700年の歴史を持つ老舗温泉旅館の再興と舞台裏 ~ 女将塾、DAYSパートナー 共同インタビュー ~
山形県米沢市。奥州三高湯の一つに数えられ、開湯700年の歴史を誇る名湯「白布温泉」は、白斑の鷹が温泉で眼病を治したという伝説が語り継がれている。
この地で創業から700年の歴史を刻み、温泉旅館「白布温泉(しらぶおんせん)東屋(ひがしや)」を営むのが(株)東屋(TSRコード:210127627、米沢市)だ。
先祖代々、名湯を守り抜いてきたが、2000年に建物が全焼。再建を目指すも多額の復旧投資が経営の重荷になっていた。このため、2025年1月に事業を譲渡し、旧東屋は整理した。新たなスポンサーの下、「東屋」の名を残しながら、旅館の再生を進めている。
「東屋」再建をサポートするスポンサーは、旅館・ホテルの事業再生支援やコンサルティングで実績を残す(株)女将塾(TSRコード:296107042、千代田区)だ。日本政策投資銀行、粟澤・山本法律事務所が共同で設立したDAYSパートナー(株)(TSRコード:861255100、千代田区)も資金面で再生を支援し、業績を伸ばしている。
東京商工リサーチ(TSR)は、女将塾の三宅大功代表取締役、酒井明子取締役、DAYSパートナーの沖元佑介業務部長、長田隆斗氏にこれまでの軌跡と今後の展望を聞いた。
(株)東屋
1312年創業。
山形県米沢市の白布温泉で旅館「東屋」を運営していた。
2025年1月に(株)女将塾に事業を譲渡し、同年2月に山形地裁から破産開始決定を受けた。
(株)女将塾
旅館やホテルなどの事業再生、コンサルティングなどを手掛ける。
バックオフィス機能の集約や設備改装などで収益性の改善を行い、全国で27件の直営旅館を運営している。
DAYSパートナー(株)
日本政策投資銀行と粟澤・山本法律事務所が共同で設立。
地域や産業を支える中堅・中小企業の支援を手掛ける事業再生ファンドの運営を行う。
―被災による建物再建と過剰債務
旅館「東屋」の開業は、鎌倉時代まで遡る。1312年に米沢市で白布温泉が開湯し、東屋も創業した。優れた泉質、毎分1500Lの豊富な湯量で多くの人々に親しまれてきた。
「江戸時代には米沢藩主の上杉家の御用保養地としても活用され、当地では名湯として有名だった」(酒井氏)という。
その後、700年余りにわたり当地で営業を続けてきた東屋は、2000年に隣家からの延焼で建物を焼失した。歴史ある茅葺屋根が災いして、火災保険の支払いをほとんど受けられず、多額の借入で再建に取り組んだ。
2008年10月期の売上高は過去最高の約1億7,900万円をあげ、着実に返済を進めていた。だが、その後の東日本大震災、コロナ禍などで客足が遠のき、2022年10月期の売上高は約8,400万円に半減した。利益確保も難しく、金融機関への借入返済も進まず、社会保険は滞納。窮境状態は深刻さを増していた。
暗中模索するなか、旅館の事業再生を手掛ける女将塾と出会った。
「苦境に陥っていた東屋について、ある再生ファンドから事業譲渡の相談を受け、スポンサー就任を決めた。当初は私的整理で検討していたが、最終的には法的整理で進める方針に固まり、東屋の旅館事業を女将塾が譲り受け、運営会社の東屋は破産した。女将塾は現在、(全国で)27の旅館を運営しており、旅館運営ノウハウの蓄積が強みでそれを活かせると考えた」(三宅氏)

