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2014年3月期決算 役員報酬1億円以上開示企業 191社・361人で過去最多

 2014年3月期決算で役員報酬1億円以上を開示した上場企業は191社、人数は361人だった。前年同期より社数で16社(前年同期175社)、開示人数は60人(同301人)増加した。
業績改善を反映し、2年連続で役員報酬1億円以上を開示した225人のうち、160人(構成比71.1%)は前年同期より役員報酬額が増加した。
役員報酬の最高額は、キョウデンの橋本浩最高顧問が12億9,200万円(前年同期:開示なし)で、2010年3月期決算から開始された個別開示制度で歴代2番目の報酬額となった。
法人別で個別開示人数が最も多かったのは三菱電機の18人で、前年同期(同1人)より大幅に増加した。
2014年3月期決算まで、5年連続で個別開示を行った企業は104社、開示人数は120人だった。

  • 本調査は、全証券取引所の3月決算の上場企業2,466社を対象に、有価証券報告書から役員報酬1億円以上を個別開示した企業を集計した。上場区分は2014年6月30日時点。
  • 2010年3月31日に施行された「企業内容等の開示に関する内閣府令の改正」で、上場企業は2010年3月期決算から取締役(社外取締役を除く)、監査役(社外監査役を除く)など役職別及び報酬等の種類別の総額と、さらに提出企業と連結子会社の役員としての連結報酬1億円以上を受けた役員情報を有価証券報告書に記載することを義務付けられた。この内閣府令改正にあたっては、上場企業の「コーポレート・ガバナンス」(企業統治)に関する開示内容の充実を図ることを目的にしている。
  • 文中の各数値は小数第2位を切り捨て。

2014年3月期決算 役員報酬1億円以上開示企業推移

 個別開示対象者361人のうち、276人(構成比76.4%)は提出会社のみからの報酬だった。
361人の役員報酬総額は664億8,400万円(前年同期301人、508億3,000万円)で、前年同期より156億5,400万円増加した。役員報酬の主な内訳は、基本報酬が369億7,300万円(構成比55.6%)、賞与が118億5,100万円(同17.8%)、退職慰労金(引当金繰入額含む)が91億1,800万円(同13.7%)だった。
法人別での開示人数の最多は三菱電機(東証1部)の18人だった。前年同期(1人)より17人増加し、2010年3月期決算から開始された開示制度において過去最多人数を更新した。次いで、ファナックが10人(前年同期13人)、三菱商事と三井物産が各8人、野村ホールディングスとトヨタ自動車が各7人と続く。役員報酬1億円以上が2人以上だった企業は74社(構成比38.7%)で、前年の67社を7社上回った。個別開示を行った191社のうち、97社(構成比50.7%)は単体決算で売上高、営業・経常・当期純利益が前年同期を上回った。

役員報酬 キョウデン 橋本浩最高顧問が最高額

 2014年3月期決算の役員報酬の最高額は、キョウデンの橋本浩最高顧問で12億9,200万円(提出会社および連結会社からの報酬、前年同期:開示なし)。2013年6月27日開催の定時株主総会をもって代表取締役を退任し、報酬額のうち12億6,800万円が役員退職慰労金だった。以下、カシオ計算機の樫尾和雄社長12億3,300万円(提出会社からの報酬、同:開示なし)と、樫尾幸雄特別顧問10億8,300万円(同、同:開示なし)、武田薬品工業のフランク・モリッヒ元取締役(チーフコマーシャルオフィサー)が10億1,600万円(提出会社および連結会社からの報酬、前年同期7億6,200万円)、日産自動車のカルロス ゴーン代表取締役社長兼CEOが9億9,500万円(提出会社のみからの報酬、同9億8,800万円)と続く。
上位10人のうち、5人が役員退職慰労金(引当金繰入額を含む)主体の役員報酬だった。
安定的な報酬である基本報酬のみで見た場合、日産自動車のカルロス・ゴーン代表取締役社長兼CEOが9億9,500万円で、実質トップだった。

