• TSRデータインサイト

2014年「老人福祉・介護事業者」の新設法人調査

 2014年(1-12月)に新しく設立された法人(以下、新設法人)は11万9,552社だった。このうち、老人福祉・介護事業者は3,645社で、新設法人の3.0%を占めた。高齢化社会の到来で2014年の老人福祉・介護事業者の新設法人数は、2010年(1,557件)に比べて2.3倍に増加した。しかし、増加基調から一変して前年より159件(4.1%減)減少し、2010年以降では初めて前年を下回った。
 東京商工リサーチの2015年1-9月の老人福祉・介護事業者の倒産は57件を数え、過去最悪ペースで推移している。新設法人で増勢を続けていた訪問介護事業や特別養護老人ホームだが、市場拡大を目指しながらの人手不足や人件費の高騰、施設への投資負担などの課題が徐々に明確になり、減少に転じた。こうしたことから老人福祉・介護事業の新設は、転換期を迎えているようだ。


  • 本調査は、東京商工リサーチの企業データベース(対象398万社)から、2010年-2014年に新しく設立された法人データのうち、業種コードで「老人福祉・介護事業」を抽出し、分析した。

業種別、訪問介護事業や特別養護老人ホームが減少

 業種別では、最多が「訪問介護事業」の2,905社(構成比79.7%)。次いで、「通所・短期入所介護事業」が356社(同9.7%)、「特別養護老人ホーム」が121社(同3.3%)と続く。
 前年比では、前年と同件数(4件)の介護老人保健施設を除き、すべてで減少した。減少率が最も大きかったのは「有料老人ホーム」で、21.6%減(148→116社)だった。次いで、「通所・短期入所介護事業」の15.8%減(423→356社)、「認知症老人グループホーム」の10.7%減(28→25社)の順。増加を続けた「訪問介護事業」や「特別養護老人ホーム」、養護老人ホームやケアハウスなどを含む「その他の老人福祉・介護事業」も減少へ転じた。

老人福祉・介護事業 新設法人年間推移

資本金別、資本金1千万円未満が全体の88.9%を占める

 資本金別では、「1百万円以上」が2,002社(構成比54.9%)と最も多く、「1百万円未満」が750社(同20.5%)、「5百万円以上」が492社(同13.5%)と続く。
 社会福祉法人やNPO法人など資本金の設定がない262社を除く、資本金1千万円未満は3,244社(前年3,371社)で、全体の88.9%(構成比88.6%)を占め、少額の資本金で設立する法人が目立った。

地区別、近畿と四国を除き減少

 地区別では、近畿と四国を除く7地区で前年を下回った。減少率では、北陸が前年比34.2%減(73→48社)が最も大きく、同地区では特に福井県が同76.4%減(17→4社)の減少が目立った。次いで、北海道が同21.3%減、中国が同14.0%減、東北が同13.6%減の順。
 一方、増加したのは2地区で、四国が前年比8.4%増(118→128社)で最も高く、近畿が同7.5%増(818→880社)だった。2地区とも訪問介護事業が増加し、件数を押し上げた。

地区別 老人福祉・介護事業 新設法人

都道府県別、大阪府が4年連続最多

 都道府県別では、大阪府が494社(前年比5.7%増、構成比13.5%)と4年連続で最も多かった。次いで、東京都が370社(同6.6%増、同10.1%)、愛知県が225社(同0.4%増、同6.1%)の順。

まとめ

 3年ごとに介護保険制度で介護報酬などが改定されるが、2012年4月の改正後は初期投資の少ない訪問介護事業を中心に新設法人が急増した。しかし、2014年は一転して減少へ転じ、老人福祉・介護事業者の倒産も増加を見せている。新設法人数の減少や倒産増は、深刻な「人手不足」による人件費アップや、法人数増加による競争激化も要因にあげられる。高齢者の増加から老人福祉・介護市場は今後も拡大が見込まれるだけに、安定したサービスの提供と経営基盤づくりが今後の課題になってくるだろう。

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

「社長の出身大学」 日本大学が15年連続トップ 40歳未満の若手社長は、慶応義塾大学がトップ

2025年の社長の出身大学は、日本大学が1万9,587人で、15年連続トップを守った。しかし、2年連続で2万人を下回り、勢いに陰りが見え始めた。2位は慶応義塾大学、3位は早稲田大学と続き、上位15校まで前年と順位の変動はなかった。

2

  • TSRデータインサイト

内装工事業の倒産増加 ~ 小口の元請、規制強化で伸びる工期 ~

内装工事業の倒産が増加している。業界動向を東京商工リサーチの企業データ分析すると、コロナ禍で落ち込んだ業績(売上高、最終利益)は復調している。だが、好調な受注とは裏腹に、小・零細規模を中心に倒産が増加。今年は2013年以来の水準になる見込みだ。

3

  • TSRデータインサイト

文房具メーカー業績好調、止まらない進化と海外ファン増加 ~ デジタル時代でも高品質の文房具に熱視線 ~

東京商工リサーチ(TSR)の企業データベースによると、文房具メーカー150社の2024年度 の売上高は6,858億2,300万円、最終利益は640億7,000万円と増収増益だった。18年度以降で、売上高、利益とも最高を更新した。

4

  • TSRデータインサイト

ゴルフ練習場の倒産が過去最多 ~ 「屋外打ちっぱなし」と「インドア」の熾烈な競争 ~

東京商工リサーチは屋外、インドア含めたゴルフ練習場を主に運営する企業の倒産(負債1,000万円以上)を集計した。コロナ禍の2021年は1件、2022年はゼロで、2023年は1件、2024年は2件と落ち着いていた。 ところが、2025年に入り増勢に転じ、10月までの累計ですでに6件発生している。

5

  • TSRデータインサイト

解体工事業の倒産が最多ペース ~ 「人手と廃材処理先が足りない」、現場は疲弊~

各地で再開発が活発だが、解体工事を支える解体業者に深刻な問題が降りかかっている。 2025年1-10月の解体工事業の倒産は、同期間では過去20年間で最多の53件(前年同期比20.4%増)に達した。このペースで推移すると、20年間で年間最多だった2024年の59件を抜いて、過去最多を更新する勢いだ。

TOPへ