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【取材の周辺】有力テナントの撤退発表から始まったクロサキメイトの終わり

 1月24日、北九州市の百貨店「井筒屋黒崎店」が入居する商業施設を運営していた(株)メイト黒崎(TSR企業コード:880348453、法人番号:2290801010695、北九州市八幡西区)が東京地裁へ破産を申請した。それから4カ月後の5月11日、同地裁は破産開始決定を下した。負債総額は24億6,717万円だった。
 2018年7月、入居していた「井筒屋黒崎店」の突然の撤退発表で、経営の脆さが浮き彫りとなり、破産しか選択肢が残らなかった。

地元に愛される商業施設が一転

 1979年に設立され、商業施設「クロサキメイト」の賃貸管理を手掛けていた。2001年から(株)井筒屋(TSR企業コード:880000759)の「井筒屋黒崎店」がテナントとして入居した。
 JR鹿児島本線の黒崎駅は、乗降客数が九州管内3番(当時)の賑わいをみせていた。乗客や住民、大手メーカーの従業員が利用し、2018年2月期には営業利益1億4,100万円をあげていた。
 しかし2018年7月、突如、井筒屋が「井筒屋黒崎店」を2019年5月31日でクロサキメイトから閉店・撤退すると発表した。
 交渉の末、「井筒屋黒崎店」の完全撤退は免れたものの、営業規模は大幅に縮小。後継テナントもなく、賃料収入は2019年8月以降、半減し現預金の流出を余儀なくされた。
 財務状況が急速に悪化し、新規テナントの入居見込みも立たず、「クロサキメイト」の存続を断念。2020年1月、同年4月末で閉店することを公表した。

建物の評価額は「0円」

 破産事件記録によると、2019年11月末の試算表では、資産は55億6,245万円で、うち建物と土地など有形固定資産が約47億798万円を占める。負債は25億2,567万円だった。
 しかし、クロサキメイトの閉店、解体を前提とした不動産鑑定評価を加味すると、建物の評価額は「0円」、土地も1億8,570万円にとどまる。実態は、14億8,550万円の債務超過に陥っていたことがわかる。
 クロサキメイト閉店を知った債権者から、債権の即時支払いを求められる恐れもあり、支払不能の状態は明らかで、破産申請しか選択肢が残っていなかった。


 「新型コロナウイルス」感染拡大から営業自粛、休業を余儀無くされ、4月の全国百貨店売上は約1,208億円(前年同月比72.8%減)(日本百貨店協会)と急減した。経営体力が衰えた百貨店や商業施設に、新型コロナが追い打ちをかけている。
 地方の一等地に店舗を構える百貨店や商業施設の一部は、解体を前提にすると、資産価値が皆無の不動産があることが今回の破産で浮かび上がった。資産価値が減少した一等地の商業施設の再開発は、地域や自治体などの支援が不可欠になっているのかも知れない。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2020年6月3日号掲載予定「取材の周辺」を再編集)

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