2014年3月期決算 役員報酬1億円以上開示企業推移

 個別開示対象361人のうち、2年連続開示は225人(構成比62.3%)。このうち、160人が前年同期より役員報酬額が増加し、減額は54人、同額は11人だった。また、2013年3月期決算での開示がなく、2014年3月期に開示されたのは136人だった。
5年連続で1億円以上の役員報酬を受け取ったのは120人(同33.2%)だった。
361人のうち、役員報酬額10億円以上は4人(前年同期ゼロ)、9億円台は2人(同1人)、8億円台は3人(同ゼロ)、5~7億円台が5人(同6人)、2~4億円台が58人(同43人)、1億円台が289人(同251人)。2億円以上が72人と前年(同50人)を上回り、1億円台の構成比が80.0%と前年同期(83.3%)を3.3ポイント下回った。

業績に連動した報酬体系へ

 361人の役員報酬総額664億8,400万円(前年同期508億3,000万円)の内訳は、基本報酬が369億7,300万円(構成比55.6%、前年同期313億6,900万円)、賞与が118億5,100万円(同17.8%、同92億2,100万円)、退職慰労金(引当金繰入額含む)が91億1,800万円(同13.7%、同38億8,900万円)、ストックオプションが50億4,700万円(同7.5%、同45億500万円) 、業績連動報酬24億6,400万円、中期インセンティブ3億7,700万円など。役員任期中の安定報酬である基本報酬が主体の報酬体系に大きな変化はないが、2014年3月期決算では上位3人が退職慰労金主体だったため、退職慰労金(引当金繰入額含む)の構成比が6.0ポイントアップし、他の構成比を押し下げた。
上位50人の役員報酬総額は233億8,000万円。主な報酬内訳では基本報酬98億1,700万円(構成比41.9%)、退職慰労金(引当金繰入額含む)66億7,100万円(同28.5%)、賞与34億200万円(同14.5%)、ストックオプション27億600万円(同11.5%)。全体に比べ基本報酬が14.6ポイント、賞与が3.3ポイントダウンした一方で、ストックオプションが4.0ポイントアップした。
2010年3月期決算から開示制度が開始されて5年目に入った。基本報酬を主体とした報酬体系に変化はないが、一部では業績に連動した報酬体系に移行しつつあることもうかがえる。

報酬支払元別 提出会社のみからの報酬が7割超

 個別開示対象361人のうち、有価証券報告書を提出した会社のみから役員報酬1億円以上を受け取ったのが276人(構成比76.4%、前年同期233人)で最多。このほか、提出会社と連結会社の両方から役員報酬を受け取ったのが76人(同21.0%、同61人)、連結会社のみから役員報酬を受け取ったのが9人(同2.4%、同7人)だった。
上位10人では、報酬の支払元が提出会社のみが5人、提出会社と連結会社の両方からが4人で、連結会社のみは1人だった。

法人別 三菱電機が18人で過去最多の開示人数

 個別開示した191社のうち、法人別で役員報酬1億円以上の開示人数が最も多かったのは、三菱電機の18人。2012年3月期のファナック(14人)を上回り、過去最多の開示人数となった。
次いで、2013年3月期トップだったファナックが10人。2013年3月期(13人)より3名減少したが、引き続き高収益を維持し10人以上の個別開示を行った。以下、三菱商事と三井物産が各8人、野村ホールディングスとトヨタ自動車が各7人、大和証券グループ本社と伊藤忠商事が各6人、日産自動車が5人と、グローバル展開をしているメーカー、商社などが上位に並んだ。また、株価上昇などにより業績が回復した証券会社も、開示人数を増加させた。
開示人数別では、1人の企業が117社(構成比61.2%、前年同期108社)と最も多く、2人が38社(同19.9%、同40社)、3人が15社(同7.8%、同12社)と続く。複数の役員に対し1億円以上の役員報酬を支払った企業は74社(構成比38.7%)で、2013年3月期67社(同38.2%)より0.5ポイントアップした。
個別開示した191社のうち、 2年連続で個別開示した企業は149社。このうち、26社は前年同期より個別開示人数が増加、15社が減少した。同数は108社。一方、2013年3月期に個別開示したものの、2014年3月期に個別開示がなかったのは26社。
また、5年連続で個別開示した企業は120社(構成比62.8%)、4年連続が121社だった。

