡大の影響を受け、好調だった都心部のオフィス市場に変調の兆しが見られる。リモートワークの進展や東京五輪の開催延期などで、「不動産」を取り巻く環境は様変わりしている。
東京商工リサーチ(TSR)は、オフィスビル、ホテル開発で強気の姿勢を貫く総合デベロッパー、森トラスト(株)(TSR企業コード:291302319、東京都港区)の伊達美和子社長に今後の不動産市況や、自社の展望を聞いた。伊達社長へのインタビューは2019年4月に次いで2回目。
-コロナ禍でテレワークが浸透している。不動産市況への影響は?
コロナによって、テレワークを多くの人が体験し、「まあ使えるね」となった。結果的に選択肢が増え、働き方も多様化されていくので全員が都心である必要がなくなってくる。100%いなくなるわけではないが、多少は減るだろう。住宅がオフィスに変わったり、サテライトオフィスができてくる。そのバランスが9対1なのか、7対3なのか、5対5なのかは、これからの社会の在り様しだい。ただ、都心部で真っ先になくなるのは、“立地が悪い”、“仕様が悪い”など、競争力の低いところだ。
-価格面や立地の悪いもので差がつく?
これまでの空室率1%台は、「空室がほぼない」こととイコールだった。従って、全体に賃料が上がっていたのは事実。今年はそれが少し緩やかになり、去年ほど上がる局面はないと思っているが、極端な変化はないとみている。リーマン・ショックの時期には空室率は7~8%まで上昇した。当時は「(価格が)すごく下がったなぁ」と思ったが、(今回は)そこまではないので、維持されているという感じだ。
-リーマン・ショック時ほどにはならない?
リーマンの時は、資金ショートで割と大きい企業が倒産した。それに対して、(今回は)資金面でもセーフティネットがある。リーマンの時は、新規の需要もパタッと止まった。当時はテナントを誘致しても、「入居希望が誰も来ません」という状態になった。
それに対して、今は(コロナ禍で)コミュニケーションがしにくいとか、意思決定に時間がかかることがあり、契約の動きは少し緩やかになった。だが、引き合いは引き続きあり、コロナ禍でも契約をしている。また、入居に向かって新規工事の手配も進んでいる。
-リーマン時とは質が違う?
オフィスはまだそれほど影響は受けていない。入居している企業の事業自体が景気の煽りを直撃するような企業の場合は確かに厳しい。だが、そういう企業が都心3区(千代田、港、中央)に多いかというと、そうでもない。ヘッドクォーター(本社・本部)がビジネス街である必要がない企業も多いこともあるだろう。また、ある程度の規模の面積を持っている企業の場合、これは(各企業の)体力の問題になる。
当社もコロナの影響でホテルを一時期クローズした。当然、収支は悪くなるし、単体でやっていたらかなり大変だったと思うが、それを(グループ)全体の体力でカバーできた。いざという時のために体力をどのぐらい維持できるか、それが経営ではないか。ぎりぎり目一杯やってはいけない。
「ホテル論」でいえば固定費を最大にしていると、最大稼働を想定しながら運営しているので、少し崩れたときに持たなくなる。ホームランを狙うのではなく、ちゃんとヒットが出るぐらいの環境でないといけない。「うまくいったらホームラン」という構えが大事だ。経済の浮き沈みや天災、今回の(コロナ禍の)ような事態も起きるし、戦争も含め何が起きるか分からない。100%未来は見えないのだから。
-サテライトオフィスの流れは一過性か?
サテライトなり、テレワークなり、今回、通勤しなくて済む職住近接の便利さを実感したと思う。ただ、今は限定された社会の中で、それを実行しているにすぎない。では、出勤がフリーとなったら、ずっと「家に籠っていますか」と問われる。都心で働く人の中には、「終業後は少し小洒落たレストランで食事をしたい」と思っている人も少なくない。
結局、オフィスも住居の立地戦略と同じで、人は“人との関わり”の中で生きている。ある程度の環境が整い、コミュニティーが存在しないと人は住まない。それらを踏まえると、選択肢は増えてはくるが、“選択できるエリア”は限定的になってくる。どちらにしろ、供給する側は選択される場所を作らなければサテライトオフィスの話は成立しない。
-業務がAI化されていく/span>
定型業務がAI化されやすい。定型業務ほど自動処理化されてなくなっていく。創造力がさらに必要となり、過去のデータでは見いだせないものを作っていくことに価値が置かれる。企業として新しいものを生み出したいから、創造力のある人材を必要とする。その環境をつくるのが組織であるのは勿論だが、オフィスも重要だ。そのような理由からクリエイティブオフィスを虎ノ門に作り対応している。
-オフィスニーズの変化は?
企業から見ると、もしすべての業務がリモートで済むとしたら、企業に所属している必要がなくなる。100%自由になったからといって、そういう状態は企業の成長力や競争力を向上させるとは思わない。今、リモートでできるものは、ほぼ既存の業務。ただ、それを発展的なものにするには目詰まりするし、限界もあり生産性を悪くする。きちんと集まって議論をする必要がでてくる。
テレワークをどのように恒常的に導入すべきか否かを検討するのと同時に、ソーシャルディスタンスを考え「オフィスを拡充したい」という企業もある。レイアウトを大々的に変更する、会社への帰属意識やアイデンティティ共有を図るなど、さらなる成長を考える企業は、オフィスの活用に積極投資する動きも出ている。

記事の引用・リンクについて
記事の引用および記事ページへのリンクは、当サイトからの出典である旨を明示することで行うことができます。
(記載例) 東京商工リサーチ TSRデータインサイト ※当社名の短縮表記はできません。
詳しくはサイトポリシーをご確認ください。
あわせて読みたい記事
この記事に関するサービス
人気記事ランキング
「退職代行」からの連絡、企業の3割取り合わず 有給や退職日の交渉などの通知を3割が経験
ことし2月、大手退職代行サービスの代表らが弁護士法違反の疑いで逮捕された。4月に入り、退職代行の話題も出始めたが、弁護士や労働組合以外の「退職代行」業者から連絡があっても、3割(30.4%)の企業が非弁行為が含まれる可能性があり、取り合わないことがわかった。
2
「マッサージ業」の倒産が過去30年で最多の108件 大手チェーン、リラクゼーション店と競合激化
店舗乱立による過当競争や光熱費、人件費の上昇で「マッサージ業(療術業)」の倒産が増勢をたどっている。 2025年度に倒産した「マッサージ業」は、1996年度以降の30年間で最多だった2019年度の98件を抜き、過去最多の108件(前年度比14.8%増)に達した。
3
2025年度の「医療機関」倒産 20年で最多の71件 クリニック・歯科医院の淘汰が加速、「破産」が97%超
2025年度に倒産した病院・クリニック(診療所)・歯科医院を合計した「医療機関」は、71件(前年度比20.3%増)だった。2006年度以降の20年間では、2024年度の59件を大幅に上回り、最多を更新した。
4
「士業」の倒産、2年連続最多
「士業」の倒産が目立ってきた。給付金の不正受給の指南や、顧客から預かった資金の流用など、近年はコンプライアンス違反が原因で倒産するケースも目立つ。
5
食品メーカー 売上高は値上げで24兆円に 利益は物価高に値上げが追い付かず二極化
肉・魚加工や菓子類などの「食品メーカー」4,994社の2025年の業績は、売上高24兆2,824億円(前年比3.4%増)、利益は8,806億円(同9.5%減)だった。コロナ禍以降の5年間で売上高は最高を記録した。ただ、利益はコスト上昇で減益の構図が鮮明となった。