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エム・テック破たんでオリンピック競技予定地の「有明テニスの森」工事が中断

 10月1日に東京地裁に民事再生法の適用を申請した(株)エム・テック(TSR企業コード:310340748、さいたま市、向山照愛社長)がスポンサー支援を得られず10月22日、再生手続き廃止決定を受けた。民事再生法申請時の負債は253億4933万円だった。今後は職権により破産手続きに移行する。
今後の焦点の一つはエム・テックが抱えていた仕掛り中の工事の行方。東日本大震災や熊本地震の復興工事を多数手がけ、受注残は約300億円にのぼるが、多くの工事が中断している。
東京オリンピック・パラリンピック関連施設の工事も中断している。エム・テックは江東区のテニス競技の関連施設を15億5000万円で受注していた。だが、現場は再生手続き廃止と同時に東京地裁の保全命令の張り紙が掲示され、工事は中断している。
エム・テックが受注したオリンピック施設関連工事は、「有明テニスの森公園(29)施設改修その他工事」(江東区)。オリンピック開催時のテニス競技会場となる「有明テニスコロシアム」の改修などは別の工事業者が手がけ、エム・テックはテニスコート17面(1万9,624平方メートル )のセミハードコート舗装や競技用照明塔の設置などを請け負っていた。2017年7月にJV方式により15億5,500万円で落札。2017年10月着工で、2019年7月に完成の予定だった。完成まで1年を切り、ラストスパートに差し掛かるはずが、民事再生法の申請で工事は中断した。さらにエム・テックは10月21日付で下請業者などに「施主(東京都)との請負工事を解除したため、貴社との契約も解除させていただく」と通知。工事がエム・テックの手を離れたことで今後の見通しは不透明となった。

現場には保全命令を知らせる張り紙

 再生手続き廃止決定を受けた10月22日。工事現場には保全措置の張り紙が掲示された。張り紙には東京地裁の担当裁判官名で、「本件再生手続廃止後、破産手続開始の決定があるまでの間、すべての債権者は、債務者の財産に対する強制執行等及び国税滞納処分をしてはならない」と記されている。今後、破産手続きに移行し、財産処分などが進むなかで公平性を担保するための措置だ。
エム・テックから下請で工事受注していた建設業者は「工事休止が長引けば、来年7月までの完工は間に合わないだろう」と話す。工事発注者である東京都の担当者は「破産手続きが進むまでは身動きが取れないが、再発注などを検討中。スケジュールは正直厳しいが、予定通り2019年7月の完成を目指す」とコメントしている。
待ったなしのタイミングでの施工業者の破綻で、工事再開をどう進めるか関係者は頭を痛めている。建設業では今年最大となったエム・テックの破綻は様々な混乱を招き、まだ収束のめどは立っていない。

「有明テニスの森公園」改修工事の掲示

「有明テニスの森公園」改修工事の掲示

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2018年10月24日号掲載予定「取材の周辺」を再編集)

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