• TSRデータインサイト

【取材の周辺】先行きに明るさか、新型コロナ破たん企業に「事業譲渡」の動き

 2月21日に中国からの団体ツアー客の減少で事業を停止した(株)冨士見荘(愛知県、3月破産)が、国内初の「新型コロナウイルス」関連破たんと話題になってから3カ月。経営破たんは、累計200件を超えた。
元々、経営者の高齢化や人手不足などで経営が悪化していたところに、新型コロナが追い打ちをかけたケースが大半を占める。破たんした企業の多くはスポンサーが現れず、清算される運命にある。
だが、アフターコロナを見据え、新型コロナで破たんした企業の有望な事業を引き受けるケースが出始めた。事業譲渡の現場を、東京商工リサーチ(TSR)情報部が取材した。

破産から一転、事業承継による民事再生へ

 パチンコホール運営の(株)赤玉(愛知県)は、新型コロナ感染拡大で来店客が急減し、休業要請で休業していたが、最終的には破産を選択した。管財人に就いた三森仁弁護士(あさひ法律事務所)は、パチンコホールの事業承継の可能性を評価し、5月29日、破産から民事再生法の適用に切り替えた。
関係者は、「緊急事態宣言の解除により、先が見えたことで同業者が(譲受を)検討しやすくなったのではないか」と背景を推測する。

上場企業の事業譲受が目立ち始めた

 6月1日、東証1部で飲食チェーン展開の(株)東京一番フーズ(新宿区)が、出店していたショッピングセンターの新型コロナによる休業で行き詰まった(株)豊田(豊島区、破産申請へ)から、寿司チェーン店「寿し常」などの一部店舗を譲り受けるスポンサー契約を締結した。
東京一番フーズの担当者は、「新型コロナで外食産業の環境は変わった。レストランだけでなく、デリバリーやテイクアウト、通販など水産加工品の出口戦略を強固にする必要がある。また、豊田の従業員が希望すれば、弊社で雇用する方針だ。新型コロナで大変な時期だが、人材確保や社会的貢献も重要だ」と事業譲受で成長を目指している。
同日、JASDAQ上場でドライルーブ(固体被膜潤滑剤)製造の東洋ドライルーブ(株)(世田谷区)も、新型コロナで自動車メーカーの工場休止が影響し、売上が3分の1まで落ち込んだ(株)萬松(新宿区、4月破産)の九州事業所の事業譲受に基本合意したと発表した。東洋ドライルーブは販路が重複せず、シナジー効果で事業拡大が期待されるという。

 新型コロナ関連で経営破たんした約200社のうち、スポンサーなどに事業譲渡できた企業はごく少数に過ぎない。
だが、緊急事態宣言の解除後、上場企業を中心に、事業拡大を狙って破たん企業からの事業譲受が動き出している。
新型コロナで譲渡価格が下落していることも追い風だ。それ以上に、きちんと事業を育成してきた企業は、一度躓いてもM&Aや事業譲渡で捲土重来(けんどちょうらい)のチャンスが待っている。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2020年6月5日号掲載予定「取材の周辺」を再編集)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

【破綻の構図】マツオインターナショナル~膨らんだ債務と抜本再生への移行~

婦人服ブランド「ヴィヴィアン タム」「慈雨(じう)」「t.b2」などを展開し、ピーク時には国内外で約400店を構えていたマツオインターナショナル(株)(TSRコード:292635265、以下マツオ)が12月11日、大阪地裁に会社更生法の適用を申請した。

2

  • TSRデータインサイト

交響楽団の収益悪化、来場者戻らずコスト上昇 ~ 綱渡りの自助経営、草の根のムーブメントへの期待 ~

交響楽団が存立の危機に立たされている。多くの交響楽団で収入が落ち込んでおり、赤字が目立つ。会場費や団員などの人件費、楽器の輸送コストなどが上昇のうえ、寄附金や補助金による収入は頭打ちで綱渡りの運営だ。東京商工リサーチは、3期連続で業績が比較できる20団体を調査した。

3

  • TSRデータインサイト

地場スーパー倒産 前年同期の1.5倍に大幅増 地域密着型も値上げやコスト上昇に勝てず

2025年1-11月の「地場スーパー」の倒産が22件(前年同期比46.6%増)と、前年同期の約1.5倍で、すでに前年の年間件数(18件)を超えた。

4

  • TSRデータインサイト

長渕剛さん側、イベント会社の破産申立に続き代表を刑事告訴 ~長渕さん「徹底追求」、イベント会社代表「横領でない」と反論~

歌手の長渕剛さんが代表を務める個人事務所の(株)オフィスレン(渋谷区)が、イベント運営を委託していたダイヤモンドグループ(株)(東京都中央区)の代表を業務上横領罪で刑事告訴したことがわかった。東京商工リサーチの取材で長渕さん側が明らかにした。

5

  • TSRデータインサイト

「ペット・ペット用品小売業」倒産が過去2番目の14件 実質賃金の低迷と物価高がペットの世界にも影響

2025年11月の「ペット・ペット用品小売」の倒産は、1件(前年同月ゼロ)にとどまったが、1-11月累計は14件(前年同期比27.2%増)に達した。

TOPへ