2014年3月期決算 役員報酬1億円以上開示企業推移

赤字決算10社、無配5社が1億円以上の役員報酬開示

 単体決算で、2014年3月期が最終赤字決算ながら1億円以上の役員報酬を支払った企業は10社。このうち、日本板硝子(4人)、ソニー、東京エレクトロン(各2人)の3社が、複数人の役員に1億円以上の役員報酬を支払った。また、無配だったが、1億円以上の役員報酬を支払った企業は5社だった。赤字決算で無配ながら、1億円以上の役員報酬の個別開示をした企業は3社で、このうち日本板硝子が唯一、複数人の個別開示を行った。

業種別 製造業が111社・211人で最多

 役員報酬1億円以上の個別開示を業種別でみると、製造業が111社(構成比58.1%、前年99社)・211人(同58.4%、同172人)と最多。次いで、卸売業が22社(同11.5%、同17社)・48人(同13.3%、同32人)、金融・保険業が14社(同7.3%、同12社)・34人(同9.4%、同28人)と続く。
為替相場が円安基調となり輸出大手を中心に業績は改善、2014年3月期は好決算が続出し、開示人数を増加させた。
製造業では三菱電機が2013年3月期1人→2014年3月期18人と、増加人数が突出した。また、トヨタ自動車が同3人→同7人。卸売業では三菱商事が同6人→同8人、三井物産が同4人→同8人、伊藤忠商事が同4人→同6人。金融・保険業では野村ホールディングスが同5人→同7人、大和証券グループ本社が同5人→同6人と増加した。

市場別 東証1部が159社・322人で全体の8割以上

 個別開示のあった企業を市場別にみると、東証1部が159社(構成比83.2%、前年同期148社)・322人(同89.2%、同268人)で、社数・人数ともに全体の8割以上を占めた。次いで、JASDAQが20社(同10.4%、同17社)・25人(同6.9%、同22人)、東証2部が10社(同5.2%、同8社)・11人(同3.0%、同8人)の順だった。
社数・人数がともに最多だった東証1部は、グローバル企業が多く、国内だけでなく海外にも事業基盤を構築している。対照的に、新興市場は事業基盤の強化を図るため内部留保の充実や設備投資などへ資金投下を優先させる企業が多い。
唯一、マザーズでは役員報酬1億円以上の個別開示はなかった。

業歴別 業歴50年以上の開示人数が7割

 個別開示のあった企業を業歴別でみると、50年以上100年未満が120社(構成比62.8%、前年同期112社)・246人(同68.1%、同197人)、100年以上が7社(同3.6%、同6社)・15人(同4.1%、同11人)。業歴50年以上の個別開示は127社(同66.4%、同118社)・261人(同72.3%、同208人)で、開示社数は6割以上、開示人数は7割以上を占めた。一方、10年未満は11社(同5.7%、同7社)・18人(同4.9%、同15人)。業歴の長い企業は相応の事業基盤が構築されているが、業歴の浅い企業は事業基盤の形成途上にあって、個別開示社数・人数に差が生じた。

従業員平均給与 平均700万円台が開示人数が最多

 個別開示のあった企業の従業員平均給与をみると、社数では600万円台が51社(構成比26.7%、前年同期45社)で最多。次いで、700万円台が42社(同21.9%、同32社)、500万円台が30社(同15.7%、同31社)と続く。開示人数では、700万円台が89人(同24.6%、同50人)と最多。次いで、1,000万円以上が82人(同22.7%、同70人)、600万円台が72人(同19.9%、同65人)と続く。
2013年3月期では従業員の平均給与600万円台の個別開示人数が最も多かったが、2014年3月期は700万円台に上昇している。

 2014年3月期決算は、2012年12月頃からの円安・株価上昇などが引き続き寄与し、大手企業を中心に好決算となった。制度開始以降、開示社数・開示人数ともに過去最高を記録した。
報酬体系は、退職慰労金(引当金繰入額を含む)の占める割合が上昇し、基本報酬の比率が低下したが、ストックオプションなど業績に連動した報酬も増えている。
役員報酬の個別開示制度は株主や従業員、取引先など多くの人に認知されるようになり、「経営方針」「業績」「配当」「長年の実績(会社への貢献度)」など、さまざまな観点から報酬額の妥当性が判断される。
「コーポレートガバナンス」や「コンプライアンス」が年々重視されるなか、今後はステークホルダーに対して役員報酬の説明責任もより一層、求められるようになるだろう。

2014年3月期決算 役員報酬1億円以上開示企業推移

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