• TSRデータインサイト

「廃業検討率」8.5%の意味するもの

 中小企業(資本金1億円未満、個人企業等)の「廃業検討率」が8.5%だったことが波紋を広げている。
 東京商工リサーチ(TSR)が7月28日~8月11日に実施したアンケート調査で、「コロナ禍の収束が長引いた場合、廃業(すべての事業を閉鎖)を検討する可能性」について質問したところ、「ある」と回答した中小企業は8.5%(9,644社中、821社)だった。
 これは全国の約358万社の中小企業(経済センサス、総務省・経済産業省)を基にすると、単純計算で30万社を超える企業が廃業の危機に瀕していることを示す。

 アンケート回答の業種別では、飲食店の廃業検討率が4割近く(38.2%)に達する。また、旅行や葬儀、結婚式場などを含む「その他の生活関連サービス業」は33.9%、宿泊業は26.4%で、個人向けサービスを展開する業種の廃業検討率が平均を大幅に上回っている。
 先の質問に「ある」と回答した中小企業のうち、廃業検討の時期を尋ねると「1年以内」との回答が44.9%に達した。これは、中小企業の1年以内の廃業検討率は3.8%の計算になる。「雇用保険事業年報」(厚生労働省)によると、2018年度の廃業率は3.5%で、今回の廃業検討率3.8%は若干高いが、コロナ禍で大幅に悪化したとは考えにくい数値である。
 単純に数値だけをみると、さほど大きな差はないが、実は「雇用保険事業年報」の廃業率は事業所単位の集計だ。一方、TSRのアンケート調査は企業単位を対象にしている。事業所の閉鎖は、事業再構築(リストラ)の流れで比較的容易なため、「雇用保険事業年報」の廃業率はTSRの廃業検討率と単純比較することはできない。
 また、TSRアンケートの母集団は、調査員が普段接点のある企業が中心で、企業間取引が活発であるなどのバイアスがかかっている。特に、零細の飲食店、小売店は新規参入と退場のサイクルが比較的早く、また、一般個人を対象とした商売で網羅率が低くなりがちだ。逆に言えば、TSRのアンケート結果は、実際に動いている中堅クラスから中小企業の動きを反映したものといえる。
 こうしたことを加味すると、1年以内の廃業検討率3.8%は決して楽観できる数値でなく、「検討」が「実行」に移行しないようきめ細やかで迅速な支援が求められる。

廃業検討率


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2020年8月24日号掲載予定「SPOT情報」を再編集)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

2025年1-9月の「人手不足」倒産が過去最多 「従業員退職」が前年の1.6倍増、初の年間300件超へ

2025年9月に「人手不足」が一因となった倒産は、調査を開始した2013年以降では月間最多の46件(前年同月比109.0%増)を記録した。また、2025年1-9月累計も、過去最多の285件(前年同期比31.3%増)に達し、人手不足はより深刻さを増していることがわかった。

2

  • TSRデータインサイト

ケーキや和菓子は「高値の花」に、スイーツ店が苦境 倒産は過去20年で最多ペース、競合商品も台頭

街のスイーツ店が苦境に陥っている。材料コストの上昇、酷暑、人手不足が重なり、商品値上げによる高級化も購入機会の減少につながったようだ。2025年1-9月の菓子製造小売の倒産は、過去20年で最多の37件に達した。

3

  • TSRデータインサイト

2025年1-9月「後継者難」倒産が過去2番目 332件 高齢化が加速、事業承継の支援が急務

代表の高齢化が進み、後継者が不在のため事業に行き詰まる企業が高止まりしている。2025年1-9月の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)は332件(前年同期比4.5%減)で、2年ぶりに前年同期を下回った。だが、2025年は過去最多だった前年同期の348件に次ぐ、過去2番目の高水準だった。

4

  • TSRデータインサイト

2025年 全国160万5,166社の“メインバンク“調査

全国160万5,166社の“メインバンク”は、三菱UFJ銀行(12万7,264社)が13年連続トップだった。2位は三井住友銀行(10万1,697社)、3位はみずほ銀行(8万840社)で、メガバンク3行が上位を占めた。

5

  • TSRデータインサイト

2025年度上半期の「円安」倒産30件 仕入コスト上昇が卸売業を直撃

2025年度上半期(4-9月)の「円安」関連倒産は、30件(前年同期比31.8%減)だった。上半期では、2022年度以降の円安では前年度の44件に次いで、2番目の高水準になった。

TOPへ