「一般貸切旅客自動車運送業者」の動向調査
1月15日、(株)イーエスピー(TSR企業コード:332229777、東京都羽村市)が運行するスキーツアーの大型バスが長野県軽井沢町の碓氷バイパスから転落した。乗員乗客41名のうち、15名が死亡する大惨事となった。
東京商工リサーチでは、保有する企業データベース(304万社)を活用し、「一般貸切旅客自動車運送業者」を調査、分析した。これによると一般貨物旅客自動車運送業者は国内に2,910社あることが分かった。従業員数の判明した2,229社のうち、約6割(62.4%)にあたる1,392社が従業員30名未満の小・零細業者だった。また、業績が判明した1,970社のうち、約9割の1,725社(87.5%)が売上高10億円未満の企業だった。
- ※本調査は、東京商工リサーチが保有する304万869社の企業データベースから、主業または従業(兼業)として「一般貸切旅客自動車運送業」を営む企業を抽出し、分析した。
- ※(株)イーエスピーは、主業が警備業、従業が一般貸切旅客自動車運送業。
従業員数別、30名未満が62.4%
2,910社のうち、不明を除き従業員数が判明した2,229社の内訳は、従業員10名未満が698社(構成比31.3%)と最も多かった。次いで、10名以上30名未満が694社(同31.1%)、30名以上50名未満が288社(同12.9%)だった。一方、100名以上は320社(同14.3%)にとどまった。
従業員30名未満が1,392社(同62.4%)と約6割を占め、小・零細規模の業者が多い業界であることがわかった。
売上高別、10億円未満が約9割
2,910社のうち、不明を除き1,970社の売上高が判明した。内訳は、1億円以上5億円未満が837社(構成比42.4%)と約4割を占めた。次いで、1億円未満が665社(同33.7%)、5億円以上10億円未満が223件(同11.3%)、10億円以上50億円未満が194社(同9.8%)だった。10億円未満の小・零細規模が1,725社(同87.5%)と9割近くを占める一方、売上高50億円以上は51社(同2.5%)にとどまった。
売上高規模からも小・零細規模の業者が多い構図が鮮明になった。
地区別、最多は関東の988社
実質上本社の地区別では、関東が988社(構成比33.9%)でトップ。次いで、九州の357社(同12.2%)、近畿の339社(同11.6%)、中部の315社(10.8%)、東北の304社(同10.4%)と続いた。
東北と九州に300社以上の企業が確認され、中部や近畿とほぼ肩を並べている。
業歴別、業歴30年未満が6割
2,910社のうち、2,899社の業歴が判明した。これによると業歴10年以上30年未満が1,316社(不明を除く、構成比45.3%)で最多。次いで、30年以上50年未満が629社(同21.7%)、50年以上70年未満が383社(同13.2%)だった。
業歴30年未満は1,766社(同60.9%)と6割を占めたが、5年未満も179社(同6.1%)あり、新規参入が多く競争が激しくなる構図が透けて見える。
主業別業種、従業トップは一般乗用旅客自動車運送業
主業として一般貸切旅客自動車運送業を営む企業は、1,823社(構成比62.6%)だった。一般貸切旅客自動車運送業を従業(兼業)とする企業の主業は、トップが一般乗用旅客自動車運送業で296社(同10.1%)あった。次いで、一般乗合旅客自動車運送業260社(同8.9%)、一般貨物自動車運送業153社(5.2%)と続く。一般貸切旅客自動車運送業を従業とする企業の多くが、運輸事業を手掛けていることがわかった。
(株)イーエスピーは警備業が主業だが、2,910社のうち、警備業が主業は3社あった。同社の代表は中古自動車販売と自動車整備業も経営しており、関連事業を含めて一定の業容規模を確保している。
一般貸切旅客自動車運送業を主業とする1,823社(不明を除く)をみると、売上高10億円未満が1,077社(構成比95.0%)、従業員30名未満は979社(同75.5%)だった。主業のみに絞ると、小・零細規模の業者が圧倒的に多く、価格決定力が弱い構図が浮き彫りとなった。
一般貸切旅客運送業の倒産、2014年以降は件数が沈静化
2000年2月の改正道路運送法により、いわゆる「需給調整規制」が廃止された翌年の2001年の企業倒産は11件と二ケタの大台を突破した。その後、沈静化したものの、リーマン・ショック(2008年)前より10件前後で推移し、「新高速乗合バス」制度が開始された2013年には12件に増加した。以降は、中小企業支援策の効果もあって倒産が抑制され、2014年は5件、2015年は6件と沈静化している。ただ、2001年、2013年のように制度改正があると倒産が増加する傾向があり、今後、関連法令が改正された場合には倒産動向に変化がみられる可能性もある。
まとめ
2012年に関越道で大型バスが防音壁に激突し7名が死亡した事故は記憶に新しいが、今回また大型バス事故により15名の尊い命が奪われた。2012年の事故をきっかけに国土交通省は、運転手の1日の最大運転距離を670キロから、昼は500キロ、夜は400キロへ規制を強化し、大型バスの安全強化に取り組んできた。だが、再び碓氷バイパスでの事故が起きた。
どんなに規制を強化しても企業側に法令を遵守する体制が構築されないと悲劇は繰り返される。報道によると、運行会社の代表は、道路運送法で定めた運行前の運転者への点呼を自身の遅刻で行っていなかったとされる。こうした体制不備の是正や、法令遵守の意識は事業規模の大小とは関係なく構築されなければならない。
本調査で、一般貸切旅客自動車運送業者2,910社のうち、87.5%(不明分を除く構成比)が売上高10億円未満で、62.4%(同)が従業員30名未満であることがわかった。同業を主業とする1,823社に限ると、95.0%(同)が売上高10億円未満で、75.5%(同)が従業員30名未満だった。
今回、事故を起こした企業の従業員も30名未満だった。小規模でコスト吸収が難しく旅行会社からの値下げ圧力に弱くても、安全に関わる費用の削減は許されない。
今後、関連法令の改正をおこなう場合には、小・零細規模の業者が多い実態を鑑みた上で、これら企業が着実に履行出来るかを重視する必要がある。