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クリーク・アンド・リバー社・井川会長(CEO)インタビュー ~ 上場役員に「第2の挑戦の場」、事業承継の取り組みと意義 ~

 東証プライム上場で、35社の企業グループに成長したプロフェッショナル・エージェンシーのパイオニア、(株)クリーク・アンド・リバー社(TSRコード:292837356、以下C&R社)。クリエイターや士業の人材41.5万人のリソースを抱え、様々なフィールドを活躍の場に提供している。
 C&Rグループが次に挑むのは深刻化する「事業承継問題」だ。経営者を最大のプロフェッショナルと位置付け、豊富な知見に裏付けされた上場企業の取締役を、事業承継を求める中小・ベンチャーで活躍させる仕組みを作る。
 東京商工リサーチ(TSR)は、C&Rグループのこれからの取り組みや意義、目指すべき将来について、創業者で代表取締役の井川幸広氏に聞いた。

(株)クリーク・アンド・リバー社
  プロフェッショナルに特化したエージェンシー事業を軸に、テレビ番組・ゲーム制作なども展開。
  M&Aを通じた事業承継にも積極的に取り組む。
  連結売上高502億円(2025年2月期)、連結従業員数4,162名、東証プライム上場。

井川幸広氏
 クリーク・アンド・リバー社代表取締役会長(CEO)。
 フリーランスのテレビディレクターを経て1990年に当社を創業。

―クリーク・アンド・リバー社の成り立ちは

 会社のスタートは1990年。主に「クリエイター」や「士業」の人達、能力をもったプロフェッショナルのエージェンシー事業を手掛けてきた。能力が高い人は独立志向が強いが、当時はこうした人達の受け皿となる会社や仕組みがなかった。この受け皿を作ろうと思い立ったのが創業のきっかけだった。
 当初はテレビディレクターのエージェンシーからスタートした。テレビの世界で有能なディレクターの退職が多かった。こうした人達をフォローして、制作活動に専念できる環境を提供した。そして、次は医師、弁護士、会計士、一級建築士と対象を広げ、現在18の分野におよぶ。
 プロの方々の生涯年収をどう上げるかということをテーマにしてきた。今まで一人で仕事をとっていた方が、当社に所属することによって収入が上がる、やりたい仕事がとれるようになり、41.5万人の人材が集まった。

―井川会長自身がテレビディレクターだった

 ドキュメンタリー中心のテレビディレクターで、例えば皇室から下水道問題まで扱うと言われるくらい多くのテーマを手掛けてきた。
 ディレクターという職業は、個々のテーマの専門家になる必要はない。テーマに応じて、監修する識者や専門会社を集めてチームを作り、趣旨を伝えて番組としてストーリーを考え、視聴者に訴える。これを組み立てるのがディレクターの仕事でもある。この点を押さえれば、仮に自分にその分野の知識がなくても、色んなテーマの作品を作ることができる。
 これはビジネスの分野でも同じだと思っている。世の中に必要だと思うことがあれば、自身がその専門家ではなくとも、専門家をプロデュースしてサービスを構築すればよい。当社もその都度、時代が求めるテーマやトレンドに合わせ、チームを作ってきた。

―20年でグループ売上は約6倍に拡大した。社会の変化や成長の原動力は

 社会の変化として、働き方改革の浸透やフリーランスの働き方が認知されるようになった点が1つ。もう1点は、いろんな能力を持った人達の組み合わせが世の中に求められていることだ。一つの会社で最後まで働くという考えから、プロジェクト単位で仕事の場を変えていく、というスタンスを持つ人たちが増えている。日本だけにとどまらず、ここに海外からも加わる。こうした動きをどうプロデュースするか、そのノウハウが当社の心臓部ではないかと感じている。
 対象の職種を広げてきたのは、必然的な理由がある。例えばAIと医学を組み合わせてできること。そこにDXや動画を組み合わせてできることを重ねていければ、世の中の変化に対応できる。そこから様々な新しいサービスを育んで成長してきた。

―事業承継で多くの会社を引き継いできた

 グループ企業は35社、このうち19社はゼロから作った。ゼロから会社を作るのは大変だが、世の中が必要とする技術を持った人たちの組み合わせができれば、サービスが確立し、会社として成立する。残りの16社は事業承継の依頼を受け、頼まれて引き受けた会社だ。引き受けて事業承継でグループにした会社は、承継後も社名を一切変えていない。
 創業者が、社員のために事業承継を検討したいという思いが強い会社であれば、業種や業態に関わらず話を聞きたいと思っている。中には、少しでも高く売りたいという思惑で打診が来る場合もある。お金ありきのケースは話をすればすぐわかるので、シナジーが見込めるとしてもあまり興味が沸かない。
 創業者が命をかけて作った会社。それを年齢や後継者など、何らかの理由で手放さなければならない時の苦しみは、創業者の私にはよくわかる。だから、会社を社員ごと引き受けていくことに対する責任は重い。
 ただ、どれだけ責任が重くても、創業者が愛情を込めて作ったカルチャー(企業文化)が感じられるのであれば、経営を引き受けても構わないと感じている。社員思いの創業者かどうかが、承継を検討する第一歩になる。

