• TSRデータインサイト

全樹脂電池開発のAPB、4月末までの休業を発表 ~ 経営権を巡り対立 ~

 次世代リチウムイオン電池「全樹脂電池」の開発製造を手掛ける技術系ベンチャーのAPB(株)(TSRコード:034707670、福井県)の動向が注目されている。
 2月末に全従業員にリストラを通告したことが報道され、関心が高まっている。工場入口には「臨時休業のお知らせ」が掲示され、4月末までの休業を告知している。東京商工リサーチが3月初旬に訪問すると、既に従業員は不在だった。

期待大きい「全樹脂電池」

 APBは2018年に日産自動車(株)(TSRコード:350103569、神奈川県)で電池の研究開発に携わっていた堀江英明氏が創業した。全樹脂電池は、従来のリチウムイオン電池とは異なる構造で安全性が高く、エネルギー密度も高いことから次世代電池として期待が高い。
 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの出資や第三者割当増資などで資金を調達し、2021年には量産化に向け福井県に工場を新設した。
 2022年12月には、APBの株式の一部が半導体の設計・開発などを手掛ける(株)TRIPLE-1(TSRコード:022925139、福岡県)に譲渡された。筆頭株主の変更だ。今後については、TRIPLE-1のリソースを活用しながら、全樹脂電池の技術開発をさらに加速させ、早期の量産化技術の確立・商品化を実現させると発表していた。

経営権を巡り対立が表面化

 研究開発費や設備投資などの先行投資が嵩んで設立から赤字決算が続くなか、堀江氏と一部株主の間で経営方針を巡る対立が表面化。2024年6月の取締役会で堀江氏は社長を解任され、当時副社長だった大島麿礼氏が社長に就任していた。
 こうしたなか2024年11月1日、メインバンクの北國銀行グループの投資会社(株)QRインベストメント(TSRコード:380609657、石川県)から会社更生法の適用を申し立てられた。ただ、この申立は11月21日に取り下げられている。経営陣の交代後、全樹脂電池の機密情報について、海外の企業への流出の可能性が報道され、話題を集めていた。



 3月11日、TSRはAPB、TRIPLE-1に取材を申し込んでいるが、返答はない。
 経営権を巡る争いで、事業運営が迷走し、「全樹脂電池」の量産化は目途が立っていない。事業再開に向けた動きについて明確なアナウンスはなく、今後の動向は不透明だ。


APBの掲示
APBの掲示

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2025年3月18日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)


人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

2025年3月期決算(6月20日時点) 役員報酬1億円以上の開示は117社・344人

2025年3月期決算の上場企業の株主総会開催が本番を迎えた。6月20日までに2025年3月期の有価証券報告書を510社が提出し、このうち、役員報酬1億円以上の開示は117社で、約5社に1社だった。

2

  • TSRデータインサイト

「想定為替レート」 平均1ドル=141.6円 前期比1.9円円高を想定、4期ぶり円安にブレーキ

主な株式上場メーカー98社の2025年度決算(2026年3月期)の期首ドル想定為替レートは、1ドル=140円が48社(構成比48.9%)と約5割にのぼった。平均値は1ドル=141.6円で、前期に比べ1.9円の円高となった。

3

  • TSRデータインサイト

代金トラブル相次ぐ、中古車販売店の倒産が急増

マイカーを売却したのに入金前に売却先の業者が破たん――。こうしたトラブルが後を絶たない。背景には、中古車価格の上昇や“玉不足”で経営不振に陥った中古車販売店の増加がある。倒産も2025年1-5月までに48件に達し、上半期では過去10年間で最多ペースをたどっている。

4

  • TSRデータインサイト

日産自動車の役員報酬1億円以上開示は5人 内田前社長の報酬額は3億9,000万円

 経営再建中の日産自動車が、2025年3月期決算の有価証券報告書を提出した。報酬額1億円以上の個別開示の人数は5人で、前年と同数だった。

5

  • TSRデータインサイト

2024年上場企業の「個人情報漏えい・紛失」事故 過去最多の189件、漏えい情報は1,586万人分

2024年に上場企業とその子会社が公表した個人情報の漏えい・紛失事故は、189件(前年比8.0%増)で、漏えいした個人情報は1,586万5,611人分(同61.2%減)だった。 事故件数は調査を開始した2012年以降、2021年から4年連続で最多を更新した。

TOPへ