• TSRデータインサイト

Xアイコン
facebookアイコン

「築地市場と周辺地域の企業実態」調査

 2016年11月7日に豊洲への移転を控えていた築地市場は、小池百合子東京都知事の移転延期表明で再び注目が集まっている。
 築地市場は1923年の関東大震災で日本橋魚河岸などの市場が壊滅し、築地外国人居留地に臨時の東京市設魚市場として開設されたのを起源とする。1935年、東京市中央卸売市場として正式に開設され、93年の歴史を誇る。この間、築地市場を中核に周辺には場外業者も軒を連ねて賑わい、今では海外の観光客にも定番の観光地として定着している。
 東京商工リサーチでは、築地市場がある東京都中央区築地5丁目2-1と、周辺の同区築地4丁目から6丁目に本社を置く1,699社の実態を調査した。産業別では、生鮮魚介卸売(398社)など卸売業が671社(構成比39.4%)と約4割を占めて最多だった。この他、観光客などを対象にした飲食業を含むサービス業他404社(同23.7%)、鮮魚小売(130社)などの小売業277社(同16.3%)も多く、市場の歴史とともに周辺経済が醸成されてきた。
 築地市場とその周辺は本来の「市場」機能だけではなく、「観光地」として国内外の観光客も招き寄せる魅力があり、近隣の銀座とともに高いインバウンド効果を生んでいる。


  • ※本調査はTSR企業データベース(309万社)から、東京都中央区築地4丁目から6丁目に本社を置く1,699社を抽出し、分析した。

産業別 卸売・サービス他・小売で8割

 1,699社の産業別では、卸売業が671社(構成比39.4%)で最多。次いで、サービス業他404社(同23.7%)、小売業277社(同16.3%)と続き、上位3産業で約8割(同79.5%)を占めた。

 業種別では、最多は飲食料品卸売業の614社(構成比36.1%)だった。飲食料品卸売業をさらに細かく見ると、仲卸業者である生鮮魚介卸売業398社を主体に、その他の食料・飲料卸売業77社、乾物卸売業44社などがある。
 以下、鮮魚小売業(130社)を含む飲食料品小売業225社(構成比13.2%)、専門サービス業126社(同7.4%)、食堂,レストラン(専門料理店を除く)53社を含む飲食店78社(同4.5%)と続く。

築地所在企業1699社 主な業種別

 築地市場周辺には多くの仲卸業者が存在している。一方、近年は訪日観光客の増加が拍車をかけ、観光地としても注目されている。このため、古くからの安定顧客と取引している小売業者に加え、観光客向け飲食店なども増えている。
 こうした企業が拠り所とするのは当然「築地市場」がもたらす集客効果である。観光地としての「築地」が「豊洲」に移転した場合、築地周辺の小売業や飲食店への影響は慎重に見極めることが必要だろう。

売上高別 5億円未満が約6割

 築地市場と周辺企業1,699社のうち、売上高が判明した714社の売上高別分布では、1億円以上5億円未満が254社(構成比35.5%)と最も多かった。以下、1億円未満167社(同23.3%)、10億円以上50億円未満126社(同17.6%)、5億円以上10億円未満102社(同14.2%)と続く。
 売上高5億円未満の企業が421社と、全体の約6割(58.9%)を占め、小規模経営が中心。

資本金別 個人企業を含め1,000万円未満が5割

 築地市場と周辺企業1,699社の資本金別では、1百万円以上1千万円未満が725社(構成比42.6%)で最多。次いで、1千万円以上5千万円未満が661社(同38.9%)、個人企業他が101社(同5.9%)の順。
 個人企業を含め資本金1千万円未満が901社(同53.0%)と、半数以上が小・零細規模となっている。

業歴別 業歴30年以上の老舗企業が4割

 業歴別では、50年以上100年未満が434社(構成比25.5%)で最多。以下、10年以上20年未満が327社(同19.2%)、5年未満が272社(同16.0%)、40年以上50年未満が188社(同11.0%)と続く。
 業歴30年以上の老舗企業は768社と、全体の4割(45.2%)を占めた。また、市場開設以前に創業した業歴100年以上の長寿企業も31社(構成比1.8%)存在する。最も業歴が長い(有)尾粂商店(創業1871年[明治4年])は、日本橋魚河岸で創業。仲卸業者として長らく築地を拠点としてきたが今後、豊洲への市場移転に併せて同地への移転を予定している。

