• TSRデータインサイト

2019年「障害者福祉事業」の倒産状況

 2019年の「障害者福祉事業」倒産は30件(前年比30.4%増)で、過去20年で最多を記録した。小規模事業者の「販売不振」、「放漫経営」が目立ち、「人手不足」関連倒産も5件発生した。
 障害者を支援する生活介護やグループホームなどと、障害福祉サービスを手掛ける企業の倒産を集計し、分析した。
 2009年に「障害者雇用促進法」が大幅改正され、障害者の雇用機会が拡大している。厚生労働省によると、民間企業が雇用する障害者の数は過去最高の約56万人(従業員45.5人以上、2019年6月1日現在)に増加。また、2013年4月に「障害者総合支援法」が施行され、生活介護や障害福祉サービスへの民間企業の進出も加速し、障害者の就労機会は広がっている。
 だが、雇用拡大の裏側で2017年9月、一般社団法人あじさいの輪(TSR企業コード:712230360、岡山県、民事再生法)が経営不振から障害者約220名を解雇したケースも起きている。さらに、障害者向け介護サービスでは介護職員の人手不足が深刻さを増し、倒産が急増している。
 障害者の支援拡大を掲げる民間企業のなかには、補助金などを狙った安易な市場参入とも疑念が生じる企業も含まれている。「障害者福祉事業」の倒産急増の背景には、放漫経営や業績不振など事業上の問題だけでなく、経営者を含めた業界の健全化も急務になっている。

  • 本調査は、「日本標準産業分類 小分類」における、居住支援事業と就労継続支援A型など「障害者福祉事業」の倒産を抽出し、分析した。

障害者福祉事業の倒産 年次推移

過去最多を更新

 2019年の「障害者福祉事業」倒産は30件だった。調査を開始した2000年以降、過去最多だった2017年と2018年の各23件を大幅に(30.4%増)上回り、最多記録を更新した。
 2000年から2006年まで、「障害者福祉」事業者の倒産はゼロだった。2006年4月の「障害者自立支援法」の施行で、これまで障害関連事業の認可は社会福祉法人だけだったが、規制が緩和された。さらに2013年4月、「障害者総合支援法」が施行され、民間企業の参入への敷居が低くなり、給付金や補助金を頼りにした企業が大幅に増加した。
 厚生労働省は、生産活動による収益だけでは障害者の賃金を支払うことが困難な就労継続支援A型事業所を指導するなど、適正化を進めている。適切な事業運営をせず、経営改善が見込まれない場合は、「勧告」や「命令」などの措置が講じられることもある。こうした流れを背景にして、補助金に頼り、自立が難しい事業所の淘汰が始まった。さらに、障害者福祉事業の分野でも「人手不足」が広がり、小規模事業者の倒産が全体を押し上げた。

原因別 無計画など事業上の失敗が全体の2割を占める

 原因別では、最多が販売不振の16件(構成比53.3%)で全体の5割を占めた。次いで、事業上の失敗(放漫経営)が6件(同20.0%)で、安易に参入した企業の放漫経営が急増している。

原因別倒産状況

負債額別 小規模事業者が大半を占める

 負債額別では1億円未満が25件(構成比83.3%)と全体の8割を上回り、「障害者福祉事業」の倒産はほとんどが小規模事業者だった。

従業員数別 従業員5人未満が7割

 従業員数別では5人未満が21件(構成比70.0%)と7割を占めた。次いで、5人以上10人未満が5件(同16.6%)、10人以上は4件(同13.3%)にとどまった。

資本金別 NPO法人や一般社団法人など個人企業他が4割

 資本金別では、1,000万円未満が17社(構成比56.6%)と過半を占め、1,000万円以上は1件にとどまった。特定非営利活動法人(NPO)などは12件(同40.0%)だった。

地区別 近畿が最多、関東、九州が続く

 地区別では、近畿が11件(構成比36.6%)で最多。次いで、関東7件(同23.3%)、九州6件(同20.0%)、北海道3件(同10.0%)、中部2件(同6.6%)、中国1件(同3.3%)の順。
 東北と北陸、四国は、発生がなかった。


