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2024年「コンプライアンス違反」倒産 過去最多の320件 件数は前年比1.6倍、「税金関連」、「不正受給」が約7割

2024年の「コンプライアンス違反」倒産

 2024年の「コンプライアンス違反」倒産が、過去最多の320件(前年比66.6%増)に達した。前年の192件から1.6倍増と大幅に増えた。税金(公租公課)滞納などの「税金関連」が176件(前年比91.3%増)、雇用調整助成金などの「不正受給」が39件(同69.5%増)、「粉飾決算」が20件(同42.8%増)と、それぞれ増勢が目立った。
 負債総額は3,790億6,400万円(前年比28.2%増)と増加した。負債10億円以上が39件(前年37件)、5億円以上は36件(同15件)と2.4倍に増え、中堅クラスまで広がり負債が膨らんだ。
 コロナ禍が落ち着いた2023年以降、コンプライアンス倒産の増勢が目立つ。窮境状態の中小企業の改善が遅れる一方で、事業再生が本番を迎える2025年はさらに増勢をたどる可能性が高い。

※本調査は2024年に法令違反などによる「コンプライアンス違反」で倒産(負債1,000万円以上)が判明した企業を集計した。


2024年の「コンプライアンス違反」倒産は過去最多の320件

 2024年の「コンプライアンス違反」倒産は320件で、過去最多を更新した。コロナ禍前の2018年は224件だったが、コロナ禍は各種支援策が奏功し、2021年は99件、2022年も109件と100件を挟んで低水準に推移した。
 だが、コロナ禍が落ち着いた2023年は「税金関連」が92件、「不正受給」が23件など、支援策の終了・縮小に伴い192件と一気に増加に転じた。2024年は滞納への徴収が厳格さを増した「税金関連」が1.9倍増の176件発生するなど全体で増勢を強め、過去最多の320件に増えた。
 2024年の「コンプライアンス違反」の内訳は、トップが税金滞納等の「税金関連」が176件(前年比91.3%増)。次いで、詐欺・横領、偽装などを含む「その他」が73件(同30.3%増)、「不正受給」が39件(同69.5%増)、「粉飾決算」が20件(同42.8%増)、「雇用関連」が12件(同71.4%増)だった。

コンプライアンス違反倒産件数 年次推移

「粉飾決算」が増勢へ

 2024年の「粉飾決算」に起因する倒産は20件(前年比42.8%増)で、コロナ禍前の2019年(21件)の水準にほぼ戻した。コロナ禍の2020年以降は支援策で小康状態が続いたが、2024年は増加に転じた。借入金の返済猶予など、事業継続に向けた支援要請で粉飾が発覚するケースが目立つ。
 産業別では、建設業と卸売業が各5件(構成比各25.0%)、製造業が4件(同20.0%)、小売業が3件(同15.0%)、サービス業他が2件(同10.0%)、情報通信業が1件(同5.0%)だった。
 負債額別では、最多は「10億円以上」が16件(構成比80.0%)。「10億円未満」は4件(同20.0%)にとどまる。最大の倒産は、(株)環境経営総合研究所(東京)の負債246億1,000万円。
 形態別では、破産が12件(構成比60.0%)、民事再生法が5件(同25.0%)、会社更生法が2件(同10.0%)、銀行取引停止処分が1件(同5.0%)。
 都道府県別では、大阪府が5件(構成比25.0%)で最も多く、次いで、東京都4件(同20.0%)、宮城県、福島県、神奈川県、埼玉県、新潟県、茨城県、愛知県、石川県、京都府、奈良県、兵庫県が各1件だった。

コンプライアンス違反「粉飾」倒産件数

【産業別】8産業で増加

 産業別では10産業のうち、 農・林・漁・鉱業と不動産業を除く8産業で増加した。
 最多は、サービス業他の104件(前年比57.5%増)。次いで、建設業が59件(同103.4%増)、製造業が39件(同105.2%増)、卸売業が38件(同58.3%増)、運輸業が34件(同70.0%増)、小売業が22件(同29.4%増)、情報通信業が16件(同166.6%増)だった。

2024年コンプライアンス違反倒産 産業別件数構成比

【負債額別】1億円以上が6割

 負債別では、最多が「1億円以上5億円未満」の123件(前年比112.0%増)。
 次いで、「5千万円以上1億円未満」が64件(同48.8%増)、「1千万円以上5千万円未満」が58件(同48.7%増)と続く。
 1億円以上が198件(同80.0%増)と全体の61.8%を占めた。 

コンプライアンス違反倒産 負債額件数構成比



 2024年の倒産件数は1万6件(前年比15.1%増)で3年連続で前年を上回った。「コンプライアンス違反」倒産も320件(同66.6%増)発生、3年連続で増加した。粉飾決算による大型倒産も相次ぎ、構成比は全体倒産の3%超まで高まった。
 最近の粉飾決算の倒産企業は、金融機関から巧みに資金を引き出し、倒産時に負債が膨らむことが特徴だ。金融機関の追加支援やバンクミーティングでのヒアリングで粉飾決算が判明する事例も目立つ。粉飾決算による倒産の増加は、金融機関の融資や支援に変化をもたらし、影響は他の企業まで及ぶ可能性もある。過剰債務と物価高に苦しむ企業が多いなか、これまで覆い隠されていた問題点があぶり出され、粉飾事案がさらに増える可能性も高まっている。
 また2024年12月、一部工場従業員などによる修理の過大な見積りなどコンプライアンス問題が発生した中古車販売の(株)BALM(旧:(株)ビッグモーター)が民事再生法の適用を申請した。コンプライアンス違反は、業績とは別に企業として絶対に避けるべき経営リスクとして、注意を怠れなくなっている。

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