てるみくらぶ取材ルポ(後編)
破産申請へ
4月5日掲載の「てるみくらぶ取材ルポ(前編)」では、3月23日~24日までの現地取材の様子をルポした。後編では、前段でそれ以降の動きをルポし、後段ではどうしたら被害は防げるのかについて考察する。
3月25・26日、土曜・日曜日
3月に入り山田社長がノンバンクからの資金調達を模索していたようだ、との情報が入る。休日で裏付け取材をできないのがもどかしい。また、法的手続きの申請代理人(弁護士)に関する情報も飛び交う。これほど情報が飛び交う中でも、てるみくらぶのホームページには現状や今後の方針を示すものは何もアップされない。かなり確度の高い情報として、27日(月)に事態は大きく動くとの話がもたらされる。
3月27日、月曜日
【7時00分】
てるみくらぶ本社ビル6階。すでに出社していたてるみくらぶの関係者に「ここでの取材待ちは控えて下さい」と要請される。本社ビル1階玄関に移動。本社へ出入りする人物と申請代理人に関する情報を照らし合わせ、顔と名前の特定作業を進める。
【7時30分】
取材先から「10時にてるみくらぶのホームページを見れば一番早くわかる」との情報がもたらされる。この話から9時前後に東京地裁に法的な手続きを申請する可能性が高まり、情報本部内が一気に緊迫する。
【8時00分】
てるみくらぶが何らかの法的手続きをとることが濃厚になったため、倒産した場合のリリース予定原稿と旅行業界の過去の倒産事例などを間違いがないよう再チェックする。
【9時35分】
取材を進め、てるみくらぶが東京地裁に破産を申請、手続開始決定も下りた事実を確認。速報をマスコミへリリース、自社サイトなどにもアップする。
【9時55分】
取材を進め、新たに旅行を申し込んでいた被害者が3万6046件、負債総額が151億円に達することが判明。旅行業としては歴代4位の負債総額だ。被害者の数は未確認だが過去最悪かもしれない。これらの情報をマスコミへリリースし、自社サイトなどに再度アップする。
【10時00分】
マスコミからの問い合わせが殺到する。支払った代金の返還率(弁済率)に関する内容が多い。事前にJATAに確認していたてるみくらぶの弁済業務保証金分担金は2400万円だ。この5倍が弁済金にあたるため、被害者への弁済金の限度額は1億2000万円しかない。被害者の方への影響の広がりが心配される。
【11時30分】
てるみくらぶが国土交通省で記者会見。冒頭、山田社長より謝罪。3月23日の国際航空運送協会(IATA)への支払いができなくなり、事業継続が困難に陥ったことを説明する。時折、山田社長が目頭をハンカチで押さえるが、本当に泣きたいのは心待ちにしていた旅行が台なしにされた被害者たちだ。
記者会見の主な質疑応答の要旨は以下のとおり。
Q.IATAへの支払いとは何か。
A.当社はIATAの資格(公認旅行代理店資格)を有しているので、航空券の自社発券が出来る。発券から1~2週間程度で支払期日が到達する。3月23日、この支払いが出来なかった。
Q.23日にIATAへ支払うべき金額はいくらだったのか。そのうち、いくらの支払いが出来なかったのか。
A.3億7100万円だ。一部だけ支払っても仕方がないので全額だ。
Q.本社以外に、国内は札幌、名古屋、大阪、福岡に営業拠点がある。全て対面販売していたのか。
A.対面販売していたのは、札幌と大阪の拠点。その他の営業拠点は、仕入業務や本社の下請業務などをしていた。
Q.最近まで「一括入金キャンペーン」をしていた。これは詐欺ではないか。
A.スポンサーや金融機関と資金調達に向けた交渉を行っていた。今回の事態(破産申請)は、直前まで想定していなかった。23日までスポンサーや金融機関と交渉していたが、24日になって、どうしようもなくなった。それ以上の意図はない。
Q.交渉していたスポンサーは?
A.契約締結に至ったわけではないので非開示。
Q.旅行申込者への返金はどうなる。
A.精査中だ。ただ、約100億円のうちJATA(一般社団法人日本旅行業協会)の弁済業務保証金限度額は1億2000万円なので、そこから計算すると約1%だ。
Q.返金までどれくらいの時間がかかる。
A.JATAの受付期間が60日なので、それ以上はかかる。
Q.既に旅行を開始している申込者は何名か。
A.3月23日時点で3000名強。
Q.一般債権(商取引債権)約18億円は何社に対するものか。
A.これも精査が必要だが破産申請時点では96社。
Q.国内旅行はやっていたのか。
A.最近、テストで少しだけやっていた。
Q.旅行申込者は約3万6000名なのか。
A.正確には3万6000件。1件で複数人の申込があるので、全部で8万~9万人だと思う。
【13時00分】
てるみくらぶの関連会社や取引先を再度精査し、てるみくらぶ破産がどのように波及していくかを情報本部内で検討し、取材体制を再構築する。
第2のてるみくらぶ被害を防ぐには
てるみくらぶの破産から時間が経つにつれ、問い合わせの内容が「どうしたら被害を防げたのか」へ変化していった。
個人で簡単にチェックできるポイントとしては下記の4点だろう。
1)ホームページに、事業に必要な許認可番号や業績をきちんと公開しているか
2)決済に利用できないクレジット会社はないか
3)過剰に前払いを求めていないか
4)目玉以外の商品も過度に安売りしていないか(全商品が安い)
また、「てるみくらぶの格付はどうだったのか」との問い合わせも多く寄せられた。
東京商工リサーチは、信用力を示す指標の一つとなる「リスクスコア」(アメリカD&B社が開発)を統計的手法に基づいて毎日算出し、ユーザーに提供している。1~100までの100段階で信用力を表し、1が最も高リスク(悪い)だ。
てるみくらぶのリスクスコアは、2016年7月に「20」から「4」に急落し、9月には最も高リスクの「1」となった。てるみくらぶは2014年9月期から利益の公開を拒否しているが、2014年頃から粉飾決算に手を染めていたことが明らかになっている。