東北被災3県 新設法人調査
3月11日で東日本大震災から5年目を迎える。震災で甚大な被害を受けた岩手県、宮城県、福島県の被災3県では、震災から2015年10月までに1万7,367社が新しく設立(以下、「新設法人」)された。この新設法人のうち、売上高が判明した4,860社の売上高合計は7,328億円、従業員数が判明した4,718社の従業員合計は3万8,243人にのぼることがわかった。
岩手、宮城、福島の被災3県は、震災後から新設法人が前年を上回るペースで増加し、伸び率は全国平均を大きく上回っていた。だが、2014年に3,910社(前年4,039社、3.1%減)と震災後、初めて減少に転じた。2015年1-10月も3,067社(前年同期3,315社、7.4%減)にとどまり、全国的には新設法人が増加ペースとなるなか、被災3県は前年割れで推移している。
震災発生から年数が経過するにつれ、復興需要を見込んだ法人設立ラッシュが落ち着いたとみられる。同時に、新設法人の減少は地域の経済的な停滞を示唆している可能性も否めない。また、産業別では、被災3県では復興工事の需要増から建設業が全体の23.2%(2015年1-10月)を占め、全国の建設業の新設法人構成比(11.9%)の約2倍と突出。法人格別ではボランティア団体など特定非営利活動法人が89社(2014年130社、31.5%減)と減少。農事組合法人が69社(同36社、91.6%増)と2倍近く伸び、震災から時間の経過に伴い新設法人に変化がみられる。
- ※本調査は、東京商工リサーチ(TSR)の企業データベース(282万社)に収録されている企業データの中から、2010年1月-2015年10月までに設立された新設法人を抽出し、分析した。
震災後の新設法人 売上高7,328億円、従業員数3万8,243人
東日本大震災から2015年10月までに被災3県で設立された新設法人1万7,367社のうち、売上高が判明した4,860社では、直近決算の売上高合計は7,328億8,900万円だった。また、従業員数が判明した4,718社の合計は3万8,243人で、新設法人の雇用への寄与度は高い。
県別の売上高は、宮城県が3,589億8,600万円(構成比48.9%)で約半分を占め、以下、福島県(2,462億8,200万円、構成比33.6%)、岩手県(1,276億2,100万円、同17.4%)の順だった。
従業員数は、宮城県が1万6,032人(構成比41.9%)で約4割を占めた。次いで、福島県の1万2,660人(同33.1%)、岩手県でも9,551人(同24.9%)と1万人近い雇用を生んでおり、各県での雇用の受け皿として貢献していることがわかる。
売上高1億円未満が7割超 従業員10人未満が8割超
震災から2015年10月までに被災3県で設立された新設法人で、売上高が判明した4,860社を規模別に分類すると、売上高1億円未満が3,717社(構成比76.5%)で7割超を占めた。次いで、1億円以上5億円未満が975社(同20.1%)、5億円以上10億円未満が97社(同2.0%)と続き、売上高100億円以上は9社(同0.2%)にとどまった。
従業員数が判明した4,718社では、従業員4人以下が2,737社(同58.0%)と約6割を占め、5人以上10人未満は1,153社(同24.4%)だった。10人以上20人未満は524社(同11.1%)で、従業員10人未満の企業が8割以上を占めている。一方、従業員300人以上は9社(同0.2%)にとどまり、最多はグループの持株会社化に伴い新設された飲食チェーンの(株)幸楽苑(TSR企業コード:014924161、郡山市、設立2015年5月)の1,000人だった。
売上高、従業員とも小・零細規模が中心だが、地域の雇用確保には大きく貢献している。今後は、こうした企業の企業基盤の拡充と体力強化が課題になってくるだろう。
震災後の新設法人 売上高トップはいすゞ自動車東北
震災以降に設立された被災3県の新設法人の売上高トップは、いすゞ自動車東北(株)(仙台市宮城野区、設立2012年10月、輸送機器販売)の734億9,200万円で、2位以下を大きく引き離した。東北の販売会社4社を統合して新設され、旧会社の事業を承継した。
2位は建設機械大手のキャタピラージャパンの子会社で、東北地区の販売会社から会社分割して設立されたキャタピラー東北(株)(仙台市青葉区、設立2012年3月、建設機械販売)の347億5,000万円。3位は宮城県内で3カ所の県立病院を運営する地方独立行政法人宮城県立病院機構(仙台市青葉区、設立2011年4月、病院運営)の153億3,500万円。売上高上位は再編などによる新会社の設立で、従来の事業基盤を引き継ぐケースが目立った。
また、売上高上位30社の中に8位の二本松市復興支援事業(協)(二本松市、設立2012年11月)、9位の須賀川除染支援事業(協)(須賀川市、設立2012年11月)、13位の白河市除染支援事業(協)(白河市、設立2012年12月)など、原発事故に見舞われた福島県で除染業務を手掛ける7社がランクインした。これは原発事故後の除染・復旧事業を目的に設立され、協同組合方式で運営されたもので、地元の建設会社なども加わり地域の除染活動に携わっている。
