• TSRデータインサイト

「熊本県への進出企業」調査

 平成28年熊本地震は発生からほぼ一週間が過ぎたが、相次ぐ余震のため工場の操業停止や事業所、店舗の休止などの長期化も懸念されている。
 東京商工リサーチでは熊本県に本社を構える企業(3万5,173社)以外で、熊本県に工場や営業所、支社店などを進出した企業を調査した。
 これによると、熊本県に進出している企業は4,568社だった。進出企業の事業所総数は8,218件にのぼり、すべての都道府県から熊本県に進出し、事業所を設置していることがわかった。
 甚大な被害が出た益城町は125件で、運輸業の進出が多い。南阿蘇村は25件、阿蘇市は76件の事業所があり、サービス業の比率が高かった。
 都道府県別では、東京都が1,490社、事業所2,977件と最多だった。進出した地域では熊本市が全体の55.2%を占め、熊本市への一極集中を裏付けている。


  • 本調査は東京商工リサーチの企業データベース(285万社)から、熊本県以外に本社を置き、熊本県に事業所(支社店、営業所、工場ほか)を設置した企業を抽出、分析した。

東京からの進出が最多 事業所の進出先は熊本市が5割超

 熊本県以外に本社を置き、熊本県に支店、営業所、工場などの事業所を設置した企業は4,568社で、事業所総数は8,218件だった。
 熊本県に進出した企業の都道府県別は、社数は東京が1,490社(構成比32.6%)で最多。次いで、隣接する福岡1,049社(同22.9%)、大阪458社(同10.0%)、鹿児島175社(同3.8%)の順。事業所数も東京が2,977件(同36.2%)で最も多く、 次いで、福岡1,929件(同23.4%)、大阪655件(同7.9%)、鹿児島338件(同4.1%)の順だった。

熊本県進出企業 都道府県別

進出した事業所は熊本市に約5割が集中

 熊本県内の市町村別事業所数では、熊本市の4,538件(構成比55.2%)が突出してトップ。次いで、八代市542件(同6.6%)、菊陽町329件(同4.0%)の順で、土砂崩れや橋梁落下など甚大な被害が出た阿蘇市、南阿蘇村はそれぞれ76件、25件だった。

熊本県進出企業の市町村別事業所数

産業別 サービス業が最も多く、製造業の比率も高い

 進出企業の産業別は、最多がサービス業他の1,154社(構成比25.2%)。次いで、卸売業937社(同20.5%)、製造業891社(同19.5%)、小売業626社(同13.7%)の順だった。
 人口の多い熊本市に、サービス業他と小売業の店舗などの出店が集中し、この2業種で全体の約4割を占めた。また、九州はトヨタ自動車や日産、ホンダなど自動車、二輪車メーカーが主要工場を開設している関係で、熊本県内にも自動車や半導体などの大手メーカーが部品工場を開設、同業種の関連産業が集積し製造業の比率も高かった。
 産業別売上高(熊本県以外も含む総売上高)では、金融・保険業の71兆7,132億5,800万円がトップ。社数が最も多いサービス業他が45兆3,020億800万円、製造業が43兆8,040億6,900万円の順だった。製造業は社数の割に売上高比率が高く、大手企業の進出を裏付ける結果となった。

熊本県進出企業 産業別

事業所区分 店舗が最多で2,948件、工場は306件

 進出企業の事業所区分では、最多が店舗で2,948件(構成比35.8%)。次いで、営業所1,875件(同22.8%)、支社店1,605件(同19.5%)、事業所662件(同8.0%)、工場306件(同3.7%)の順だった。
 九州の真ん中に位置し、九州新幹線の開通や観光資源に恵まれた立地条件を背景に、店舗出店が目立った。また、経済活動でも古くから福岡と並ぶ九州経済の要衝の地であり、営業所や支社店、事業所などの拠点が多く置かれている。また、工場進出は306件だった。自動車や電機・半導体などの大手メーカーの進出に伴い、水や労働力が豊富で交通アクセスにも恵まれた熊本県内に工場を開設した企業が多いようだ。

熊本県進出企業 事業所区分別

 4月14日に発生した「熊本地震」は、その後も余震が相次いでいる。ライフラインなどの復旧は徐々に進んでいるが、余震で経済活動の復旧は遅れており、大手メーカーの工場休止など、日本全体への経済的ダメージも小さくない。
 熊本県は全国から多くの企業が進出しているが、地震の直接的な被災による工場や店舗の休止だけでなく、九州新幹線や高速道路、一般道路の被災など間接的な影響によるGWの観光客減少など、復興のスピード次第ではその影響はしばらく尾を引くことも危惧される。また、工場の操業停止が長引くと、その影響は九州から全国の様々な産業に広がる可能性もある。
 被災した熊本県内に本社を構える企業だけでなく、店舗や工場など進出企業の復興も急がれるが、同時に被災者の一日も早い生活復旧で日常を取り戻すことが欠かせない。

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

「社長の出身大学」 日本大学が15年連続トップ 40歳未満の若手社長は、慶応義塾大学がトップ

2025年の社長の出身大学は、日本大学が1万9,587人で、15年連続トップを守った。しかし、2年連続で2万人を下回り、勢いに陰りが見え始めた。2位は慶応義塾大学、3位は早稲田大学と続き、上位15校まで前年と順位の変動はなかった。

2

  • TSRデータインサイト

内装工事業の倒産増加 ~ 小口の元請、規制強化で伸びる工期 ~

内装工事業の倒産が増加している。業界動向を東京商工リサーチの企業データ分析すると、コロナ禍で落ち込んだ業績(売上高、最終利益)は復調している。だが、好調な受注とは裏腹に、小・零細規模を中心に倒産が増加。今年は2013年以来の水準になる見込みだ。

3

  • TSRデータインサイト

文房具メーカー業績好調、止まらない進化と海外ファン増加 ~ デジタル時代でも高品質の文房具に熱視線 ~

東京商工リサーチ(TSR)の企業データベースによると、文房具メーカー150社の2024年度 の売上高は6,858億2,300万円、最終利益は640億7,000万円と増収増益だった。18年度以降で、売上高、利益とも最高を更新した。

4

  • TSRデータインサイト

ゴルフ練習場の倒産が過去最多 ~ 「屋外打ちっぱなし」と「インドア」の熾烈な競争 ~

東京商工リサーチは屋外、インドア含めたゴルフ練習場を主に運営する企業の倒産(負債1,000万円以上)を集計した。コロナ禍の2021年は1件、2022年はゼロで、2023年は1件、2024年は2件と落ち着いていた。 ところが、2025年に入り増勢に転じ、10月までの累計ですでに6件発生している。

5

  • TSRデータインサイト

解体工事業の倒産が最多ペース ~ 「人手と廃材処理先が足りない」、現場は疲弊~

各地で再開発が活発だが、解体工事を支える解体業者に深刻な問題が降りかかっている。 2025年1-10月の解体工事業の倒産は、同期間では過去20年間で最多の53件(前年同期比20.4%増)に達した。このペースで推移すると、20年間で年間最多だった2024年の59件を抜いて、過去最多を更新する勢いだ。

TOPへ