• TSRデータインサイト

管財業務のツボ “象牙” はどう取り扱う? ~ カイロス総合法律事務所・岡山大輔弁護士に聞く ~

 破産手続きは、債務者の財産が極めて少ない場合などを除き、裁判所から破産管財人が選任される「管財事件」として進められる。 
 破産管財人は裁判所の監督の下、破産者が有する財産の換価や処分、回収業務、破産債権の認否や債権者に対する配当など、多岐にわたる業務を担う。
 弁護士の管財業務は、どのように進められるのか。管財業務の実務に詳しい弁護士法人カイロス総合法律事務所の岡山大輔弁護士に話を聞いた。


―管財事件の流れは

 破産や民事再生などの倒産事件全般を取り扱う裁判所の倒産部(東京の本庁管轄下では東京地裁民事第20部)から連絡が来る。
 破産開始決定前に破産者、申立代理人の弁護士と面談し、認識の摺り合わせを行う。その後、債務者の財産状況を調査し、換価を進める。開始決定から2~3カ月後の第1回目の債権者集会で手続が終了する案件も多い。
 個人の破産の場合、債務者と面談し、事情を把握した上で、免責許可に対する意見を述べる。浪費や不当な財産処分などは免責不許可事由にあたるが、実務上はよほど悪質なケースでなければ、免責不相当に該当することは少ないように思われる。

―象牙の換価と財団組入について

 破産管財人の裁量で、破産者の財産を自由に換価できると捉えられているかもしれないが、裁判所と相談をしながら進めることも多い。珍しいケースでは、約1mの象牙の換価を担当した事がある。破産者が所有する象牙は、種の保存法によりワシントン条約以前のものなどを除き、一般財団法人自然環境研究センターに登録のない象牙売買は違法になり得る。売却には適法に象牙を所有したことを証明し登録する必要があり、登録には約3か月の鑑定期間と費用約10万円が必要だった。
 象牙自体の価値は約13万円を見込んだが、現物の精査で実際は5万4,000円の価値しかなく元が取れないことが確定した。
 結局、売買できず、相応の期間もかかることから裁判所の許可を得て、象牙の価値の半額を破産者から財団組入し、象牙を財団から手放すことに合意した。


象牙の財団組入と放棄のイメージ

 


 破産者が破産に至る経緯や資産状況など、同じ管財事件でも内情は様々だ。破産管財人は、専門知識に基づいて迅速かつ適正、妥当な判断を常に求められる。まさに破産者にとっては最後の拠り所になる存在といえる。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2025年7月7日号掲載「取材の周辺」を再編集)



人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

【解説】秀和システムの法的整理、異変察知は「船井電機より前」

(株)秀和システム(TSRコード:292007680、東京都)への問い合せは、船井電機(株)(TSRコード:697425274、大阪府)の破産の前後から急増した。ところが、あるベテラン審査マンは「ERIが弾けた時からマークしていた」と耳打ちする。

2

  • TSRデータインサイト

2025年3月期決算(6月27日時点) 上場企業「役員報酬1億円以上開示企業」調査

2025年3月期決算の上場企業の多くで株主総会が開催された。6月27日までに2025年3月期の有価証券報告書を2,130社が提出した。このうち、役員報酬1億円以上の開示は343社、開示人数は859人で、前年の社数(336社)および人数(818人)を超え、過去最多を更新した。

3

  • TSRデータインサイト

1-6月の「訪問介護」倒産 2年連続で最多 ヘルパー不足と報酬改定で苦境が鮮明に

参議院選挙の争点の一つでもある介護業界の倒産が加速している。2025年上半期(1-6月)の「訪問介護」の倒産が45件(前年同期比12.5%増)に達し、2年連続で過去最多を更新した。

4

  • TSRデータインサイト

船井電機の債権者集会、異例の会社側「出席者ゼロ」、原田義昭氏は入場拒否

破産手続き中の船井電機(株)(TSRコード:697425274、大阪府)の第1回債権者集会が7月2日、東京地裁で開かれた。商業登記上の代表取締役である原田義昭氏は地裁に姿を見せたものの出席が認めらなかった。会社側から債務者席への着座がない異例の事態で14時から始まった。

5

  • TSRデータインサイト

1-6月の「人手不足」倒産 上半期最多の172件 賃上げの波に乗れず、「従業員退職」が3割増

中小企業で人手不足の深刻な影響が広がっている。2025年上半期(1-6月)の「人手不足」が一因の倒産は、上半期で最多の172件(前年同月比17.8%増)に達した。

TOPへ