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「経費削減アンケート」調査

 リーマン・ショックの世界同時不況から6年が経過し、ようやく景気回復の光明も差し始めた。しかし、今年4月の消費税増税により、業績回復への影響も懸念されている。そこで東京商工リサーチでは、全国の企業を対象に「経費削減策」についてアンケート調査を実施した。
今回のアンケートで、消費税増税後に新たな経費削減に取り組んでいる企業は半数(構成比53.5%)を占めた。経費削減の対象は、2社に1社が「水道光熱費」をあげ、中でも電気代の節約が目立った。
業績回復が二極化するなか、赤字企業の約6割が経費削減に取り組む一方、黒字企業は約5割と若干の温度差がみられた。震災の影響が残る東北は約6割が経費削減に取り組み、他地区より高い結果となった。

  • 本アンケートは2014年7月4日~17日にインターネットを通じて実施し、3,634社から有効回答を得て集計した。

半数が新たな経費削減に取り組む

 回答を得られた3,634社のうち、消費税増税後に新たな経費削減に取り組んでいる(検討中を含む)企業は1,946社(構成比53.5%)、取り組んでいない企業は1,688社(同46.4%)だった。バブル崩壊以降、収益確保のための経費削減は、経営努力の一環として徹底されてきた。しかし、半数以上の企業が消費税増税の対抗手段として、さらなる経費削減を進めていることがわかった。

Q1.消費税増税が行われた後、新たな経費削減に取り組んでいますか?

経費削減対象の最多は「水道光熱費」

 消費税増税後に経費削減に取り組んでいる1,946社の削減対象は、「水道光熱費」が1,007社(構成比51.7%)で最多だった。次いで、「接待交際費」が816社(同41.9%)、「その他」が718社(同36.8%)、「人件費」が647社(同33.2%)の順(複数回答あり)。「水道光熱費」の具体的な削減策は、「照明器具をLEDに切り替える」や「昼休みの消灯」「空調使用の時間制限」など電気代に関するものが目立った。また、「接待交際費」は「予算や回数を減らす」、「人件費」では「人員削減」や「役員報酬の減額」「残業の減少」が多かった。
「その他」では「運送費」「交通費」「燃料費」「通信費」などが目立ち、「信号待ちはアイドリングストップなどエコ運転の徹底」「エコカーへの切り替え」「高速道路を使わない」などが61社(同3.1%)あった。また、「経費すべて」や「削減できるものは何でも」といった涙ぐましい努力もあった。

Q2.取り組んでいる内容はどの項目ですか?(複数回答)

経費削減 4割の企業が数値目標を設定

 消費税増税後に新たに経費削減に取り組んだ1,946社のうち、目標を「設定している」は718社(構成比36.9%)だったのに対し、「設定していない」は1,226社(同63.0%)と、設定していない企業が多かった。未回答は2社(同0.1%)だった。目標を設定していない企業では、「経費削減には限度がある」「経費削減より売上拡大が優先」などの回答が挙がっている。
目標を設定している718社のうち具体的な数値目標を回答した710社では、削減率「10%未満」が354社(同49.8%)で最多だった。次いで「10%以上30%未満」が307社(同43.2%)、「30%以上」が49社(同6.9%)の順で、実現可能な数値を目標に設定している。
経費削減に取り組んだ感想として、良かったことは「経費削減が目に見えて進んだ」が837社、「会社・従業員の士気が向上した」が457社だった。一方悪かったことは、「思うように削減が進まなかった」が750社、「士気が下がった」が152社だった。(複数回答あり)
ほかに、「社員のコスト意識が高まった」「経費削減は限界」、「他社の削減例を知りたい」といった回答もあった。

Q3.経費削減目標を設定していますか?

各分類別

売上高別 1億円未満は6割が取り組む

 消費税増税後、経費削減に取り組んでいる企業1,946社のうち、売上高別では1億円未満(構成比58.4%)がトップだった。次いで、1億円以上5億円未満(同54.6%)、10億円以上50億円未満(同54.3%)の順だった。最も低かったのは100億円以上(同47.2%)で、売上規模が小さいほど経費削減に取り組む姿勢がみられた。

従業員数別 5人未満がトップ

 従業員数別では、経費削減に取り組んだ企業は、5人未満(構成比58.1%)が最高だった。次いで、50人以上100人未満(同57.8%)、5人以上10人未満(同53.6%)の順。最低は100人以上(同50.2%)だった。

資本金別 小規模ほど経費削減に積極的

 資本金別では、個人企業他(同58.6%)が最高だった。次いで、100万円以上1,000万円未満(同58.4%)、5千万円以上1億円未満(同53.4%)の順だった。1億円以上(同49.3%)は、唯一半数を下回った。資本金別では、小規模ほど経費削減に取り組んでいる割合が高かった。

産業別 運輸業と不動産業が6割以上

 経費削減に取り組んでいる企業の産業別構成比は、燃料費高騰などの影響が大きい運輸業(構成比63.8%)が最高だった。次いで、不動産業(同61.9%)、農・林・漁・鉱業(同58.8%)、小売業(同58.6%)、サービス業他(同56.8%)の順。
一方、唯一、半数を下回ったのは情報通信業(40.6%)だった。ソフトウェア業を中心とした情報通信業は、回答企業の79.8%が黒字だったが、堅調な業績に支えられ、経費削減に取り組む企業は他の産業より低水準だった。

損益別 赤字企業の6割が取り組む

  有効回答が得られた3,634社のうち、最新決算が黒字だったのは2,849社、このうち消費税増税後に経費削減に取り組んでいる企業は1,493社(構成比52.4%)だった。一方、赤字企業は505社で、このうち消費税増税後に経費削減に取り組んでいる企業は303社(同60.0%)だった。
当然ながら、赤字企業であるほど収益改善を迫られており、黒字企業との温度差が表れている。

地区別 東北が唯一6割を上回る

  地区別の構成比では、東北(構成比60.5%)が唯一、6割を上回った。東日本大震災の影響から経営基盤の再構築が急務になっている企業も多く、経費削減に取り組む企業が高いことがうかがえる。次いで、中国(同55.2%)、北海道(同55.0%)、四国(同54.4%)の順。
一方、関東(同49.5%)、九州(同53.1%)の2地区は全国平均(同53.5%)を下回った。

まとめ

 今回のアンケート結果では、消費税増税後、新たに経費削減に取り組んでいる企業は半数以上を占め、より一層の経営努力を強いられている現状が浮き彫りになった。また、小・零細規模の企業ほど、経費削減に取り組む傾向が強く、より厳しい経営環境にさらされていることがうかがえた。
経費削減の対象は、値上げが続く電気代を中心に「水道光熱費」が圧倒的に多く、幅広い業種でコストアップにつながる電気代が大きな負担になっている。
ムダな経費(冗費)の削減は、規模に関係なく企業の永遠のテーマでもあるが、数値目標をあげた削減策は、一部で士気低下を招くなどマイナス材料にもつながりかねない。
経費削減策への取り組みは、具体的に目にみえる景気回復への道筋と、効果的な支援策を待ち望む中小企業の期待の裏返しでもある。

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