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国内112銀行(2015年9月中間期単独決算ベース) 「リスク管理債権状況」調査

 国内112銀行の2015年9月中間期の決算が公表された。金融機関の不良債権を表す「リスク管理債権合計」は8兆2,717億円で、前年同期より7.7%減少し、3年連続で前年同期を下回った。また、9月期としては08年9月中間期以降では最小額となった。業態別では、大手行が7行のうち5行、地方銀行が64行のうち52行、第二地銀が41行のうち39行で前年同期を下回り、リスク管理債権額は大手行(前年同期比7.3%減)、地方銀行(同6.7%減)、第二地銀(同11.8%減)の全業態で減少した。
112行の「貸倒引当金合計」は3兆3,400億円(同5.7%減)と、6年連続で減少した。2015年9月中間期で貸倒引当金を積み増した銀行は21行(構成比18.7%)で、前年同期(26行)より5行減少した。
112行の「貸出金合計」は486兆6,845億円(前年同期比4.3%増)と5年連続で増加し、2008年9月中間期以降の8年間で貸出金は最高となった。貸出金を伸ばしたのは103行(前年同期107行)だった。
「貸出金利息合計」は3兆1,292億円(同1.6%減)で、2年ぶりに減少。全業態で前年同期を下回り、前年同期を上回ったのは大手行4行、地方銀行6行、第二地銀7行の計17行(構成比15.1%)にとどまった。貸出金を伸ばす一方、貸出金利息は減少しており、銀行間での金利競争の激しさがうかがわれる。
2013年3月末に中小企業金融円滑化法が終了し2年が経過した。終了後も、各銀行は中小企業等のリスケ要請に対して柔軟に応じていて、倒産件数はバブル期の水準にとどまっている。9月中間期としては2年連続でリスク管理債権額は減少しているが、円安によるコストアップ、人手不足、人件費高騰など懸念材料も多く、引き続きリスク管理債権の推移が注目される。

  • 本調査は国内112銀行の2015年9月中間期決算の単独決算ベースで、リスク管理債権(破綻先債権、延滞債権、3カ月延滞債権、貸出条件緩和債権)を集計し、分析した。
  • 銀行業態は、1.埼玉りそなを含む大手行7行、2.地方銀行は全国地銀協加盟行、3.第二地銀は第二地銀協加盟行。

貸出金・リスク管理債権推移

リスク管理債権 9月中間期としては最小

 112行の2015年9月中間期のリスク管理債権合計は8兆2,717億円で、前年同期(8兆9,698億円)より6,981億円減(7.7%減)だった。貸出金に占めるリスク管理債権比率は1.7%で、前年同期(1.9%)より0.2ポイント改善した。
リスク管理債権の内訳をみると、「破綻先債権」が2,501億円(前年同期比13.7%減)、「延滞債権」が5兆9,481億円(同9.9%減)、「貸出条件緩和債権」が1兆9,678億円(同0.2%減)と減少した。
「破綻先債権」はリーマン・ショック後の09年9月中間期(1兆3,367億円)の約2割(18.7%)まで圧縮。一方、「3カ月以上延滞債権」が1,053億円(同2.7%増)と唯一、増加した。
融資先の業績改善や再生ファンドの支援で再建計画を策定したことで、債務者区分の引き上げもあるが、依然として業績改善が遅れた中小企業も多い。
2013年3月末に中小企業金融円滑化法が終了した。しかし、金融庁が2015年6月に公表した中小企業者向けの金融機関の貸付条件変更等の状況(2015年3月末)では、申込件数(累計)が660万6,401件で、10-3月の半年間の申込件数は52万8,266件と、依然として50万件台の申込件数が続いている。

地区別 全10地区で前年同期を下回る

 リスク管理債権額を銀行の本店所在地でみると、全10地区で前年同期を下回った。北海道が前年同期より12.1%減(前年同期比266億円減)と減少率が最も大きかった。次いで、中部が同10.1%減(同931億円減)、東京が同9.4%減(同2,889億円減)、四国が同8.8%減(同345億円減)、北陸が同7.8%減(同219億円減)、中国が同7.0%減(同302億円減)、近畿が同6.9%減(同649億円減)の順。10地区のうち5地区で、全体の減少率(同7.7%減)を上回った。
減少率が最も大きかった北海道は、北海道銀行が前年同期より11.7%減(96億円減)、北洋銀行が同12.4%減(170億円減)と、2行ともリスク管理債権が前年同期よりも1割減少。一方で、減少率が最小だった九州(前年同期比2.4%減)は、21行のうち16行(構成比76.1%)が前年同期を下回った。

リスク管理債権 3行が1割以上の増加

 2015年9月中間期の業態別のリスク管理債権額は、大手行が2兆9,873億円(前年同期比7.3%減)、地方銀行4兆248億円(同6.7%減)、第二地銀が1兆2,595億円(同11.8%減)と、全業態で前年同期を下回った。
銀行別でのリスク管理債権では、鹿児島銀行が前年同期より14.8%増と、最も増加率が大きかった。破綻先債権(43億500万円→36億4,000万円)、3カ月以上延滞債権(5,400万円→5,200万円)が減少したが、延滞債権(229億4,900万円→234億9,400万円)、貸出条件緩和債権(433億6,200万円→539億5,500万円)が増加し、リスク管理債権額を押し上げた。以下、りそな銀行(前年同期比10.9%増)、豊和銀行(同10.2%増)と続き、3行が前年同期より1割以上の増加となった。
リスク管理債権が増加したのは16行で前年同数となり、大手行が2行(前年同期ゼロ)、地方銀行が12行(同9行)、第二地銀が2行(同7行)で、九州の銀行が5行を占めた。

貸出金は5年連続増加 貸出金利息は減少

 112行の2015年9月中間期の貸出金は486兆6,845億円(前年同期比4.3%増)で、5年連続で増加した。一方、貸出金利息は3兆1,292億円(同1.6%減)と、2年ぶりに前年同期を下回った。業態別の貸出金では、大手行(同4.9%増)、地方銀行(同3.7%増)、第二地銀(同3.2%増)と全業態で前年同期を上回った。しかし、貸出金利息は大手行1兆5,856億円(同0.5%減)、地方銀行1兆1,800億円(同2.5%減)、第二地銀3,635億円(同3.4%減)と、業態による格差が鮮明となった。
112行の2015年9月中間期の貸倒引当金(貸借対照表計上額)は3兆3,400億円(同5.7%減)。9月中間期としては2010年以降、6年連続で減少した。貸倒引当金が増加した銀行は21行(構成比18.7%)と、前年同期(26行)より5行減少した。

 金融庁が各金融機関に中小企業への貸出を促す一方、各金融機関が引き続きリスケに応じていることで企業倒産が抑制され、2015年度(4-9月)の全国企業倒産件数は7年連続で前年を下回った。
国内112行の2015年9月中間期決算では、全行の最終利益が黒字(79行が増益)となった。主な要因としては倒産減少による与信関連費用の低下が大きい。
2014年11月に『鹿児島銀行と肥後銀行』『横浜銀行と東日本銀行』、2015年11月に『常陽銀行と足利銀行』の経営統合が発表され、銀行の経営統合が少しずつ動き出した。しかし、依然として業績改善が遅れている中小企業も多く、また内需型の企業にとって円安による原材料の上昇などが収益を圧迫する懸念材料となっており、引き続きリスク管理債権の推移が注目される。

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