20位には首都圏地盤の住宅メーカー、ポラスグループの傘下で木材プレカット工場を新設したポラテック東北(株)(宮城県加美町、設立2012年3月)がランクイン。このほか、売上高上位30社には入らないがトヨタ系列の自動車部品メーカー、豊田合成東日本(株)(TSR企業コード:142358835、栗原市、設立2012年12月、売上高8,300万円)、航空機部品製造のジャムコの関連会社、(株)ジャムコ エアロマニュファクチャリング(TSR企業コード:142360406、名取市、設立2013年1月、売上高10億2,800万円)など、大手資本による工場進出を通じた法人設立もみられ、地域経済の活性化や雇用の受け皿として寄せられる期待は大きい。
2015年新設法人 産業別 建設業の増加と卸売業の減少続く
被災3県で2015年1-10月の新設法人を産業別でみると、サービス業他1,234社(構成比40.2%)がトップ。以下、建設業712社(同23.2%)、小売業307社(同10.0%)、不動産業213社(同6.9%)と続く。過去5年間の産業別の構成比推移では、建設業の上昇が顕著で、2011年(同17.8%)から2015年(23.2%)と5.4ポイント上昇、被災地での復興工事需要が建設業者の設立ラッシュを生んだ。
なお、2015年1-10月の全国の新設法人の産業別構成比は、トップがサービス業他(構成比41.3%)で、次いで建設業(同11.9%)、不動産業(同10.8%)の順。被災3県の建設業は構成比23.2%と、全国の約2倍に達しており、復興工事の需要が根強いことを裏付けている。
一方、構成比のダウンが続いているのは卸売業で、2011年(構成比4.4%)から2015年(同2.2%)は半分にダウンし、全国の卸売業の構成比(5.2%)と比べても低水準だった。
被災3県では建設業を中心に政策的な支援を受けた産業が先行している。地元復興に直結している物流や消費活動などに絡む内需関連の産業の育成が遅れ、後手に回っている状況も透けて見える。復興需要に依存した産業構成からの脱皮が急がれる。
資本金別 「1千万円未満」が9割以上
2015年1-10月の被災3県の新設法人の資本金別は、最多が1百万円以上5百万円未満の1,482社(構成比48.3%)だった。次いで、1百万円未満が572社(同18.7%)、5百万円以上1千万円未満が556社(同18.1%)と続き、1千万円未満の法人が9割以上(同94.7%)を占めた。
過去5年間でみても1千万円以上の新設法人の構成比は減少傾向にあり、小規模資本で事業化に踏み切るケースが増えている。
法人格別 農事組合法人が増加
2015年1-10月の被災3県の新設法人の法人格別で、最も多かったのは「株式会社」の2,253社(構成比73.5%)で、7割以上を占めた。次いで、「合同会社」の425社(同13.9%)、「一般社団法人」143社(同4.7%)と続く。ボランティア事業などが中心の「特定非営利活動法人(NPO法人)」は、2013年まで構成比が5%台で推移していたが、2014年以降はダウンが顕著で、2015年1-10月は89社(構成比2.9%)にとどまっている。
一方、社数は少ないが増加率の伸びが顕著なのは「農事組合法人」だ。2015年1-10月は69社(構成比2.2%)で、2014年の新設法人(36社)を大きく上回っている。地震や津波被害で大きな痛手を負った被災地で、補助金や交付金を得ながら農・畜産業の再生や地域復興にかける農事組合法人の設立の動きが目立っている。農業は地域経済の基盤でもあり、かかる期待も大きい。
「沿岸部離れ」に歯止め
2015年1-10月の被災3県の新設法人の所在地は、内陸部(93市区町村)が2,043社(構成比66.6%)、沿岸部(38市区町村)は1,024社(同33.4%)で、内陸部が沿岸部の約2倍だった。
津波の影響や都市部への人口集中などで、内陸部に新設法人が多い傾向に変化はない。ただ、沿岸部と内陸部別の構成比推移は、2014年は3県とも沿岸部の新設法人が大きく減少したが、2015年は3県とも沿岸部の構成比が高まっている。沿岸部の港湾整備事業も徐々に進んでおり、沿岸部離れに歯止めがかかったのかどうか、今後の推移が注目される。
甚大な被害をもたらした東日本大震災の発生から5年。地域の復興は徐々に進み、震災後の被災3県の新設法人は、直近決算の売上高で7,328億円を上げるまでに成長している。また、雇用の受け皿の重責も担い、雇用されている従業員は3県で3万8,243人に達することがわかった。
震災後の被災3県の新設法人は大きな経済効果を生み出すと同時に、雇用機会も生んでいる。避難していた住民が戻れるように働く場所を提供し、地域経済の原動力にもなっている。
だが、2015年1-10月累計の被災3県の新設法人数は2014年から減少に転じ、新設法人の増加が続く全国平均とは乖離が大きくなっている。震災から3年までの勢いに陰りが出て、減少推移に転じている。産業別でも、建設業の構成比が全国平均の約2倍と突出し、まだ地場経済の自立という側面が見出せずに復興需要に依存していることが否めない。
震災から5年が経過し、政府の復興方針も「集中復興期間」(~2015年度)から「復興・創生期間」(2016年度以降5カ年)へ移行する。復興予算額の減少や予算の使途も変容していくが、そんな中で一例だが「農事組合法人」の設立が増加しているように、新たな形態や分野での法人設立の取り組みも生まれている。
新設法人は被災地の産業復興の担い手と労働力の受け皿でもあり、新設法人の減少は今後の被災3県の地域経済に停滞を招く可能性もある。それだけに起業や事業意欲を後押しする国や行政の支援は、これまで以上に大切になっている。