東屋の全景
資金面はDAYSパートナーが東屋の事業再生を後押しした。
「DAYSパートナーは、地域に必要不可欠な産業や企業の事業再生を専門としている。日常的に様々な金融機関と情報交換をするなかで、旅館再生に強みを持つ女将塾と接点を持った。女将塾がスポンサーに就くことで、確度の高い成長シナリオが描け、本件の融資を決めた」(沖元氏)
―一歩一歩進めた経営改善策
旧東屋は、全従業員と事業を一体的に女将塾に譲渡し、2025年2月に山形地裁から破産開始決定を受けた。
女将塾の新体制に移行し、様々な改革を進めた。まず手をつけたのはシステムの改修、集客手法の整備だ。経理システム、勤怠システムなどを女将塾の仕様に統一し、脆弱だったバックオフィス体制を強化した。また、従来の旅行代理店からの集客に加え、未整備だったオンラインの顧客獲得基盤を構築した。
「従来は家族経営で、管理体制が整備されていない部分があった。家族が365日、24時間働くことで経営が成り立っていたが、決して健全な状況ではなかった。また、パートの平均年齢も70歳を超え、超高齢化が進んでいたことも課題だった」(酒井氏)
これまで旅館の休館日をほとんど設けず、予約が入らない日に休館していたが、体制を変え毎月休館日を設定した。家族経営による残業や過重労働の慢性化を、メリハリをつけた働き方に改善した。旧経営陣は支配人として活躍しつつ、女将塾で採用した人材なども配置し、計画的な世代交代も見据えている。
「旅館の再生を検討する際、それまでの経営者が本当にしっかりと頑張ってきたのかどうかを確認する。東屋の旧経営陣は本当に最後まで涙ぐましい努力をして旅館を運営してきた。一生懸命頑張ってきたけれど上手くいかなかった旅館は、適切な施策を打てれば必ず再建できる」(三宅氏)

東屋の温泉
さらに、顧客満足度向上のため4,000万円を投入し、大規模な旅館の改装を実施。2025年11月に旅館を1カ月間休館し、全面的な修繕を行った。田舎の良さを残しつつ、快適で綺麗な空間に改善し、客室数も2部屋追加した。従業員の動線も考慮し、より効率的な運営ができる体制を目指したという。
「システムに関しては本部主導で進めるが、現場のオペレーションは従業員の負担なども考慮して、大きく変えることはしない。あえてマニュアルで統一しないことで、東屋の良さを残している」(酒井氏)
1カ月の改装期間による休館があったが、それでも2025年度の売上高は9,825万円に達した。営業日ベースの稼働率は70%に達し、従来の40%から大きく改善した。2025年度は改装の影響で赤字となったが、2026年度は売上高1億2,000万円、EBITDAは2,000万円を見込んでいる。
「毎月女将塾と情報交換を行い、売上の状況や設備投資などの進捗を確認し、定性面、定量面ともに順調に伸びているのがわかった。女将塾に旅館運営ノウハウが蓄積されており、再生への心配は少なかった」(長田氏)
―独自のポジションと地域に与える好循環
施設の老朽化、後継者不足などで温泉旅館は減少傾向をたどる。だが、旅館の事業再生に特化したプレーヤーは少ない。
三宅氏は、「温泉旅館は日本固有の文化で、守っていきたいという考えが根底にある。大手企業による規模の大きなホテルの買収事例は多いが、家業でやっている小規模旅館の事業再生は手掛ける企業も、運営をオペレーションできる人材も少ない」と課題を語る。
金融機関の事業再生に対する理解や体制、人的リソースにも温度差がある。地域の金融機関が資金を拠出しにくい企業に対し、DAYSパートナーがリスクマネーを供給することは社会的意義も大きい。
今回の再生案件では、M&A資金、旅館改装費用をDAYSパートナーが融資したが、最終的には地元の金融機関にリファイナンスするスキームを描く。
「一般に、全国展開するホテルチェーンなどが経営権を握った場合、大都市に本部があることが多く、地域の金融機関との関係性が希薄になることを心配されることもある。この点についても、女将塾の場合、地域の旅館の再生においてはなるべく運営企業を地元に設け、最終的には地域の金融機関と取引を行う点が特徴だ。地元の企業を支援する立場の金融機関からの目線でも、応援しやすいのではないか」(沖元氏)
金融機関から女将塾への案件相談も増え、現在は年間150件から170件程度の相談が女将塾に寄せられているという。
三宅氏は、「今後を見据え、運営する旅館や施設を増やしていく方針だ。運営する施設数を増やすことで、システムやAIなどに対する投資がさらに進めやすくなり、生産性向上が期待できる。事業再生を通じて日本の温泉旅館を元気にしていきたい」と力をこめる。
窮境企業の“事業再生支援”といっても、財務的な支援と事業的な支援は異なる。金融機関やファンドによる財務支援が整う一方で、事業再生に特化したノウハウを持つ企業は少ないのが実情だ。
専門的な事業運営ノウハウを持つ企業と財務支援を手掛ける金融機関やファンドが連携することで、より力強く事業再生を進めることが可能になる。女将塾の取り組みは、今後の事業再生のモデルケースでもある。

左からDAYSパートナー長田氏、沖元氏、女将塾三宅氏、酒井氏
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2026年10月20日号掲載「再生への軌跡」を再編集)