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「日産ショック」とマレリ、部品サプライチェーンの再編含み

 マレリホールディングス(株)(TSRコード:022746064)と主要子会社は6月11日(日本時間)、チャプター11(連邦破産法第11条)を申請した。東京商工リサーチのデータベースによると、マレリグループの国内取引先は全国2,942社に及ぶ。
 チャプター11は、「オートマティック・ステイ」と呼ばれる担保権や相殺権の行使を禁止できる強い権利を持ち、日本企業でも米国に営業所や財産などがあれば申請できる。マレリHDは、担保権の行使に一定の制限をかける狙いがあったとみられる。
 関係者によると、マレリHDの印マザーサン・グループと、米投資ファンドSVPの2案による支援案を協議していた。最終的な協議は難航していたが、異例のチャプター11申請した。



 事業会社のマレリ(株)(TSRコード:291139833は、日本ラジエーター製造(株)が前身だ。2000年に、(株)カンセイと合併してカルソニックカンセイ(株)が誕生。日産自動車(株)(TSRコード:350103569)の出資を受け、系列部品メーカーとして成長した。
 2017年にグループ再編に伴い米投資会社のKKRが株式を取得。その後、イタリアのマニエッティ・マレリと経営統合し、事業を急拡大した。しかしコスト削減が進まず、業績悪化に歯止めが掛からなかった。2022年3月に持株会社のマレリHDは事業再生ADRを申請した。
 だが、成立条件である対象債権者の全員同意が得られず、同年6月に民事再生法に切り替え、その後、簡易再生手続きへ移行。金融債務4,301億円の債権放棄や253億円の借入債務の株式化などの再建計画がまとまり、リスタートした。

経営改善の遅れで混乱が拡大

 だが、EV需要の乱高下、主力取引先である日産やステランティスの不振が重なり、再建は難航した。そして、2024年12月末には約180億円の返済猶予を金融機関に要請した。
 その後も毎月、金融機関に返済猶予を求め、並行して金融機関と再建協議を進めていた。事業再生ADRを申請した際の取引金融機関は、みずほ銀行などメガバンクや地銀、そして中国などアジア系だった。
 ところが民事再生後、金融機関は貸出債権をサービサーなどに相次いで売却した。こうして上位債権者は、メガバンクから米国投資会社やドイツ銀行などに移り、支援をめぐる駆け引きが複雑になった。
 関係者によると、投資会社などが国内金融機関に再建カットなどを求め、対立が先鋭化。一時は歩み寄りもみられた。最終的に私的整理案は2パターンとなったため、全会一致は難しかった。6月9日正午(日本時間)が私的整理の意見集約の期限で、以降は緊張が高まっていた。



 日産の再建や100年に一度の大変革期と合わせ、自動車業界は再編機運が高まっている。投資会社の支援でマレリは立ち直るのか。マレリのチャプター11は、業界の先行きを占う試金石でもある。

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