• TSRデータインサイト

【取材の周辺】「倒産か、廃業か、休業か」それが問題だ

 「取引先と連絡がつかなくなった」、「得意先が倒産したようだ」――。東京商工リサーチ(TSR)情報部に日々寄せられるこうした問い合わせの「質」が、新型コロナウイルスが感染拡大して以降、変化している。

 緊急事態宣言後のある日、都内の製造業者について、「昨日まで電話に出たのに、今日になって連絡がつかなくなった」と問い合わせがあった。売掛金も相当額あるようで、「事業を停止するなら、すぐ回収に向かいたい」と切迫した声だった。その日の午後に早速、現地に向かった。
 本社は、都内23区内でも昔ながらの下町風情が残る住宅街にある。創業から長らく一族で経営してきた。代表者は地域活動に積極的で、古くから町内に住む人には「お馴染みさん」的な存在だ。TSRに蓄積された企業情報をみると、代表者は70代と高齢。
 「もしかしたら・・・」の思いで急ぐと、自社ビルに明かりはついておらず、「お休みします」の貼り紙もない。玄関をノックしても応答がない。周囲の会社に話を聞くと、「普段はいるんだけどね」という。向かいの家から、たまたま煙草を吸いに外に出てきた年配の男性に話を聞くと、「休みは土日だよ。変だねえ、コロナだから休んでいるのかもね」と回答。結局、この日は何の手掛かりもなく帰社した。だが、「コロナ(倒産)かも」という、もやもやした気持ちは晴れなかった。
 翌日、再び現地に向かおうとしていたところに連絡が入った。「今日は電話に出て、営業しているそうだよ」。しかも、「昨日はコロナの関係もあって、休みだったんだって」。
 内心、ホッとはしたのも束の間、この時期に買掛金がしっかりある会社に、「この日は休みます」と連絡しないまま休業するのはいかがなものか。違う意味で、複雑な気持ちを抱えた出来事だった。


 別の日、都内のIT企業が、「連絡がつかない。事業をやめたのでは」との問い合わせを受け、現地に向かった。
 本社があるのは都内でも有数の繁華街。住所にあるビルに向かうと、そこはシェアオフィスだった。この会社のホームページから、内装やインテリアにかなりこだわったオフィスを想像していただけに呆気にとられた。
 シェアオフィスの入口ドアはロックされ、中の様子はわからないが静まりかえっていた。入口そばに置かれた内線電話で呼び出すが、コール音が続くばかりで応答はない。
 仕方なく退散しようとしたところ、シェアオフィスを運営する会社の看板が出ており、電話で問い合わせようとした。ところが、平日10時から17時に電話を掛け直すよう促すアナウンス音が流れてきた。平日の昼間に問い合わせているにもかかわらず、だ。
 このIT企業のホームページには、もう一つ住所が記載されていた。ひと駅隣のオフィスに向かった。建物の中に入ることはできないが、別の部屋の内装工事に来ていた業者が「あの部屋にはいま、誰も入っていないよ」と教えてくれた。
 結局、この日は具体的な現状はつかめなかった。在宅勤務、休業、はたまた事業停止、倒産など、可能性はいくつも挙げられる。心配の種は尽きそうにない。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2020年5月25日号掲載予定「取材の周辺」を再編集)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

「リファラル採用」 企業の半数に広がる 定着率はリファラルが新卒、転職エージェントを上回る

東京商工リサーチは、採用に関する企業向けアンケート調査を実施した。人手不足やAI・DXの普及で転職市場の活況が続き、近年はリファラルやアルムナイ採用も広がっている。特に、リファラル採用は、転職エージェントの紹介より従業員の定着率が高いと考える企業が多いことがわかった。

2

  • TSRデータインサイト

大手ホテル好調 客室単価と稼働率が同時上昇 客室単価はコロナ禍の2倍超、稼働率は83.3%

インバウンド需要と国内旅行の復活で、大手ホテルの客室単価と稼働率が、コロナ禍以降で最高を更新した。 ホテル運営の上場12社(13ブランド)の2025年度の客室単価は、1万7,818円(前年度比8.6%増)で前年度より1,424円上昇した。稼働率は83.3%(前年度82.3%)で、高水準を維持した。

3

  • TSRデータインサイト

経営責任を取る事業再生、ジュピターコーヒーは黒字化へ ~ ネクスト・キャピタル・パートナーズ 単独インタビュー ~

2025年度の企業倒産は1万505件(前年度比3.5%増)で、2年続けて1万件を超えた。 こうしたなか、20年を超すファンド運営で事業再生を数多く手掛けてきたのがネクスト・キャピタル・パートナーズ(株)だ。浅野晃司・取締役執行役員に特色や取り組みを聞いた。

4

  • TSRデータインサイト

企業の7.8%で退職金「増額・導入」  「減額・廃止」企業は月給などへ、資産形成は自己責任

これまで「年功序列」や「終身雇用」が前提の日本の会社では、長く勤め上げてまとまった退職金を受け取ることが一般的だった。だが、東京商工リサーチ(TSR)のアンケート調査で、2023年以降の退職金制度は「増額・導入」が7.8%に対し、「減額・廃止」は1.9%だった。

5

  • TSRデータインサイト

サッカーW杯 日本代表を支える40社 売上1兆円以上8社 設立10年未満も

2026年6月11日、米国・カナダ・メキシコの3カ国共催で、史上最大規模のFIFAワールドカップが開幕する。5月15日、日本代表メンバー26名も発表され、関心が集まるなか、スポンサーシップやパートナーシップなど、サッカー日本代表・日本サッカー協会を支援する企業40社を調査した。

TOPへ