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2016年3月期決算 上場企業「継続企業の前提に関する注記」調査

 2016年3月期決算を発表した上場企業2,447社のうち、監査法人から「継続企業の前提に関する注記(ゴーイングコンサーン注記)」(以下、GC注記)が付いた企業は24社だった。前中間期(2015年9月第2四半期、22社)より2社増加し、2015年3月期決算(27社)より3社減少した。GC注記に至らないが、事業継続に重要な疑義を生じさせる事象がある場合に記載する「継続企業に関する重要事象」(以下、重要事象)は43社で、前中間期(38社)より5社増加した。
 GC注記と重要事象の合計数はリーマン・ショック直後の2009年3月期にピークの145社を記録、以降は減少推移をたどってきたが、2015年3月期で6年ぶりに増加に転じた。GC注記や重要事象記載企業は新興市場や東証2部など新興・中堅企業が大半を占め、上場企業の中でも大手との二極化が鮮明となっている。


  • 本調査は、3月期決算で東証から新興市場までの全証券取引所に株式上場する企業を対象に、2016年3月期決算短信で「GC注記」及び「重要事象」が記載された企業の内容、業種を分析した。(6月6日までの決算短信発表分)

GC注記 重要事象の付記企業は合計67社 前中間期から7社増加

 GC注記企業は24社で、2015年9月期中間決算(22社)から2社増加した。前中間期のGC注記企業のうち16社が引き続き注記が付き、(株)省電舎(東証2部、東京都港区)、東洋刃物(株)(東証2部、宮城県富谷町)、(株)TBグループ(東証2部、文京区)、パルステック工業(株)(東証2部、浜松市北区)、朝日工業(株)(JASDAQ、豊島区)の5社の注記が外れた(このうち東洋刃物、TBグループの2社は重要事象が記載されている)。
 前中間期にはなかったが、新たにGC注記が付いたのは8社。このうち(株)郷鉄工所(東証2部、岐阜県垂井町)をのぞく7社は、前中間期では「重要事象の記載」にとどまっていたが本決算ではGC注記が付いた。また、前中間期にGC注記が付いていた(株)やまねメディカル(JASDAQ、東京都中央区)は6月6日現在、会計処理の変更に伴う膨大な作業の発生を理由に決算発表が遅延中で、開示は6月初旬を目標としている。

 重要事象の記載があった上場企業は43社で、前中間期(38社)より5社増加した。前中間期では記載がなかったが、当決算で新たに記載されたのは19社(構成比44.1%)と4割超を占めた。再建の行方に注目が集まるシャープ(株)(東証1部、大阪市阿倍野区)は3月末時点で債務超過に転落した。前中間期に引き続き本決算でも重要事象が記載され、今後東証の上場基準により2部に指定替えとなる見込み。

3月期決算企業 GC・重要事象件数推移

GC注記企業 本業不振が9割

 GC注記企業24社を理由別に分類すると、22社(構成比91.6%)が重要・継続的な売上減や損失計上、営業キャッシュ・フローのマイナスなど本業不振を理由としている。次いで「財務制限条項に抵触」「債務超過」「資金繰り・調達難」がそれぞれ3社(同12.5%)と続き、「借入過多・財務悪化」が2社(同8.3%)だった。
 売上・損益が悪化し、本業面で苦戦が続く企業が圧倒的。また、債務超過は1年内に解消できなければ原則上場廃止となるため、債務超過企業の3社は、業績回復による利益確保か新たな資本増強策などが求められている。

  • 注記理由は重複記載のため構成比合計は100%を超える。

業種別では製造業が約5割 新興市場と中堅規模が中心

 GC注記企業24社の業種別では、製造業が11社(構成比45.8%)と5割近くを占めた。大手の下請けメーカーなど中堅規模が中心。上場区分別では、24社のうちJASDAQ、マザーズの新興市場が15社(同62.5%)と6割を占めた。業績の浮上が厳しい中堅企業と新興市場に偏在していることが特徴的といえる。

業種別 GC注記企業

上場区分別 GC注記企業

 上場企業の倒産は年度別ではリーマン・ショック時の2008年度の45社をピークに2009年度7社、2010年度10社、2011年度4社、2012年度6社と減少傾向が続き、2015年度は2社にとどまった。
 上場企業の倒産が沈静化する一方で、GC注記と重要事象の記載企業数が増勢に転じたのは、上場企業の相次ぐ会計不祥事に対し、監査法人の監査が厳格化・保守化していることが背景にあるとみられる。ただ、円安を背景に好決算が続出した大手に対し、業績不振からの脱却が難しい企業との二極化は鮮明になっている。
 こうしたなか今年4月、金融庁の諮問機関、金融審議会のディスクロージャー作業部会が決算短信開示の簡略化を推進する報告書を提出した。今後の動向は流動的だが、決算短信におけるGC注記・重要事象等の記載方法が大幅に変わる可能性もある。即時性と正確性という情報開示のあり方が問われるなか、GC注記・重要事象の記載企業に注目が集まっている。

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