2016年「賃上げ、同一労働同一賃金」に関するアンケート調査
全国の企業を対象に、2016年の賃上げ状況に関するアンケート調査を実施した。その結果、2016年の賃上げ実施企業は8割(構成比80.0%)に達し、このうち約5割(同49.1%)は、賃上げ幅が月2,500円未満(年3万円未満)だった。
日本経団連が4月18日に発表した2016年の春季労使交渉の第1回集計によると、従業員500人以上の東証1部上場企業の定期昇給とベースアップをあわせた賃上げ率は、前年から月額2.1%増加(7,174円増)した。前年の2.5%増(8,235円増)に比べ伸びは鈍化したが、引き続き増加基調が続いている。
今回のアンケートで中小企業にも賃上げの動きが広まっていることがわかった。だが、有効求人倍率が改善し人手不足が顕在化する中で、中小企業の人材確保を目的に賃上げせざるを得ない苦悩も浮かび上がった。
- ※本調査は2016年5月26日~6月9日にインターネットによるアンケートを実施し、有効回答を得た8,097社を集計、分析した。
- ※中小企業の賃上げ実態をより精緻に把握するため、「定期昇給」、「ベースアップ」、「賞与・一時金の増額」を賃上げと定義した。
Q1. 今年度、賃上げを実施しましたか?(択一回答)
有効回答8,097社のうち、賃上げを実施したのは6,483社(構成比80.0%)で8割を占めた。実施方法を種別でみると、最多は「定期昇給のみ」が2,998社(同37.0%)だった。そのほか、「定期昇給+賞与・一時金の増額」の907社(同11.2%)、「ベースアップのみ」の824社(同10.1%)。一方、「実施しなかった」の1,614社(同19.9%)だった。
資本金別では、1億円以上の企業の83.3%(1,895社中1,579社)が何らかの形で賃上げを実施したのに対し、1億円未満では79.0%(6,202社中4,904社)にとどまった。また、ベースアップを実施した企業は、1億円以上は26.9%(1,895社中511社)だったのに対し、1億円未満は24.6%(6,202社中1,528社)と、規模間の格差が鮮明になっている。
Q2. (Q1で実施と回答)実施した理由は何ですか?(複数回答あり)
賃上げを実施した企業6,483社のうち、賃上げの理由で最も多かったのは「従業員の定着・確保を図るため」の4,399社(構成比67.8%)だった。
資本金別では、1億円以上の企業は「業績が回復したため」が構成比29.8%(1,579社中472社)だったのに対し、1億円未満も30.5%(4,904社中1,499社)とほぼ同じ水準だった。
ただ、「従業員の定着・確保を図るため」と回答した企業では、資本金1億円以上が55.2%(1,579社中873社)だったのに対し、1億円未満は71.9%(4,904社中3,526社)と7割を占めた。
中小企業ほど人材確保に苦慮し、他社の賃上げ動向を見ながら自社の賃上げで従業員の流出を抑える一方、採用にも努めているようだ。「その他」では「最低賃金の上昇」が11社あった。
Q3. (Q1の)賃上げ幅はどれくらいですか?(択一回答)
Q1で「賃上げを実施した」企業6,483社の賃上げ幅は、「月2,500円未満(年3万円未満)」がほぼ半数の3,183社(構成比49.1%)を占めた。
資本金別では、賃上げ幅「月2,500円未満(年3万円未満)」は、1億円以上(同49.9%)と1億円未満(同48.8%)がほぼ同率で拮抗した。
一方、「月2,500円以上(年3万円以上)」では、1億円以上が36.7%(1,579社中580社)だったのに対し、1億円未満は46.7%(4,904社中2,293社)で、10ポイント上回った。
Q4. (Q1を)実施しなかった理由はなんですか?(複数回答)
賃上げを実施しなかった1,614社の理由では、「業績低迷」が683社(構成比42.3%)と最多だった。次いで、「財務体質の強化を優先したため」が376社(同23.2%)、「現在の従業員の雇用維持のため」が375社(同23.2%)と続いた。
