最大の経営課題は「人件費の上昇」 「倒産増加」を懸念も、与信管理は「現状維持」
「経営環境、審査業務に関する」アンケート調査
企業が直面する最大の経営課題は、「人件費の上昇」と企業の61.7%が回答した。また、「人材の採用難」も55.6%で、雇用関連が上位に入った。また、「エネルギー価格の上昇」が56.8%、「原油価格の上昇」も52.2%と、コストアップへの懸念も根強いことがわかった。
東京商工リサーチが実施したアンケート調査により判明した。経営上の重しについて聞いたところ、中小企業(資本金1億円未満など)は「人件費の上昇」が最多だったが、大企業(同1億円以上)は「人材の採用難」が最多だった。企業規模により、労働分配の余力に差が生じていることを示唆している。また、エネルギー価格や物流費の上昇は5割前後にのぼり、多くのリスクに直面しながらかじ取りしている実態が浮かび上がった。
今年度の与信管理の体制について、8割超の企業が「変化させる予定はない」と回答した。リーマン・ショックやコロナ禍の資金繰り支援で、長らくクレジットリスクは低減してきた。審査を担当する人員や予算の縮減が続いた企業も多く、倒産の潮目が変わっても、実務面の緊張感を意思決定に反映できていないようだ。
与信に影響を与えそうな項目で、倒産や休廃業・解散の増加をあげた企業が半数に達し、焦付や販路消失への懸念は色濃い。予算や人員配分を担当する経営層や企画部門と、審査部門との間で与信管理の意思疎通が十分でない可能性も示唆する。
コロナ禍以降、準則型私的整理の枠組みが広がり、債務整理へのアプローチは変容している。今年3月、官報の電子化で破産など法的手続き公告へのアクセシビリティが大きく低下したが、今回のアンケートで、こうした与信管理の変化に言及した回答は5%未満にとどまった。
与信に関するインテリジェンスが低下していないか、早めに再確認する必要がありそうだ。
※本調査は、2025年4月1日~8日に、インターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答5,711社を集計・分析した。
※資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。
Q1.貴社の経営上、重しとなっているものは次のどれですか?(複数回答)
◇雇用関連の回答が多い
最も多かったのは「人件費の上昇」の61.7%(5,711社中、3,525社)で唯一、6割を超えた。以下、「電気代などエネルギー価格の上昇」の56.8%(3,246社)、「人材の採用難」の55.6%(3,180社)と続く。また、円安や借入金の返済、取引先の倒産・廃業、ネットセキュリティなどを挙げる企業も1割を超え、経営を取り巻くリスクは多岐に渡っている。
Q2.直近1年間の企業倒産は11年ぶりに1万件を超えました。今年度、貴社は与信管理の体制を変化させますか?(複数回答)
◇「予定なし」が8割超
最多は「特に変化させる予定はない」の80.3%(5,375社中、4,320社)だった。以下、「与信に関する社内勉強会を開催する」の9.2%(499社)、「与信に関する予算を増額する」の4.5%(244社)、「与信担当者の権限・管掌業務を拡大させる」の3.6%(194社)と続く。
規模別でみると、「特に変化させる予定はない」は中小企業で81.2%(4,958社中、4,029社)だったのに対し、大企業では69.7%(417社中、291社)で10ポイント以上差が開いた。
「その他」では、「懸念のある取引先との取引を縮小、撤退する」(商品販売、資本金1億円未満)、「回収条件の厳格化」(機械器具卸、資本金1億円未満)など。
Q3.与信に関する最近のトピックで、貴社の審査(与信)実務に影響を与えている(与えそう含む)ものは次のどれですか?(複数回答)
◇「倒産増加」が6割超
最多は「倒産件数の増加」の60.2%(4,054社中、2,444社)、次いで「休廃業・解散の増加」の48.1%(1,953社)だった。コロナ禍が収束し、企業の「新陳代謝」が政策テーマに浮上するなか、焦付リスクや販路消失を懸念に感じる企業は多い。
「M&A市場の拡大」は23.9%(969社)だった。M&Aによる株主の異動は信用力に影響し、定めがある場合はチェンジ・オブ・コントロール条項に触れることもある。また、近年は「悪意ある買い手」による事業価値の毀損が社会問題化しており、M&Aは与信上のチェックポイントの1つだ。一方、早期の事業再生に繋がる可能性のある「早期事業再生法の制定」や「DIPファイナスの取り組み推進」、「準則型私的整理の取り組み推進」はいずれも1%台にとどまった。