• TSRデータインサイト

1-6月の「訪問介護」倒産 2年連続で最多 ヘルパー不足と報酬改定で苦境が鮮明に

2025年1-6月「訪問介護事業者」の倒産動向調査


 参議院選挙の争点の一つでもある介護業界の倒産が加速している。2025年上半期(1-6月)の「訪問介護」の倒産が45件(前年同期比12.5%増)に達し、2年連続で過去最多を更新した。小規模事業者が中心だが、中小・中堅事業者に倒産が広がってきた。訪問介護業界は、デジタル化による効率化や人材確保につながる賃上げが経営課題に浮上している。だが、自力での経営改善には限界を抱えており、高齢化が進む中で国や自治体の支援強化が必要となっている。

 2025年1-6月の「訪問介護事業者」の倒産(負債1,000万円以上)は45件(前年同期比12.5%増)で、同期間では過去最多を更新した。内訳は、介護報酬切り下げや利用者の減少などによる売上不振が38件(構成比84.4%)と8割を超えた。また、賃上げが進まず、ヘルパーの採用難が一因となった倒産も6件発生し、マイナス改定やヘルパー不足で苦悩する事業者が少なくない。

訪問介護事業の倒産 上半期推移
 

 倒産する事業者の規模も変わりつつある。これまで倒産は小・零細事業者が大半だったが、従業員10名以上が9件(前年同期比125.0%増)、負債1億円以上が6件(同100.0%増)、資本金1,000万円以上が6件(同100.0%増)と次第に中小・中堅規模に倒産が広がっている。
 ただ、地域別でみると濃淡が出た。倒産が増加したのは、北海道3件(前年同期比50.0%増)、関東14件(同55.5%増)、中部5件(同150.0%増)、九州6件(同50.0%増)の4地区。一方、東北、北陸、近畿、中国、四国など、九州を除く西日本を中心に減少が目立った。

2025年上半期訪問介護事業 都道府県別倒産状況

 

 訪問介護事業者の倒産は年間100件に迫るハイペースで増加している。国の2027年度の介護報酬改定を待たずに品川区は独自の支援を実施し、国も小規模事業者への加算要件を緩和するとはいえ、他の産業との賃上げ格差を埋めるのは容易ではない。売上不振による倒産が8割を超えるなか、ヘルパー不足やガソリン代高騰、人件費上昇などの運営コストの上昇に歯止めがかからず、収益改善は難しい状況が続いている。

 訪問介護は、居宅でのサービス提供で、高度なノウハウと信頼が求められる。報酬削減やコスト増で採算が悪化するなかでも、中小・零細規模の事業者は地域の訪問介護を支えてきた。だが、経営悪化から倒産や廃業は増え続け、安定したサービス提供が困難になる可能性も出ている。高齢化社会に入り、賃金や働き方など訪問介護業界の明るい環境を作ることが急務になっている。


※ 本調査は、日本産業分類(細分類)の「訪問介護事業」を抽出し、上半期(1-6月)の倒産を集計、分析した。
※ 調査開始は介護保険制度が始まった2000年から。


人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

2025年1-9月の「人手不足」倒産が過去最多 「従業員退職」が前年の1.6倍増、初の年間300件超へ

2025年9月に「人手不足」が一因となった倒産は、調査を開始した2013年以降では月間最多の46件(前年同月比109.0%増)を記録した。また、2025年1-9月累計も、過去最多の285件(前年同期比31.3%増)に達し、人手不足はより深刻さを増していることがわかった。

2

  • TSRデータインサイト

ケーキや和菓子は「高値の花」に、スイーツ店が苦境 倒産は過去20年で最多ペース、競合商品も台頭

街のスイーツ店が苦境に陥っている。材料コストの上昇、酷暑、人手不足が重なり、商品値上げによる高級化も購入機会の減少につながったようだ。2025年1-9月の菓子製造小売の倒産は、過去20年で最多の37件に達した。

3

  • TSRデータインサイト

2025年1-9月「後継者難」倒産が過去2番目 332件 高齢化が加速、事業承継の支援が急務

代表の高齢化が進み、後継者が不在のため事業に行き詰まる企業が高止まりしている。2025年1-9月の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)は332件(前年同期比4.5%減)で、2年ぶりに前年同期を下回った。だが、2025年は過去最多だった前年同期の348件に次ぐ、過去2番目の高水準だった。

4

  • TSRデータインサイト

2025年 全国160万5,166社の“メインバンク“調査

全国160万5,166社の“メインバンク”は、三菱UFJ銀行(12万7,264社)が13年連続トップだった。2位は三井住友銀行(10万1,697社)、3位はみずほ銀行(8万840社)で、メガバンク3行が上位を占めた。

5

  • TSRデータインサイト

2025年度上半期の「円安」倒産30件 仕入コスト上昇が卸売業を直撃

2025年度上半期(4-9月)の「円安」関連倒産は、30件(前年同期比31.8%減)だった。上半期では、2022年度以降の円安では前年度の44件に次いで、2番目の高水準になった。

TOPへ