 東京都中央卸売市場「仲卸業者の経営状況(2015)」によると、築地市場の仲卸業者は754業者で、1989年(1,207業者)から約4割減少した。また、東京商工リサーチの調査では、1996年以降の過去20年間で築地市場内(中央区築地5-2-1)を本社とする企業の倒産・休廃業は126件発生(倒産110件、休廃業16件)している。今後、豊洲への市場移転となった場合、これを機に廃業や築地での営業撤退に踏み切る業者も想定されるだけに、今後の動向に目が離せない。


 築地市場とその周辺に本社を構える企業の多くは資本金1,000万円未満、年間売上高5億円未満の中小・零細企業で構成されている。市場の豊洲移転に伴い本社移転を計画し、新たな設備投資を予定していた企業は直前の移転延期に戸惑いと混乱を招いているかもしれない。
 一方、市場移転後は観光資源としての「築地」をどう活用するかが大きなテーマに浮上する。また、場内労働者や観光客向けに商売を続けてきた業者は、市場移転が死活問題になりかねず、経営の内容次第では、廃業や倒産が避けられない企業も出てくるだろう。
 小池都知事は築地市場の移転延期理由として、「安全性への懸念」、「巨額かつ不透明な費用」、「情報公開の不足」をあげている。ただ、市場の移転延期は、2020年東京五輪開催時の大動脈を担う環状2号線の建設計画にも影響が及ぶとの指摘もある。
 ほぼ一世紀の歴史を持つ世界有数の市場である築地市場の移転は、周辺地域への影響も大きく、それだけに都政にかかる責任もまた重い。

Xアイコン
facebookアイコン

人気記事ランキング

ランキング1位
  • TSRデータインサイト

「鳶工事業」が苦境、倒産が過去最多ペース ~ 16年ぶり100件超、職人不足とコスト対応がネック ~

「建設現場の花形」と言われる鳶職人の世界に逆風が吹く。足場から鉄骨、支柱工事など建設現場で欠かせないが、倒産が過去最多ペースだ。有効求人倍率は7.94倍と深刻な人材難の鳶業界にあって採用難と高い技能、経験が若者の育成に足かせになっている。鳶工事業の倒産を分析した

2

  • TSRデータインサイト

「渋谷区」が倒産最多、2年連続も視野 ~ 倒産企業の半数が業歴10年超、新設法人は伸び鈍化 ~

街の主役は若者から大人へ。再開発で変貌を遂げる「シブヤ」に異変が生じている。 渋谷区に本社を構える企業倒産(1-8月)は、全国の市区郡別で最多の123件に達した。昨年(2025年1-12月)は161件で2007年以来、18年ぶり全国ワーストだった

3

  • TSRデータインサイト

2025年度の書店の利益、前年度の4.6倍に拡大 黒字企業が7割も、「増収増益」は13.4%

「本離れ」が言われて久しいが、書店経営が回復に転じた。全国の主な書店304社の2025年度の売上高合計は、6,121億4,000万円(前年度比1.6%増)、利益合計は40億2,600万円(同365.4%増)で、売上高は微増だったが、利益は前年度の4.6倍に急回復した。

4

  • TSRデータインサイト

翻訳業が苦境、利益は3年で7割減 ~ AIと競合で破産したケースも ~

AIが翻訳業界にドラスティックな変化を迫っている。日進月歩で精度が向上するなか、言語間の壁が低くなっている。この余波が翻訳業界に広がり、業績は3期連続で減収減益に追い込まれた。

5

  • TSRデータインサイト

「畳製造業」 伝統産業に忍び寄る市場変化と後継問題 売上は3年連続で低迷、業歴100年超の老舗が2割超

9月24日は「畳の日」。全国畳産業振興会が4月29日と9月24日の年2回定めている。日本の住文化の伝統を引き継ぐ畳のすばらしさをアピールすることが目的だが、畳製造業が長期低迷に陥っている。 全国の主な「畳製造業」256社の2025年度の売上高合計は402億7,700万円(前年度比1.3%減)だった

TOPへ