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2024年の「不適切会計」開示は60社・60件 企業数は高水準、製造業とサービス業が最多

2024年全上場企業「不適切な会計・経理の開示企業」調査


 2024年に「不適切な会計・経理」(以下、不適切会計)を開示した上場企業は、60社(前年同数)、件数は60件(前年比3.2%減)で、件数は3年ぶりに前年を下回った。
 2008年に集計を開始以降、最多だった2019年の70社、73件をピークに、2021年は51社、51件まで減少した。2024年は2023年から社数は同数、件数で2件減少したが、依然として開示企業数は60社台と高水準で推移している。
 
 2024年に不適切会計を開示した60件の内訳は、最多は経理や会計処理ミスなどの「誤り」の33件(前年比2.9%減)。次いで、従業員などによる着服横領が19件(前年同数)、子会社で不適切会計処理などの「粉飾」が8件(前年比11.1%減)だった。
 業種別の社数は、最多が製造業(同90.0%増)とサービス業(同26.6%増)で各19社、情報通信業が8社(同60.0%増)、小売業が5社(同44.4%減)、卸売業が4社(同55.5%減)、建設業(同66.6%減)と倉庫・運輸業(同100.0%増)が各2社と続く。

 不適切会計を防ぐため上場会社と監査法人との関係がより重要になるが、監査報酬の見直しや監査法人の人手不足から監査法人が交代するケースもある。監査法人の交代で不適切会計を見逃すケースも懸念されるだけに、監査法人の監査機能をいかに高められるかが注目される。
※本調査は、自社開示、金融庁・東京証券取引所などの公表資料に基づく。上場企業、有価証券報告書の提出企業を対象に、「不適切な会計・経理」で過年度決算に影響が出た企業、今後影響が出る可能性を開示した企業を集計した。
※同一企業が調査期間内に内容を異にした開示を行った場合、社数は1社、件数は2件としてカウントした。
※業種分類は、証券コード協議会の業種分類に基づく。上場の市場は、東証プライム、スタンダード、グロース、名証プレミア、メイン、ネクスト、札証、アンビシャス、福証、Q-Boardを対象にした。 


開示企業数 2024年は60社(60件)

 2024年に不適切会計を開示した上場企業は60社(前年同数)、60件(前年比3.2%減)だった。2024年12月13日、東京証券取引所はゲームソフトウェア業の(株)ガーラ(東証スタンダード)に対し、本来費用計上すべきソフトウェア開発費をソフトウェアとして資産を過大計上する不適切な会計処理を行ったとして改善報告書と上場契約違約金2,000万円を徴求した。
 また、証券取引等監視委員会も2025年1月28日、ガーラに対し不適切会計処理により虚偽記載のある有価証券報告書を提出したとして、金融庁に対し6,495万円の課徴金納付命令を発出するよう勧告を行った。
 上場企業は2021年までは海外子会社や関係会社で不適切会計の開示が多かったが、2024年は国内外連結子会社などの役員や従業員による着服横領が目立った。

不適切会計開示企業推移(1-12月)

内容別 「誤り」が最多の33件

 内容別では、最多は経理や会計処理ミスなどの「誤り」で33件(構成比55.0%)。次いで、子会社・関係会社の役員、従業員の「着服横領」が19件(同31.6%)だった。「会社資金の私的流用」など、個人の不祥事も監査法人は厳格に監査している。
 また、「架空売上の計上」や「水増し発注」などの「粉飾」は8件(同13.3%)だった。
 証券取引等監視委員会は2024年12月10日、(株)きょくとう(東証スタンダード)が、営業外収益過大計上の不適正な会計処理で、金融商品取引法の開示規制に違反したとして、1,500万円の課徴金納付命令を出すよう金融庁に勧告した。

不適切会計 内容別(1-12月)

発生当事者別 「会社」が24社でトップ

 発生当事者別では、最多は「会社」の24社(構成比40.0%)だった。「会社」では会計処理手続きなどの誤りが目立った。次いで、「子会社・関係会社」は16社(同26.6%)で、売上原価の過少計上や架空取引など、見せかけの売上増や利益捻出のための不正経理が目立った。
 「従業員」は15社(同25.0%)で、外注費の水増し発注を行ったうえで、その一部をキックバックし私的流用するなどの着服横領が多かった。

不適切会計企業 発生当時者別(1-12月)


市場別 「東証スタンダード」が26社で最多

 市場別では、「東証スタンダード」が26社(構成比43.3%)で最も多かった。次いで、「東証プライム」が23社(同38.3%)、「東証グロース」が9社(同15.0%)と続く。
 2013年までは新興市場が目立ったが、2015年以降は国内外に子会社や関連会社を展開する旧東証1部が増加。2024年は「東証スタンダード」が新市場移行後、初めて最多となった。

不適切会計企業 市場別(1-12月)

業種別 最多は製造業とサービス業の各19社

 業種別では、「製造業」と「サービス業」の各19社(構成比31.6%)が最も多かった。製造業は、いずれも国内外の子会社、関連会社による製造や販売管理の体制不備に起因するものが多かった。また、「サービス業」では、従業員の不適切取引などによる「着服横領」や連結子会社での過大請求などの「誤り」が増えた。

不適切会計企業 業種別(1-12月)



 金融庁は2025年1月17日、アスカ監査法人(東京都港区)に対し、新たな契約締結を6カ月禁じる一部業務停止命令を出した。社員や職員が監査調書の事後的な改ざんなどを行っていたほか、適切な監査証拠を入手していない状況で監査手続きを終わらせる事態も判明。運営が著しく不当なものが認められるとして業務改善命令を出した。

 監査法人は会計不正の増加のほか、監査のIT化などへの対応も迫られ、会計士の負担は年々重くなっている。一方で、若手会計士の退職など、人材流出への対応も迫られており、人材確保は監査法人全体の課題になっている。

 東証は2025年1月28日、ソフトウェア開発のピクセルカンパニーズ(株)(東証スタンダード)に対し、元子会社社長が不正支出を長期間にわたり繰り返し行い、決算短信等で虚偽と認められる開示を行っていたと公表した。市場に対する信頼を毀損した同社に対し、株式を特別注意銘柄に指定し、併せて上場違約金2,880万円を徴求した。

 コロナ禍が落ち着き、企業活動は平時に戻るなか、2024年の不適切会計は60社、60件が判明した。経営陣の売上、利益の拡大主義など、業績優先の意識やステークホルダーへの情報隠蔽など、不適切会計は社外環境と経営陣の意識改革に起因するケースが多い。
 こうしたなかで不適切会計が判明後の再発防止の仕組みづくりが求められるが、なかなか容易ではない。上場企業は、改めてコンプライアンス(法令遵守)やコーポレートガバナンス(企業統治)に対する体制を精査し、徹底することが求められる。

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