 倒産した「障害者福祉」事業者の創業計画を検証すると、創業前に報告された計画と実態が大きく乖離したケースが少なくない。障害者福祉事業の中には補助金の不正受給に手を染めた企業、無計画に採用した職員を大量解雇する企業など、悪質な企業や理念先行で資金が追い付かない企業などが玉石混交で参入している。
 (社福)白百合福祉会(TSR企業コード:035117303、福岡県、2019年7月破産)は、障害者向けサービスを手がけていたが、給付金などの不正受給が発覚し事業継続が困難になった。
 また、(特定)はじめの第一歩(TSR企業コード:576821012、兵庫県、2019年4月破産)は、障害者向けデイサービスに従事した従業員への賃金未支払いが発生。最低賃金法の疑いで労働基準監督署から書類送検された。
 厚労省によると、民間企業の就労継続支援A型のうち、生産活動による収入が最低賃金を下回り、経営改善計画の提出を求められた事業所が7割近く(66.2%、2019年3月)に達する。自立支援給付費等に頼らず、自力運営が可能なA型事業所は一握りに過ぎない。
 障害者の雇用は以前より拡大している。それだけに将来も安心して働ける職場と環境つくりが必要であり、福祉サービスを提供する「障害者福祉事業」の存在感は増している。国や自治体はさらなる支援の積み上げと同時に、企業も独自の経営基盤強化が求められている。

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

「リファラル採用」 企業の半数に広がる 定着率はリファラルが新卒、転職エージェントを上回る

東京商工リサーチは、採用に関する企業向けアンケート調査を実施した。人手不足やAI・DXの普及で転職市場の活況が続き、近年はリファラルやアルムナイ採用も広がっている。特に、リファラル採用は、転職エージェントの紹介より従業員の定着率が高いと考える企業が多いことがわかった。

2

  • TSRデータインサイト

大手ホテル好調 客室単価と稼働率が同時上昇 客室単価はコロナ禍の2倍超、稼働率は83.3%

インバウンド需要と国内旅行の復活で、大手ホテルの客室単価と稼働率が、コロナ禍以降で最高を更新した。 ホテル運営の上場12社(13ブランド)の2025年度の客室単価は、1万7,818円(前年度比8.6%増)で前年度より1,424円上昇した。稼働率は83.3%(前年度82.3%)で、高水準を維持した。

3

  • TSRデータインサイト

経営責任を取る事業再生、ジュピターコーヒーは黒字化へ ~ ネクスト・キャピタル・パートナーズ 単独インタビュー ~

2025年度の企業倒産は1万505件(前年度比3.5%増)で、2年続けて1万件を超えた。 こうしたなか、20年を超すファンド運営で事業再生を数多く手掛けてきたのがネクスト・キャピタル・パートナーズ(株)だ。浅野晃司・取締役執行役員に特色や取り組みを聞いた。

4

  • TSRデータインサイト

企業の7.8%で退職金「増額・導入」  「減額・廃止」企業は月給などへ、資産形成は自己責任

これまで「年功序列」や「終身雇用」が前提の日本の会社では、長く勤め上げてまとまった退職金を受け取ることが一般的だった。だが、東京商工リサーチ(TSR)のアンケート調査で、2023年以降の退職金制度は「増額・導入」が7.8%に対し、「減額・廃止」は1.9%だった。

5

  • TSRデータインサイト

サッカーW杯 日本代表を支える40社 売上1兆円以上8社 設立10年未満も

2026年6月11日、米国・カナダ・メキシコの3カ国共催で、史上最大規模のFIFAワールドカップが開幕する。5月15日、日本代表メンバー26名も発表され、関心が集まるなか、スポンサーシップやパートナーシップなど、サッカー日本代表・日本サッカー協会を支援する企業40社を調査した。

TOPへ