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「想定為替レート」 平均1ドル=141.6円 前期比1.9円円高を想定、4期ぶり円安にブレーキ

上場主要メーカー 2026年3月期決算「想定為替レート」調査


 主な株式上場メーカー98社の2025年度決算(2026年3月期)の期首ドル想定為替レートは、1ドル=140円が48社(構成比48.9%)と約5割にのぼった。平均値は1ドル=141.6円で、前期に比べ1.9円の円高となった。
 コロナ禍以降、円安ドル高が急速に進行し、想定為替レートの平均値も前年の2025年3月期首は集計を開始以来の最安値を更新した。2026年3月期首は、4期ぶりの円高に振れたが、前年との差はわずか1.9円と保守的な想定にとどまり、引き続き円安ドル高の設定だった。

 2024年度の円ドル相場は、期首に1ドル=150円台前半でスタートし、期中に160円台に乗せた。その後、日銀介入と米国の金利引き下げなどで急激に円高に振れ、1ドル=140円台前半に急騰。為替は乱高下をたどり、年度末にかけて再び1年前と同水準の1ドル=150円前半に戻した。
 こうした動きを背景に、前期に比べ円高設定の企業が51社(構成比52.0%)と半数を超えたが、変更なし(据置き)も33社(同33.6%)あった。前期より円安設定は14社(同14.2%)にとどまるが、1ドル=140円台が86社(同87.7%)と引き続き円安を想定した設定となっている。
 円安の恩恵で輸出部門は好調が続くが、トランプ関税に加え、中東紛争などの地政学リスクも高まり、先行きの不透明感は増している。為替相場もこうした様々な要因に影響を受ける可能性が高く、相場の推移予想が難しい状況が続きそうだ。
※ 本調査は、東京証券取引所に上場する主な電気機器、自動車関連、機械、精密機器メーカー(3月期決算企業)のうち、2025年度決算(2026年3月期)の期首想定為替レートを公表し、前期と比較可能な98社について分析した。


想定為替レート 平均値は1ドル=141.6円、前期から1.9円の円高ドル安

 主要上場メーカーの2026年3月期首の想定為替レートは、平均1ドル=141.6円で、前期(2025年3月期首、1ドル=143.5円)から1.9円の円高となった。ただ、期首の想定為替レートは、調査を開始した2011年3月期以降、最安を記録した前期に次いで2番目の円安水準となった。
 2011年3月期以降の15年間では、想定為替レートは2013年3月期に1ドル=79.1円の高値を記録した。その後、アベノミクスで為替は円安ドル高が加速し、2016年3月期の1ドル=115.8円をピークに、1ドル=100円~110円前後で推移した。
 2022年以降、為替は日米の金利差やロシア・ウクライナ情勢などを背景に円安ドル高が加速。想定為替レートも2023年3月期首(1ドル=119.1円)以降、3期連続して最安値を更新していたが、円安ドル高に一服感が出たことを背景に、4期ぶりに円高ドル安に転じた。

期初ドル想定為替レート推移

想定為替レート 1ドル=140円が最多で約半数

 2026年3月期首の想定為替レートは、最多が1ドル=140円が48社で、約半数(構成比48.9%)を占めた。次いで、145円が29社(同29.5%)、135円が8社(同8.1%)、143円が5社(同5.1%)と続く。140円と145円で約8割(同78.5%)を占めた。
 前期と比較すると、2025年3月期首は最多が1ドル=145円で50社(同51.0%)、次いで140円の29社(同29.5%)だった。ボリュームゾーンは5円の円高にシフトした。
 前期は1ドル=130円台は1社のみ、140円台が90社、150円台が7社だったが、2026年3月期初は1ドル=130円台が9社に増え、140円台が86社、150円台は3社と減少し、想定為替レートは円高ドル安に振れている。
 2026年3月期初の想定為替レートの対ドル最安値は157円(1社)、最高値は135円(8社)で、22円の開きがあった。

主な上場メーカー 期初ドル想定為替レート分布 左:2025年3月期 右:2026年3月期

1年前からのレート変更 最多は「145円→140円」、「据え置き」が3割

 想定為替レートの前期からの変更は、「145円→140円」のレート変更が29社(構成比29.5%)で最も多く、約3割を占めた。次いで、「140円→140円」が18社(同18.3%)、「145円→145円」が15社(同15.3%)と、前期から変更せず据え置いた企業が続き、「140円→145円」が5社(同5.1%)だった。   
 98社のうち前期と比べ「円高へのシフト」が51社(構成比52.0%)と半数を占めた。次いで「変更なし」(据え置き)が33社(同33.6%)、「円安へのシフト」が14社(同14.2%)と続く。流動的な為替相場で、変動の予測が難しく、保守的な「変更なし」が3割を占めた。
 また、前期からの乖離幅の最大は円高、円安にそれぞれ10円のシフト(145円→135円、4社)、(140円→150円、1社)だった。

2026年3月期 主な上場メーカー 期初ドル想定為替レート 前年同期変更状況



 輸出比率の高い大手メーカーは、円安が業績押し上げ効果を生んでいる。2022年度以降、急速に円安が進行した結果、多くのメーカーが為替差益等を計上して恩恵を受けた。
 2025年3月期は、2024年6月に為替相場は1ドル=160円台の歴史的な円安を記録した。その後、政府・日銀による為替介入が実行され、円は急騰して140円台の円高を付け、期末にかけては期初と同水準の1ドル=150円前後で落ち着いた。
 その後の推移をみる限り、円安ドル高が継続するとみられるが、2026年3月期はトランプ関税や中東情勢など想定外の事態で為替レートが変動するリスクも秘めている。
 また、先行きの不透明感から業績見通しも弱含みにする傾向が目立ってきた。想定為替レートを抽出したメーカー98社のうち、2025年3月期の業績は「増収増益」が42社(構成比42.8%)だったが、2026年3月期の業績見通しは「増収増益」が28社(同28.5%)に減少した。

 2025年6月に東京商工リサーチが実施した「トランプ関税に関するアンケート」では、約6割(57.6%)が関税引き上げを「マイナスの影響がある」と回答した。マイナスの影響があるとした比率が高い業種の上位には、ゴム製品製造業(92.3%)、鉄鋼業(88.2%)、非鉄金属製造業(84.6%)、輸送用機械器具製造業(84.2%)など、軒並み製造業が並んでいる。
 予想が難しいリスクが次々に出現し、国内メーカーを取り巻く事業環境は不透明感が強まっている。こうしたなか、想定為替レートが大きく外れると国内製造業全体への悪影響が広がる可能性も生じている。

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