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【取材の周辺】「コロナ破たん」って言うな!

 「新型コロナウイルス」関連の経営破たんが相次いでいる。東京商工リサーチ(TSR)の調査では3月18日正午現在、9社が経営破たん(倒産6社、破たん3社)した。9社にはいくつかの共通点が浮かび上がる。
 一つ目は「業種」だ。9社は旅館や飲食店、雑貨店など、一般個人を対象としていた。インバウンドの減少や外出・旅行自粛の影響は、「BtoC」ビジネスを直撃している。
 二つ目は「信用力」だ。TSRが企業に付与する「評点」(信用評価、100点満点)は、9社の最低は38点、最高でも49点、平均44.1点だった。取引の判断は50点前後が目安で、9社はいずれも従来から信用力が低かった。

 「マジェスティックレゴン」など有力ブランドを展開していたアパレル企画販売のシティーヒルが3月16日、約50億円の負債を抱え大阪地裁に民事再生法の適用を申請した。取引先に送付した書面には「2月中旬からの新型コロナの急激な蔓延の影響もあって、売上が低下」して、「先行き不透明のため資金調達がとん挫し、手形決済が困難になった」と記載していた。取引先も「コロナ以降の売上は大きく落ちていたようだ」と話す。
 TSRは、「新型コロナ」関連としてカウントするにあたり、会社および代理人弁護士、取引先への裏付けを重視している。これに基づき、シティーヒルを「関連倒産」として発表した。とはいえ事前取材で、シティーヒルは2019年半ばから借入金の返済条件を変更(リスケ)しながら、実行可能な再建計画を策定できなかったこともわかっていた。昨年末には、取引先が「警戒している」と漏らすほどだった。そこに新型コロナが「最後のひと押し」となった。シティーヒル倒産の記事がネットに流れると、「コロナ関連倒産は間違いだろう」との書き込みも見受けられた。だが、会社だけでなく、業界でも新型コロナで売上減少がとどめと認めている。

 三つ目の共通点は、「切羽詰まった資金繰り」だ。和装レンタル・販売の京洛和蒼は2月12日までに事業を停止した。TSRは取引先から「昨年春に創業社長が亡くなり、その後は親族が経営していたが、年末ごろに(経営は)力尽きたようだ」との情報を得ていた。その後の取材で、近しい関係筋から「今年に入ってからも事業を続けていた。新型コロナの影響が大きかった」とのコメントを得て、関連倒産にカウントした。新型コロナの影響は、取引先と当事者では見える風景が異なる。
 一方、「新型コロナ関連倒産」と一部で報じられた北陸の学習塾がある。TSRは関連倒産にカウントしていない。TSRの取材に、複数の信頼できる関係筋が「コロナは関係ない。なぜ、そのような報道になったのか不思議だ」、「長年赤字続きだった。生徒数の減少と競争からの脱落が原因。新型コロナはタイミングが合っただけ」と明かしているためだ。
 TSRが3月初旬に実施した「新型コロナウイルスに関するアンケート調査」では、94.6%の企業が経営に影響が及ぶと回答。ほぼすべての企業に新型コロナは猛威を振るっている。今後、倒産・破たんする企業は、ある意味で「コロナ関連」とみなされるだろう。だが、安易なコロナ関連の集計は、TSRの取材力と信用が問われることを肝に銘じたい。



(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2020年3月19日号掲載予定「取材の周辺」を再編集)

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