• TSRデータインサイト

2019年(1-12月) 上場企業「早期・希望退職」実施状況

 2019年1-12月に早期・希望退職者を募集した上場企業は延べ36社、対象人数は1万1,351人に達した。社数、人数は2014年以降の年間実績を上回り、過去5年間では最多を更新した。
 過去20年間で社数、人数ともに最少を記録し、人員リストラ策にも一服感の出た2018年(12社)と比較し、3倍増に膨れ上がった。人数も2014年以降、1万人を切る水準で推移していたが、底を打った2018年(4,126人)から約3倍増と大幅に増えた。
 2019年に実施された1,000人以上の募集・応募は4社で、2018年(1-12月、1社)より3社増加した。開示分で1000人以上の募集・応募があった企業数は、統計を開始した2000年以降、2001年(6社)、2002年(5社)に次いで2005年(4社)と並ぶ3番目に多く、大規模なリストラに踏み込んだ企業が目立った。
 2016年から2018年にかけ30社を切った実施企業数は、底入れから反転、増加した。2020年以降に募集を実施する企業も大手を中心に9社(前年同期の判明分5社)あり、増加の情勢にある。

  • 本調査は、2019年1月以降に希望・早期退職者募集を実施し、具体的な内容を確認できた上場企業(とその子会社)を対象に抽出。早期・希望退職者の募集予定を発表したが、実施に至っていない企業は除外した。
    募集人数が判明しない、募集枠を設けていないケースは応募人数をカウント。資料は原則、『会社情報に関する適時開示資料』に基づく。

通年で延べ36社が募集を実施、前年の3倍増

 2019年1-12月に早期・希望退職者の募集実施を公表したのは、3月と9月(子会社のみ)に実施した東芝を含め延べ36社。募集・応募人数は合計1万1,351人(判明分)で、人数では2013年(1-12月、1万782人)を上回る水準となった。人数の最多は、富士通の2,850人。次いで、ルネサスエレクトロニクスの約1,500人で、子会社の売却や事業の選択・集中を進める東芝が1,410人、経営再建中のジャパンディスプレイの1,200人と続き、規模の大きな募集が増える形となった。

主な上場企業 早期・希望退職者募集状況

製薬業界では“先行型”の実施も

 業種別では、業績不振が目立つ電気機器が12社(延べ)でトップ。子会社で年に2回募集を実施した東芝のほか、最終赤字を計上したFDK、債務超過のジャパンディスプレイなど。
 全体の65.7%にのぼる23社が、減収減益または最終赤字の業績不振だった。製薬は4社中、3社が直近決算で増収増益だった。薬価改定や国外メーカーのライセンス販売終了などを控え、今後を見据えた“先行型”の実施が目立った。

業界大手の実施目立つ 雇用の流動性を背景に

 2020年以降の実施では、すでに9社が判明しており、計1,550人の早期・希望退職の募集を予定する。実施を発表した9社のうち、直近決算で最終赤字、減収減益はそれぞれ1社で、他の7社は足もとの業績が堅調な業界大手が占める。
 食料品や消費材、小売業などの業界大手でも、少子高齢化による消費の低迷や、既存事業の見直しなど、先立つ国内市場の環境の変化に対応しようと事業と人員の“構造改革”を進めている。各社は、経営体力のあるうちに既存の事業の見直しに着手する狙いだ。三越伊勢丹HDでは、3月に閉店を予定している新潟三越の従業員らを対象にした希望退職支援制度に約67億円の特別損失を計上。店舗の撤退や再編が続く小売業などで今後も、同様の動きがみられる可能性もある。

変容する早期・希望退職 新しい試みも

 製造業では、データ解析やマーケティングなどの領域で不足する人材の確保を急ぐ。キリンHDでは、2019年10月から11月にかけ、営業に携わる社員やコーポレート関連の部署の社員を対象に退職者を募った。一方で、人数は非開示であるものの、退職した社員と同等の規模の中途採用者を新たに募るという。
 また、足もとでは「セカンドキャリアの形成」、「社外組織での活躍」をテーマにした“先行型”も。集計外のみずほ証券では、福利厚生の一環として、希望退職者を2020年1月から3月にかけて募る。自ら希望する人を対象にし「対象年齢を設けてはいるが、応募者がゼロでも構わない」姿勢。応募後、半年以内に次のキャリアが決まらなかった場合、応募の撤回が可能だ。社内制度として今後も定期的に実施する方針という。
 働き方改革や高水準で推移する求人数が追い風となり、雇用の流動化が進んでいる。こうした動きは、企業が積極的に事業、人員の構造改革を打ち出しやすい反面、人材を育成する上での“機会損失”を招くとの見方もある。将来を見据えた事業性と適正人員をどう捉えるべきか各社の試行錯誤の取り組みが続く。

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

2025年1-9月の「人手不足」倒産が過去最多 「従業員退職」が前年の1.6倍増、初の年間300件超へ

2025年9月に「人手不足」が一因となった倒産は、調査を開始した2013年以降では月間最多の46件(前年同月比109.0%増)を記録した。また、2025年1-9月累計も、過去最多の285件(前年同期比31.3%増)に達し、人手不足はより深刻さを増していることがわかった。

2

  • TSRデータインサイト

ケーキや和菓子は「高値の花」に、スイーツ店が苦境 倒産は過去20年で最多ペース、競合商品も台頭

街のスイーツ店が苦境に陥っている。材料コストの上昇、酷暑、人手不足が重なり、商品値上げによる高級化も購入機会の減少につながったようだ。2025年1-9月の菓子製造小売の倒産は、過去20年で最多の37件に達した。

3

  • TSRデータインサイト

2025年1-9月「後継者難」倒産が過去2番目 332件 高齢化が加速、事業承継の支援が急務

代表の高齢化が進み、後継者が不在のため事業に行き詰まる企業が高止まりしている。2025年1-9月の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)は332件(前年同期比4.5%減)で、2年ぶりに前年同期を下回った。だが、2025年は過去最多だった前年同期の348件に次ぐ、過去2番目の高水準だった。

4

  • TSRデータインサイト

2025年 全国160万5,166社の“メインバンク“調査

全国160万5,166社の“メインバンク”は、三菱UFJ銀行(12万7,264社)が13年連続トップだった。2位は三井住友銀行(10万1,697社)、3位はみずほ銀行(8万840社)で、メガバンク3行が上位を占めた。

5

  • TSRデータインサイト

2025年度上半期の「円安」倒産30件 仕入コスト上昇が卸売業を直撃

2025年度上半期(4-9月)の「円安」関連倒産は、30件(前年同期比31.8%減)だった。上半期では、2022年度以降の円安では前年度の44件に次いで、2番目の高水準になった。

TOPへ