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ネット融資仲介「maneo」の組成ファンドが返済を延滞、元本割れの恐れも

 金融取引業者のmaneoマーケット(株)(TSR企業コード:297202863、東京都)と、貸金業のmaneo(株)(TSR企業コード:297073834、東京都)を中心とするソーシャルレンディング(以下SL)大手の「maneo」は11月1日、3件の延滞発生を明らかにした。
「maneo」のSLは、maneoマーケットが投資家を募り、maneoなどSL事業者に出資する。SL事業者は集めた資金を借り手に貸し付け、その利息を投資家に分配する。ただ、今年7月、maneoマーケットは関東財務局からファンドの取得勧誘に関し、虚偽の表示などで業務改善命令を受けている。さらに、maneoや関連会社が担保保全したファンドが返済を延滞しており、元本割れの可能性も出てきた。
東京商工リサーチ(TSR)情報部が急成長する「maneo」の延滞ファンドの周辺を迫った。

不動産担保付きファンドだが…

ソーシャルレンディングは、投資家から集めた資金の借り手の社名や案件を「借り手保護」のため明らかにしていない。投資家は「maneo」の公表する概要で判断するしかない。
11月1日に「maneo」が延滞を公表したファンドの1つは、不動産業のA社に約20億円を「maneo」から関連会社である(株)リクレ(TSR企業コード:298012308、千代田区)を経由して不動産の購入資金として融資した。
「maneo」が投資家に公開しているA社の一部ファンドの概要は、川崎市内の担保不動産にリクレが順位1位の極度額19億2,000万円の根抵当権を設定し、公正証書の契約で保全しているという。
融資額は業者買取価格(担保物件の評価)の75%に設定し、「投資家の皆様の安全性を考慮した不動産担保付きのファンド」(「maneo」のホームページより)として募集した。
「maneo」によると、A社は今年5月25日、約定利息の支払いを行わなかった。リクレはすべての担保不動産を売却しても元利金全額の回収は困難という。ノンリコースローン(責任財産限定特約付)のため、10月29日の利息を支払わない意向をリクレが「maneo」に示し、今回の延滞が表面化した。
担保を設定し、評価額の75%の融資額にとどめたファンドで返済延滞が発生。しかも担保不動産を売却しても元本割れの事態など、投資家の誰ひとり想定しなかっただろう。

川崎市麻生区の物件

川崎市麻生区の物件

延滞したローンファンドの会社と不動産

TSR情報部は、延滞したファンドの一部不動産の住所を特定し、現地を確認するとともに不動産登記簿を取得した。
評価が約16億円という川崎市麻生区の物件は今年1月31日、不動産業の(株)アルデプロ(TSR企業コード:294467530、新宿区)がA社(2017年7月設立)に売却した。
返済延滞の翌日である5月26日、物件はA社から(株)TT(TSR企業コード:022868461、大阪市)へ売買により、所有権が移転する。TTについて、「maneo」の関係者は、「(maneo)グループ企業ではない」と明言する。
川崎市麻生区の物件は、私鉄の最寄り駅から徒歩10分。山林の中腹にある診療所跡地だ。入口は閉ざされ、周囲は草木が生い茂り、物件の確認が難しい。近隣住民も「数年前から人の出入りがない。こんな山中の物件を買う人がいるのか」と話す。
複数の不動産業者によると、この物件は15億円で売りに出されている。「maneo」が投資家に提示した評価額16億円を1億円も下回る。担保評価の業者買取価格の妥当性はわからないが、「maneo」やリクレは物件の売却に難航しているようだ。
A社は、「maneo」のファンドを利用し、川崎市麻生区の物件のほか、神奈川県内や東京都内などでリクレに不動産担保を提供する形で資金を調達している。

物件の多くは賃貸アパート大手の(株)レオパレス21(TSR企業コード:291293581、東京都)から2017年10月にアルデプロに売却され、その後A社に所有権が移転している。アルデプロの関係者は、A社について「当社(アルデプロ)とは一切関係ない、取引先の1社に過ぎない」と答えた。

ファンドは弁護士に破産手続きを一任

これとは別に、延滞したファンドに「事業性資金支援ローンへの投資」がある。このファンドは「maneo」が、太陽光発電事業者のB社に太陽光パネルの架台設置などの資金として5,500万円を今年3月に貸し付けている。
このファンドの担当者は「maneo」のホームページで「売却予定価格内の融資で、物件の流動性も見込めリスクは限定的だと考えております」と安全性を強調していた。
ところが、「maneo」によると「10月上旬にB社の代理人弁護士から返済猶予の申し入れがあり、10月の入金がなかった」と説明。
TSR情報部がこのファンドを調べると、北海道にある不動産に「maneo」が根抵当権者、B社を債務者とする6,600万円の根抵当権が設定されていることがわかった。
この不動産には今年9月20日、財務省が債権者として差押登記を設定していた。さらにB社は10月下旬、破産手続きを弁護士に一任したと関係者が説明している。

「maneo」は、消費者を巻き込み社会問題となった(株)ケフィア事業振興会(TSR企業コード:298080745、千代田区、破産)の関連会社に年利15%で融資していた。また、7月にはmaneoマーケットの勧誘したファンドが政治家に資金を提供した事が発覚している。
不特定多数から資金を集めるソーシャルレンディングで高金利を得るには相応のリスクは常識だろう。だが、投資家から集めた資金を審査基準も不透明なまま投資し、結果として延滞や元本割れが多発すれば「ビジネス」ではなくなる。
元本割れは、投資家の自己責任か、ソーシャルレンディングの宿命か。ブームの中でソーシャルレンディングの存在が問われている。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2018年11月12日号掲載予定「Weekly Topics」を再編集)

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