1-9月の「美容室」倒産、過去最多の92件 競合や美容師不足、資材高などが経営を圧迫
2025年1-9月「美容業」の倒産状況
競合や人手不足、資材高で、2025年1-9月の美容室の倒産が、集計開始以来最多の92件(前年同期比5.7%増)に達した。このペースで推移すると、2025年は前年の114件を超え、過去最多を更新する可能性が高まっている。
顧客が美容室を選ぶ基準は、美容師、価格、店舗の立地など多種多様だ。美容室は、顧客獲得のために口コミだけでなく、ネットクーポンの活用などで生き残りを図っている。だが、もともと小資本でも独立できる業界のため他店との競合は激しく、コロナ禍が落ち着くと同時に、倒産が増勢を強めている。
厚生労働省が10月21日に公表した「令和6年度 衛生行政報告例」によると、美容所数は2024年度末で27万7,752施設を数え、2023年度末の27万4,070施設から3,682施設(1.3%増)増えた。小資本でも新規参入が容易なため、開業後は同業者とのし烈な競争が待ち受けている。
美容室は、値段、美容師の技術やデザイン力、接客態度、価格、店舗デザインなど、あらゆる面が差別化の対象になり、口コミや顧客満足度の向上も必要だ。近年は、ニーズの変化に対応し、低価格カットサービス店や定額制で通える美容院のサブスクリプションサービスも登場するなど、来店頻度や価格の基準が揺らぎつつある。美容師の柔軟な働き方改革のひとつとして、スタイリストの独立を支えるシェアサロンも浸透しつつある。
こうしたなか、美容師の確保に伴う人件費は上昇し、シャンプーなどの消耗品や機材コストの高騰も歯止めが掛からない。加えて、働き手の待遇改善や労働環境の見直しを求める声も高まっており、経営側の負担は一段と増している。美容室を取り巻く経営環境は、見た目の華美さとは裏腹に、かつてないほどシビアな世界に突入している。
※本調査は、日本標準産業分類の「美容業」の倒産(負債1,000万円以上)を集計、分析した。
◇原因別:最多が「販売不振」の77件(前年同期比4.9%減、構成比83.6%)で8割を占めた。次いで、「事業上の失敗」(前年同期2件)と「既往のシワ寄せ」(同1件)が各4件、「過小資本(運転資金の欠乏)」(同ゼロ)と「他社倒産の余波」(同1件)が各3件で続く。
◇形態別:最多が「破産」の85件(前年同期比11.8%増、構成比92.3%)。再建型の民事再生法は7件(前年同期8件)にとどまった。経営悪化はサービス低下に直結し、来店客数が減少すると再建のハードルは一気に高くなる。
◇負債額別:「1千万円以上5千万円未満」が78件(前年同期比1.2%増、構成比84.7%)で8割を超えた。このほか、「1億円以上5億円未満」が8件(前年同期2件)、「5千万円以上1億円未満」が6件(同8件) だった。小資本でスタートするため、負債規模も小さい傾向にある。
◇資本金別:「個人企業他」が39件(前年同期比8.3%増、構成比42.3%)、「1百万円以上5百万円未満」が29件(同35件)の順。1千万円未満が86件(前年同期81件)と構成比は93.4%に達し、美容室の倒産は小・零細規模がほとんどを占めた。