2017年4月に予定されていた消費税率10%への引き上げは先送りとなったが、「消費税率の引き上げに対応するため」と回答した企業も38社(同2.3%)あった。業績が厳しい中、賃上げは確実に人件費アップに直結するため、消費税引き上げは収益のマイナス要因と受け止めている企業もあることが浮き彫りとなった。
「その他」では、「熊本地震の影響」や「仕事量が不安定で固定費を上げられない」などの声があった。
Q5. 2013年以降の賃上げ回数を選んでください(択一回答)
2013年以降の賃上げ回数では、最多は「毎年(4回)」の3,443社(構成比42.5%)だった。次いで、「2回」が1,039社(同12.8%)、「実施しなかった(1回もなし)」が1,004社(同12.4%)と続く。この4年間で何らかの賃上げを約8割(同76.4%)の企業が実施していることがわかった。
資本金別で1回以上の賃上げを実施した企業をみると、1億円以上は67.5%(1,895社中1,281社)だったのに対し、1億円未満は79.1%(6,202社中4,907社)だった。小規模資本の企業ほど賃上げに積極的な結果となった。
Q6.「同一労働同一賃金」の導入は、雇用現場でどんな事態を想定されますか?(複数回答)
最も多かったのは「職務・職種の細分化」の2,935社(構成比36.2%)だった。「賃金水準の引き上げ」2,303社(同28.4%)、「非正規従業員の増加」1,641社(同20.2%)と続く。
資本金別の構成比でみると、「非正規従業員の増加」は1億円以上では21.2%(1,895社中403社)なのに対し、1億円未満では19.9%(6,202社中1,238社)だった。また、「生産性の向上」は、1億円以上が10.6%(1,895社中201社)なの対し、1億円未満では13.6%(6,202社中845社)だった。
「その他」では、「中小企業では浸透しない(理由をつけて実施しない)」や「配置転換の横行」など制度導入に懐疑的な意見や危惧する声もある一方、「職場内の人間関係の安定化に繋がる」といった意見もあった。
2016年に賃上げを実施した企業は8割に達した(Q1)。資本金別では、1億円以上の企業が83.3%だったのに対し、1億円未満では79.0%にとどまった。ベースアップを実施した企業は、1億円以上は26.9%なのに対し、1億円未満は24.6%となっており、小規模資本の企業は固定費の増加に繋がりやすいベースアップをしにくい状況も見え隠れする。
賃上げを実施した理由では、「従業員の定着・確保を図るため」が、資本金1億円以上では55.2%だったのに対し、1億円未満では71.9%にのぼった(Q2)。生産年齢人口の減少や景気拡大による有効求人倍率の改善の中で、小規模資本の企業は人材確保に苦慮している姿がうかがえる。
賃上げ幅は、「月2,500円未満(年3万円未満)」が49.1%で最多だった。資本金1億円以上で49.9%、1億円未満で48.8%とほぼ拮抗した(Q3)。
賃上げを実施しなかった理由では、資本金1億円未満の44.6%(1,298社中580社)が「業績低迷」をあげている(Q4)。こうした企業は、人材への投資が疎かになり、さらに業績が伸び悩むといった悪循環に陥る可能性も孕んでいる。
一方、人材確保には多様な働き方の推進も必要となってくる。2月23日、安倍首相は1億総活躍国民会議で「同一労働同一賃金の実現に向けて法改正の準備を進める」と明言した。今回のアンケートで、「同一労働同一賃金」が導入された場合に想定される事態を聞いたところ、「職務・職種の細分化」が約4割(36.2%)と最多だった(Q6)。「非正規従業員の増加」は、資本金1億円以上では21.2%なのに対し1億円未満では19.9%だった。大規模資本の企業ほど、「非正規従業員の増加」を想定している。職務の細分化による非正規従業員の増加は雇用者所得の増加に結び付くのか。こうした点も含めて慎重な議論が必要だ。