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地方公共団体向け貸出金残高 前年同期比4.1%増

 銀行114行の2013年9月期連結決算ベースの地方公共団体向け貸出しは、約7割の銀行で貸出金残高を増やし、半期ベースでは2012年3月期以降、増加を続けている。銀行の中小企業向け貸出しは増加しているが、リスクの低い地方公共団体向け貸出しは、中小企業向け貸出しより高い伸びを続けており、銀行のリスク回避傾向に大きな変化はないことを示した。

  • 本調査は、銀行114行を対象に2013年9月期連結決算ベースの地方公共団体向け国内貸出金残高を調べ、前年同期と比較した。なお、信託銀行2行と、りそな、沖縄銀行は信託勘定を含む。傘下の銀行が連結子会社となっている場合や単体データのみ公表の銀行は、単独決算の業種別貸出状況を比較した。
  • 2012年4月1日に住友信託銀行・中央三井信託銀行・中央三井アセット信託銀行の合併で発足した三井住友信託銀行は、過去データとの比較ができないため、調査対象に含まれていない。

地方公共団体向け貸出金残高推移

地方公共団体向け貸出金残高 前年同期比4.1%増

 銀行114行の2013年9月期連結決算ベースの地方公共団体向け貸出金残高は、25兆5,465億300万円(前年同期比1兆99億1,200万円増、4.1%増)だった。貸出金残高が前年同期を上回ったのは76行(構成比66.6%、前年同期77行)にのぼった。また同期の中小企業等(単独決算ベース、個人を含む)貸出しが前年同期比1.4%増に対し、伸び率は上回っている。ただ、2010年3月期以降の半期比(6カ月)では、2013年9月期は6カ月前と比べ0.2%増の最も低い伸びにとどまった。
地方公共団体向け貸出金残高トップは、北洋銀行(単体)の1兆2,534億7,700万円だった。次いで、みずほ銀行(単体)1兆1,474億円、北陸銀行9,579億5,900万円、三井住友銀行(単体、銀行勘定)9,340億5,100万円、福岡銀行(単体)8,213億円、三菱東京UFJ銀行(単体)8,050億6,700万円の順。貸出金残高5,000億円以上は10行(前年同期10行)で、前年同期と同数だった。

特例措置終了後も増加が続く

 これまで、銀行の地方公共団体向け貸出しの増加要因には、国が実施した「公的資金の補償金免除繰上償還制度」が背景にあった。これは一定の条件を満たす地方公共団体を対象に、行政改革を条件に高利(5%以上)の公的資金を繰上償還する場合、通常は将来利子相当額を補償金として支払う必要があったが、2012年度まで特例措置として免除した。
このため、民間金融機関から低利資金を借り入れて、繰上償還する地方公共団体が続出した。2012年度で特例措置は終了したが、民間の低利資金を利用したい地方公共団体の資金需要と貸出リスクを低減したい銀行ニーズがマッチして、地方公共団体向けは増加を続けているとみられる。

増加額100億円以上が45行

 前年同期より貸出金残高が増加した76行のうち、増加額トップは近畿大阪銀行(単体、国,地方公共団体)の866億円増だった。次いで、もみじ銀行(単体)710億8,800万円増、北陸銀行639億7,200万円増と続く。増加額100億円以上は45行(前年同期49行)で、前年同期より4行減少した。また、貸出金残高の増加率10%以上は36行(同41行)だった。
一方、前年同期より貸出金残高が減少したのは、福岡銀行(単体)が1,165億800万円減、みずほ銀行(単体)781億円減、三菱東京UFJ銀行(単体)482億5,800万円減、群馬銀行436億3,500万円減、埼玉りそな銀行(単体、国,地方公共団体)279億300万円減など37行だった(未計上の東京スター銀行を除く)。このうち、減少額100億円以上は12行だった。

貸出比率10%以上が58行

 2013年9月期の連結決算ベースの地方公共団体向け平均貸出比率は6.1%(前年同期6.0%)で、貸出比率10%以上は58行(前年同期53行)と前年同期より5行増加した。
個別の貸出比率は、青森銀行31.2%(政府・地方公共団体向け)を筆頭に、北都銀行(単体)31.0%、北洋銀行(単体)22.5%、北陸銀行22.4%、北國銀行21.6%、岩手銀行21.4%、秋田銀行21.3%、鳥取銀行21.2%だった。総じて東北や北陸などの比率が高い。

地区別 10地区のうち8地区で前年同期を上回る

 本店所在地で分けた地区別では、全国10地区のうち8地区で貸出金残高が前年同期を上回った。増加額は、近畿11行の2,845億300万円増を筆頭に、東北15行が2,739億8,100万円増、中国9行が1,900億300万円増、関東(東京を除く)17行が1,802億3,500万円増、四国8行が1,243億6,800万円増、北陸6行が1,036億5,200万円増、中部14行が798億2,300万円増、北海道2行が91億4,400万円増の順だった。これに対し、九州21行が854億500万円減、東京11行が1,503億9,200万円の減少となった。増減率では、増加は近畿の14.5%増を筆頭にして、四国12.0%増、中国9.9%増、東北8.2%増、北陸5.6%増、中部5.1%増、関東(東京を除く)4.6%増、北海道0.5%増の順。減少は九州の2.2%減、東京4.4%減だった。

◇        ◇        ◇
特例措置の「公的資金の補償金免除繰上償還制度」を追い風にして、地方公共体向け貸出しは増加を続けてきた。また、企業向けよりも貸倒れリスクが低いため、銀行も資金需要に応じやすかった。貸出比率が高い銀行をみると、東北、北陸、北海道の地銀・第二地銀が目立つ。
これは地元企業の前向きな資金需要の低迷を反映したともいえる。アベノミクス効果による景況感の改善と中小企業金融円滑化法の期限切れに対応した金融支援体制により、中小企業向け貸出しも一時より緩和され、地方公共団体向け貸出しの伸びもやや鈍化の兆しがみえてきた。
成長経済戦略で中小企業の活性化が求められているが、銀行がリスクの低い地方公共団体向けに傾く貸出姿勢を、今後どのように転換していくか問われている。

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