インタビューに応じる井川会長(CEO)

インタビューに応じる井川会長(CEO)


―今後の取り組みは

 C&Rグループがこれから強化していく取り組みは、深刻化する事業承継問題の解消だ。
 グループの(株)C&R EVERLASTING STORY(TSRコード: 696584603、略称C.R.E.S.)を通じて、上場企業の経営経験者と、後継者不在に悩む中小・ベンチャー企業オーナーとを繋ぐ仕組みを作る。プロ経営者の次の挑戦の場の提供と、オーナーの想いを託す事業承継との両立を目指す。
 プロフェッショナルを組み合わせて、事業承継や企業再生に取り組むチームの編成を考えている。我々プロデューサーに、経営者という人材を加えることで、それが実現できるというのがこの35年間で得た経験則だ。
 一般的なファンドと違うのは、我々は経営陣のチームを作り上げる点に力を入れることだ。そして、この経営人材はどこに居るかといえば、上場会社や大企業の取締役を経験した方々だ。
 上場企業の取締役を務められた方は、そこに上がってくるだけの成果を残している。人の使い方や組織マネジメント力、営業力に長けているなどの能力を持ちあわせている。こうした人材を活用する仕組み作りを進めていきたいと考えている。
 上場会社の取締役は約3万人存在する。こうした方々が経営人材として中小企業やベンチャーに入っていく。そして、今度は社員をOJTや実際の経営を経験させながら育て、次の経営者を育成する。この流れを作ることができれば、上場企業の取締役に第2の挑戦の場を提供できる。また、受け入れる側の会社でも、後 継者難に苦慮していたところに、プロの経営者が入ってくることで新たな道を開くことができる。
 具体的には、上場会社の取締役で構成される「TOP MANAGEMENT CLUB」を運営する。実際に新たな活躍の場に進んで成功している経営者と定期的な座談会を組み、議論や育成の場を設ける。
 当社には去年1年間だけでも約250件の事業承継の話が持ち込まれた。こうした相談が来れば、座談会でケーススタディとして取り上げる。その会社の創業経営者にも来てもらって、会社の特徴や課題を伝えてもらう。その上で、その会社の経営に関わってみたい人と一緒にチームを編成して、事業計画を書いてみる。(旧)オーナーもどういう人が経営してくれるか顔を見て、事業計画を一緒になって作っていく。
 こうした取り組みを加速させたい。事業承継だけなく、理念承継にも併せて取り組んでいく。基本的には承継会社はC&Rグループが100%買い取るので資金面の問題はない。

―経営者候補の育成方針やプラン、求める適性は

 上場企業の取締役には、後輩を育てるというミッションがある。新天地でもこれは実行してもらう。年齢の問題もあるので期限は5年ぐらいになるだろう。このうちに会社内で次期の後継者を育ててもらう。
 大企業と違って自身がハンズオンで関わる必要がある。誰かがやってくれるのを待つのではなく、自分でやることを面白いと感じ、厭わない人は適性があるだろう。こういう方が経営に携われば、再生もうまく進んでいく。
 これまでに所属していた企業と、承継会社との業種や業態に関連性は必要ない。というのは、ある程度の売上があり、社員が居る会社にはすでに培ってきた知見があるからだ。
 経営トップの仕事は、その知見をちゃんと聞き、皆の力を合わせて将来のビジョンを作っていくこと。そして、社員の心に火を付けることだ。これができれば、仮にその業界を知らなくても経営は務まると考えている。

―取り組みを進める側のポイントは

 経営者をうまくプロデュースできるかに尽きる。会社を伸ばし、社員の生活を豊かにすることに責任を持てる経営者を我々がどう育て、見つけていけるかだろう。
 また、C&Rグループ内の経営資源を利用すればシナジーを生むことができる。経営者同士が切磋琢磨しながら様々な知見を身につけることもでき、経営者だけでなくマーケッターや分析チームなどを共有し、経営チームをコーディネートできる。単独で事業再生するよりC&Rグループ内でやった方が再生に取り組みやすい。
 今後、C&Rグループとしてプロフェッショナルの職種をさらに広げるとともに、事業承継の支援をもう一つの柱として両立したい。
 総じて日本の経営者が得られる報酬は低い。プロフェッショナルが会社経営を引き受け、好循環を生むためには、向上させた企業価値の一定割合を成果として得られる公正公平な仕組みを作っていかなければと考えている。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2025年10月8日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)



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