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2013年3月期決算 上場企業「継続企業の前提に関する注記」調査 ~GC注記32社、「重要事象」39社でピーク時から半減~

2013年3月期決算を発表した上場企業2,484社のうち、監査法人から「継続企業の前提に関する注記(ゴーイングコンサーン注記)」(以下、GC注記)が付いた企業は32社だった。中間決算(2012年9月期、38社)より6社、前年度(2012年3月期、41社)より9社減少した。GC注記に至らないが、事業継続に重要な疑義を生じさせる事象がある「継続企業に関する重要事象」(以下、重要事象)は39社で、中間決算(2012年9月期、45社)より6社減少した。
GC注記、重要事象の記載企業はともに減少した。だが、家電大手・シャープは中間決算に引き続き「重要事象」が記載され、地域経済活性化支援機構が再生支援を決定した中山製鋼所は中間決算に引き続きGC注記が付いた。減少したとはいえ深刻さを増す企業は多く、再建中の企業や環境が悪化した業種の企業に注目が集まっている。

  • 本調査は、3月期決算で東証から新興市場までの全証券取引所に株式上場する企業を対象に、2013年3月期決算短信で「GC注記」及び「重要事象」が付いた企業の内容、業種を分析した。(6月5日までの決算短信発表分)

GC注記 重要事象の付記企業は71社 ピークから半減

GC注記は2009年3月期からGC注記と重要事象の2段階に分けて開示されている。ルール変更でGC注記企業は減少したが、重要事象を付記された企業との合計は2009年3月期に最多の145社を記録した。その後、GC注記、重要事象とも減少を続け、2013年3月期は71社(前年同期比14.4%減)でピークの2009年3月期から半減した。
2012年9月~2013年3月に倒産した上場企業は2社(サクラダ、東京カソード研究所)。うち、サクラダ(千葉・東証1部)は、2012年9月中間期でGC注記が付き、東京カソード研究所(東京・JASDAQ)は同期に重要事象が記載された。上場企業の倒産は2008年の33社をピークに、2009年20社、2010年10社、2011年4社、2012年6社と減少。2013年1-5月は3月に民事再生法を申請した東京カソード1社だけ。倒産沈静化に伴い、GC注記と重要事象の記載企業は減少している。

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2013年3月期決算でGC注記が付いた上場企業は32社で、中間決算時の38社から6社減少した。中間決算から8社が注記解消したが、サクラダ(東証1部)が倒産、セレブリックス(JASDAQ)が上場廃止、メビオファームが廃止予定。このほか、マルヤ(東証2部)が決算期変更で集計対象に新たに加わり、中間決算で「重要事象」記載にとどまっていた東京機械製作所(東証1部)など5社も新たに本決算でGC注記が付いた。なお、中間決算でGC注記が付いていたオプトロム(セントレックス)は決算短信の開示が遅延している。
経営再建の行方が注目されていた老舗鉄鋼メーカー、中山製鋼所(東証1部)は地域経済活性化支援機構による支援決定を受け、多額の損失計上による債務超過転落と借入金の返済猶予を理由に引き続きGC注記が付いた。

GC注記企業 約8割が本業不振

GC注記32社のうち、25社(構成比78.1%)が「重要・継続的な売上減」、「損失計上」、「営業キャッシュ・フローのマイナス」など、本業不振を理由にしている。次いで、「債務超過」6社(同18.7%)、「金融機関や取引先などに債務の支払延滞、返済条件変更やその可能性がある」が6社(同18.7%)と続く。売上減や赤字計上など、本業悪化を理由にした注記が約8割を占めている。また、債務超過や借入金など債務の返済が約定通りできない深刻な経営悪化に陥っている企業もそれぞれ2割存在する。

  • 注記理由は重複記載のため構成比合計は100%を超える

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業種別では製造業が最多 その他業種は新興市場中心

GC注記の32社を業種別にみると、製造業が11社(構成比34.3%)で最多。次いで、サービス業6社(同18.7%)、情報・通信業5社(同15.6%)、卸売業5社(同15.6%)の順で、上位4業種で8割以上を占めた。32社のうち19社(59.3%)が新興市場で、比較的小規模で業歴の浅い企業が中心だった。また、各証券取引所の2部上場で、業歴ある老舗でも中堅規模で経営体力に乏しい企業が多いことが特徴となっている。

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「重要事象」17社が新たに記載 うち中堅メーカーが7割占める

重要事象を記載した企業は39社で、前年度本決算45社から6社減少した。中間決算から17社が解消したが、5社がGC注記に変更、東京カソード研究所(JASDAQ)の1社が倒産した。
また、ジアース(マザーズ)は中間決算ではGC注記だったが本決算では重要事象の記載のみにとどまり、中間決算で重要事象記載の大興電子通信(東証2部)は決算短信の開示が遅延している。
一方、中間決算では記載がなかったが本決算で記載した企業は17社だった。このうち13社(構成比76.4%)が製造業が占めた。中堅規模が多く、大手メーカーからの受注不振の影響で業績が悪化したケースが目立つ。円安進行により輸出産業の経営環境は好転の兆しもうかがえるが、下請メーカーへ波及できるか注目される。
また、経営再建中の家電大手のシャープ(東証1部)は「多額の損失計上と営業キャッシュ・フローのマイナスに加え、9月30日に控える社債償還に対し自己資金での償還が困難となる懸念がある」として中間決算に引き続き重要事象が記載された。

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