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2,000億円のビットコインが眠るMTGOXの行方

 債権者だけでなく仮想通貨の保有者も気をもむ4年前の破産事件がある。2014年2月、仮想通貨取引所の不正アクセスで「ビットコイン」が流出し、東京地裁に負債65億100万円を抱え民事再生法を申請した(株)MTGOX(TSR企業コード:298819350、渋谷区)だ。
MTGOXは民事再生を棄却され、同年4月に破産開始決定を受けたが、破産手続きは4年経過した現在も終結していない。
そこに2017年11月、一部債権者が同社の民事再生法の適用を申し立てたことから話が複雑になってきた。東京地裁は破産継続か民事再生法への移行か、近いうちに判断を下すとみられる。注目されるのはMTGOXが保有する約20万ビットコイン(BTC)の扱いだ。
破産の場合はビットコイン債権者への配当上限は約100億円、民事再生法では約2,000億円と配当が大きく異なる。破産開始決定時は債務超過だったMTGOX。だが、ビットコインの値上がりで大幅な資産超過での「倒産処理」という異例の展開になっている。

MTGOX本社前で(2014年撮影)

MTGOX本社前で(2014年撮影)

 MTGOXは2014年2月の破産開始決定後、2018年3月17日までに10回の債権者集会を開いている。
破産管財人の資料によると、MTGOXの破産財団で管理する仮想通貨はビットコイン(BTC)が約20万BTC、そしてビットコインから分裂して誕生したビットコインキャッシュ(BCH)が約20万BCHある。
破産手続きの中で、「利益を確保する措置」として2017年12月から2018年2月にかけ、MTGOXの破産財団から仮想通貨の一部、約3万5,000BTCと約3万4,000BCHを売却した。
売却で得た金額はビットコインが約382億円、ビットコインキャッシュが約47億円、合計429億8,804万円に達した。
売却方法の詳細は明かされていないが、「仮想通貨交換業者の協力を得て、売却時点の市場価格を踏まえて売却した」(破産管財人)という。売却時期のビットコインは、2017年12月に200万円を超えたが、2018年2月には70万円台まで大きく値下がりした。折しも1月26日に、仮想通貨販売業者のコインチェックの580億円の流出事件も重なった。一部ではMTGOXの大量販売が価格下落の一因になったとの指摘も流れた。だが、破産管財人は「取引所における通常の売却ではなく、市場価格に影響を与えない工夫をした」と説明する。そして、今後も売却は裁判所と協議したうえで決定していくという。
破産管財人は2018年3月5日現在、管理保有する仮想通貨はビットコイン16万6,344BTC、ビットコインキャッシュ16万8,177BCHと明かす。

破産手続きにおける問題点


一般的な破産手続きは、破産会社の資産を金銭に換価し、債務調査で確定した債権者へ配当(弁済)する。
MTGOXの破産手続きも同様に進められている。ただ、一般的な破産事件と異なるのが仮想通貨の扱いだ。4年前の破産開始決定時のビットコインの価格は約5万円。それが2017年12月20日ごろに最高値の200万円を超えた。だが、その後は一気に100万円を割り込むなど激しい乱高下を繰り返している。2月には70万円台まで下げ、4月27日現在は100万円前後で推移している。
関係者によると、「破産管財人はビットコインを破産開始決定時の価格で評価する」という。その場合、約20万BTCは破産開始時の評価で約100億円。だが、現在価格での評価は約2,000億円。20倍の差が出る。これが、債権者が倒産の形態にこだわる理由でもある。

MTGOXが入居していた本社ビル(2018年4月撮影)

MTGOXが入居していた本社ビル(2018年4月撮影)

債権者が民事再生申立、裁判所の判断は・・・ 


2017年11月、MTGOXの一部債権者が東京地裁に民事再生法の適用を申し立てた。
申立代理人の西村あさひ法律事務所の菅野百合弁護士は、「ビットコイン債権者のほとんどは、MTGOXについて民事再生手続での解決を望んでいる。実際、約200名の債権者からその旨の意見表明をもらっている。今後も、再生手続への移行と、移行後のビットコイン債権者の権利の最大化のため、できる限りの活動をしていく」と語る。
民事再生手続きは、破産開始時点の評価という上限が適用されず、ビットコイン債権者には「ビットコインでの配当も可能」(関係者)という。
東京地裁は民事再生法が申し立てられた当日、民事再生手続きを行うべきかの判断を裁判所が選任した弁護士(調査委員)に命じた。
2018年2月、調査委員は条件付きだが民事再生手続開始決定の要件を満たしているとの報告書を提出した。条件とは、「ビットコイン債権者でない一般債権者が不利にならないような民事再生手続き」などが含まれる。この条件は「対応可能」(関係者)という。
報告書に基づき東京地裁が、破産手続きから民事再生に移行するか判断する。その日は目前に迫っている。

MTGOXが保有する仮想通貨の売却に、東京地裁は慎重な姿勢をみせている。海外を含めた債権者が多く、ビットコイン相場への影響も懸念されるからだ。
破産手続きの場合、ビットコインでの配当は困難といわれる。いずれは約16万BTCが売却され、金銭に換価される可能性が高い。
一方、民事再生手続きに移行すると、ビットコインでの配当も可能になる。個人投資家も4年ぶりに手元にビットコインが戻り、再び仮想通貨での投資か換価ができる。
破産管財人は「裁判所から新たな決定がない限り、破産手続きはこれまで通りに進行する。破産管財人は破産財団の管理処分権を有する」とコメントを発表している。
乱高下を繰り返す仮想通貨を保有するMTGOXの破産手続きは、今までのルールや常識が通用しない。債権者だけでなく仮想通貨に投資しているMTGOXと無関係の個人投資家まで、固唾を飲んで東京地裁の判断を見守っている。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2018年5月1日号掲載予定「Weekly Topics」を再編集)

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