• TSRデータインサイト

Xアイコン
facebookアイコン

【取材の周辺】「倒産か、廃業か、休業か」それが問題だ

 「取引先と連絡がつかなくなった」、「得意先が倒産したようだ」――。東京商工リサーチ(TSR)情報部に日々寄せられるこうした問い合わせの「質」が、新型コロナウイルスが感染拡大して以降、変化している。

 緊急事態宣言後のある日、都内の製造業者について、「昨日まで電話に出たのに、今日になって連絡がつかなくなった」と問い合わせがあった。売掛金も相当額あるようで、「事業を停止するなら、すぐ回収に向かいたい」と切迫した声だった。その日の午後に早速、現地に向かった。
 本社は、都内23区内でも昔ながらの下町風情が残る住宅街にある。創業から長らく一族で経営してきた。代表者は地域活動に積極的で、古くから町内に住む人には「お馴染みさん」的な存在だ。TSRに蓄積された企業情報をみると、代表者は70代と高齢。
 「もしかしたら・・・」の思いで急ぐと、自社ビルに明かりはついておらず、「お休みします」の貼り紙もない。玄関をノックしても応答がない。周囲の会社に話を聞くと、「普段はいるんだけどね」という。向かいの家から、たまたま煙草を吸いに外に出てきた年配の男性に話を聞くと、「休みは土日だよ。変だねえ、コロナだから休んでいるのかもね」と回答。結局、この日は何の手掛かりもなく帰社した。だが、「コロナ(倒産)かも」という、もやもやした気持ちは晴れなかった。
 翌日、再び現地に向かおうとしていたところに連絡が入った。「今日は電話に出て、営業しているそうだよ」。しかも、「昨日はコロナの関係もあって、休みだったんだって」。
 内心、ホッとはしたのも束の間、この時期に買掛金がしっかりある会社に、「この日は休みます」と連絡しないまま休業するのはいかがなものか。違う意味で、複雑な気持ちを抱えた出来事だった。


 別の日、都内のIT企業が、「連絡がつかない。事業をやめたのでは」との問い合わせを受け、現地に向かった。
 本社があるのは都内でも有数の繁華街。住所にあるビルに向かうと、そこはシェアオフィスだった。この会社のホームページから、内装やインテリアにかなりこだわったオフィスを想像していただけに呆気にとられた。
 シェアオフィスの入口ドアはロックされ、中の様子はわからないが静まりかえっていた。入口そばに置かれた内線電話で呼び出すが、コール音が続くばかりで応答はない。
 仕方なく退散しようとしたところ、シェアオフィスを運営する会社の看板が出ており、電話で問い合わせようとした。ところが、平日10時から17時に電話を掛け直すよう促すアナウンス音が流れてきた。平日の昼間に問い合わせているにもかかわらず、だ。
 このIT企業のホームページには、もう一つ住所が記載されていた。ひと駅隣のオフィスに向かった。建物の中に入ることはできないが、別の部屋の内装工事に来ていた業者が「あの部屋にはいま、誰も入っていないよ」と教えてくれた。
 結局、この日は具体的な現状はつかめなかった。在宅勤務、休業、はたまた事業停止、倒産など、可能性はいくつも挙げられる。心配の種は尽きそうにない。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2020年5月25日号掲載予定「取材の周辺」を再編集)
Xアイコン
facebookアイコン

人気記事ランキング

ランキング1位
  • TSRデータインサイト

「鳶工事業」が苦境、倒産が過去最多ペース ~ 16年ぶり100件超、職人不足とコスト対応がネック ~

「建設現場の花形」と言われる鳶職人の世界に逆風が吹く。足場から鉄骨、支柱工事など建設現場で欠かせないが、倒産が過去最多ペースだ。有効求人倍率は7.94倍と深刻な人材難の鳶業界にあって採用難と高い技能、経験が若者の育成に足かせになっている。鳶工事業の倒産を分析した

2

  • TSRデータインサイト

「渋谷区」が倒産最多、2年連続も視野 ~ 倒産企業の半数が業歴10年超、新設法人は伸び鈍化 ~

街の主役は若者から大人へ。再開発で変貌を遂げる「シブヤ」に異変が生じている。 渋谷区に本社を構える企業倒産(1-8月)は、全国の市区郡別で最多の123件に達した。昨年(2025年1-12月)は161件で2007年以来、18年ぶり全国ワーストだった

3

  • TSRデータインサイト

2025年度の書店の利益、前年度の4.6倍に拡大 黒字企業が7割も、「増収増益」は13.4%

「本離れ」が言われて久しいが、書店経営が回復に転じた。全国の主な書店304社の2025年度の売上高合計は、6,121億4,000万円(前年度比1.6%増)、利益合計は40億2,600万円(同365.4%増)で、売上高は微増だったが、利益は前年度の4.6倍に急回復した。

4

  • TSRデータインサイト

翻訳業が苦境、利益は3年で7割減 ~ AIと競合で破産したケースも ~

AIが翻訳業界にドラスティックな変化を迫っている。日進月歩で精度が向上するなか、言語間の壁が低くなっている。この余波が翻訳業界に広がり、業績は3期連続で減収減益に追い込まれた。

5

  • TSRデータインサイト

「畳製造業」 伝統産業に忍び寄る市場変化と後継問題 売上は3年連続で低迷、業歴100年超の老舗が2割超

9月24日は「畳の日」。全国畳産業振興会が4月29日と9月24日の年2回定めている。日本の住文化の伝統を引き継ぐ畳のすばらしさをアピールすることが目的だが、畳製造業が長期低迷に陥っている。 全国の主な「畳製造業」256社の2025年度の売上高合計は402億7,700万円(前年度比1.3%減)だった

TOPへ