• TSRデータインサイト

「JR旅客6社の経営動向」調査

 10月25日、九州旅客鉄道(株)(TSR企業コード:870264311、法人番号:6290001012621、本社福岡市、以下、JR九州)が東京証券取引所1部に上場した。10月26日には福岡証券取引所にも上場する。1987年の国鉄分割民営化で発足したJR旅客6社のうち、株式上場したのは1993年10月の東日本旅客鉄道(株)(JR東日本)、1996年10月の西日本旅客鉄道(株)(JR西日本)、1997年10月の東海旅客鉄道(株)(JR東海)に続く、4社目の上場となった。
 鉄道事業の採算が厳しいと言われた北海道旅客鉄道(株)(JR北海道)、四国旅客鉄道(株)(JR四国)、JR九州の「3島会社」では初の上場となる。
 先に上場したJR3社は、利益率の高いドル箱路線を抱え、鉄道事業の営業利益は黒字を維持している。一方、「3島会社」は沿線人口の減少などから鉄道事業は赤字が続き、上場は難しいとされていた。この赤字を補填するため多額の経営安定基金の運用益で鉄道設備の維持費などを捻出してきた。こうした状況を背景に、JR九州はいち早く鉄道事業への依存からの脱却を目指し、株式上場を実現した。改めてJR旅客6社の経営状況を検証した。


JR旅客6社(単体)経営状況比較

 6社の単体業績をみると、JR東日本とJR東海は、そろって2016年3月期に国鉄民営化後で過去最高の売上高と当期純利益を計上、JR西日本も過去最高の当期純利益を計上した。JR九州の2016年3月期の決算は、上場に向けた固定資産の減損処理などで大幅赤字を計上したが、売上高は過去最高を塗り替えた。
 6社の本業である鉄道事業の営業利益は上場3社が黒字に対して、3島会社はそろって赤字だった。JR九州は赤字幅が年々縮小しているが、2016年3月期で115億円の大幅赤字を計上、3島会社では赤字幅が年々拡大しているJR北海道に次いで赤字額が大きかった。
 単体の売上高に占める関連事業(非鉄道事業)の比率は、3島会社が上場3社より高くなっている。特に、JR九州は年々上昇し2016年3月期の構成比19.8%と飛び抜けて高く、同事業の売上高はJR東海、JR西日本を上回っている。グループ連結ではさらに上昇し、関連事業の売上比率は約6割に達している。これはJR九州がJR旅客6社の中で、いち早く脱「鉄道事業」に乗り出し、本業の赤字をカバーしていることがわかる。

JR6社業績推移

全国の主要鉄道22社(単体)経営状況比較

 全国の主要鉄道会社22社を見ると、2015年度でJR東日本が売上高トップ。JR3社がトップ3を独占。JR九州は売上高で6位。前年比較可能な21社では増収率が7.1%のJR西日本、阪急電鉄に次いで3位になっている。自己資本比率はJR北海道の68.7%、JR四国の57.3%に次いで高い。
 九州新幹線全線開通の前日に発生した東日本大震災、そして今年4月の熊本地震を乗り越えJR九州は上場にこぎつけた。鉄道事業では上場3社のようなドル箱路線はないが、重要なインフラとして沿線住民や企業、文化、経済に欠かせない存在だ。今回の上場で得られる潤沢な資金とJRのブランド力を背景に、さらなる事業多角化で地域経済を活性化させるだろう。
 九州経済をけん引する代表的な企業として、復興を目指す熊本県など各県の思いを込めて、「頑張ろう九州」の旗印となることが期待されている。

全国主要鉄道業

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

【破綻の構図】マツオインターナショナル~膨らんだ債務と抜本再生への移行~

婦人服ブランド「ヴィヴィアン タム」「慈雨(じう)」「t.b2」などを展開し、ピーク時には国内外で約400店を構えていたマツオインターナショナル(株)(TSRコード:292635265、以下マツオ)が12月11日、大阪地裁に会社更生法の適用を申請した。

2

  • TSRデータインサイト

交響楽団の収益悪化、来場者戻らずコスト上昇 ~ 綱渡りの自助経営、草の根のムーブメントへの期待 ~

交響楽団が存立の危機に立たされている。多くの交響楽団で収入が落ち込んでおり、赤字が目立つ。会場費や団員などの人件費、楽器の輸送コストなどが上昇のうえ、寄附金や補助金による収入は頭打ちで綱渡りの運営だ。東京商工リサーチは、3期連続で業績が比較できる20団体を調査した。

3

  • TSRデータインサイト

地場スーパー倒産 前年同期の1.5倍に大幅増 地域密着型も値上げやコスト上昇に勝てず

2025年1-11月の「地場スーパー」の倒産が22件(前年同期比46.6%増)と、前年同期の約1.5倍で、すでに前年の年間件数(18件)を超えた。

4

  • TSRデータインサイト

長渕剛さん側、イベント会社の破産申立に続き代表を刑事告訴 ~長渕さん「徹底追求」、イベント会社代表「横領でない」と反論~

歌手の長渕剛さんが代表を務める個人事務所の(株)オフィスレン(渋谷区)が、イベント運営を委託していたダイヤモンドグループ(株)(東京都中央区)の代表を業務上横領罪で刑事告訴したことがわかった。東京商工リサーチの取材で長渕さん側が明らかにした。

5

  • TSRデータインサイト

「ペット・ペット用品小売業」倒産が過去2番目の14件 実質賃金の低迷と物価高がペットの世界にも影響

2025年11月の「ペット・ペット用品小売」の倒産は、1件(前年同月ゼロ)にとどまったが、1-11月累計は14件(前年同期比27.2%増)に達した。

TOPへ