化粧品小売、職業紹介は売上高の約2割が宣伝費 「宣伝費」は回復基調へ
「広告宣伝費+販売促進費」動向調査
企業の広告や販売促進に使われる宣伝費が、2023年度は2兆9,174億2,700万円(前期比11.6%増)と前年度を上回ったことがわかった。2023年度まで5年連続で宣伝費(広告宣伝費+販売促進費)の推移が判明した14万8,090社を対象に集計した。
なかでも、医薬品製剤製造業が3,820億8,600万円(前期比43.5%増)、ポータルサイト・サーバ運営業が1,598億5,100万円(同51.5%増)と急回復し、宣伝費総額を押し上げた。
2023年度の産業別の宣伝費は、トップが製造業の1兆164億4,100万円(前期比19.8%増)で、全体の3割超(34.8%)を占めた。情報通信業、建設業などがけん引し、宣伝費は全体では増加に転じたが、運輸業、金融・保険業、製造業は2019年度から2割以上落ち込み、回復が鈍い。1社あたりの平均宣伝費は、金融・保険業が10億37万円(前期比0.9%増)で突出した。
なお、2023年単年度の宣伝費用が判明した26万5,253社では、売上に対する宣伝費の割合は金融・保険業が8.2%でトップだった。次いで、情報通信業3.1%、小売業2.0%が続く。
業種別では、転職市場の活況を裏付けるように職業紹介業が18.8%、ビジュアルが強く重視され競合も多い化粧品小売業が18.4%と高かった。
売上高に占める宣伝費の割合が5%以上の企業は3,513社で、全体の1.3%にとどまる。だが、結婚式場業は約7割(66.6%)の企業が売上高の5%以上を広告宣伝費につぎ込む。また、エステティック業(47.6%)、クレジットカード業(41.6%)も半数近い企業が売上高の5%以上を宣伝費に投じている。顧客争奪が厳しい業種ほど、多くの宣伝費を計上していることがわかる。
「アリシアクリニック」運営の(医)社団美実会や「脱毛ラボ」運営の(株)セドナエンタープライズなど、エステ業界は事業拡大のため多額の広告費用を計上する傾向にある。積極的な広告宣伝で前受金を集めた上で経営破綻し、多数の被害者(債権者)を生んだケースが近年目立つ。
顧客獲得や知名度アップに宣伝は有効だが、費用対効果を見極めなければ利益なき成長に陥りかねない。コンプライアンスと身の丈にあったバランスで広告を打ち出すことが重要だ。
※本調査は、東京商工リサーチが保有する財務データベースから、2023年4月期-2024年3月期を2023年度とし、販売費及び一般管理費の費用内訳が判明した企業(変則決算を除く)を対象に、宣伝費(広告宣伝費+販売促進費)の状況を分析した。
1社あたりの宣伝費は3,334万円
2023年度(2023年4月期-2024年3月期)を最新期とし、5期連続で販管費の内訳が判明した14万8,090社を対象に、宣伝費(広告宣伝費+販売促進費)を算出した。
2023年度は2兆9,174億2,700万円(前期比11.6%増)と増加に転じた。
2020年度以降、コロナ禍で宣伝費が削減され、2022年度まで3期連続で前期を下回った。だが、2023年度は新型コロナの5類移行で経済活動が本格的に再開し、宣伝費の急増につながった。
宣伝費がゼロでない企業(2023年8万7,490社)の1社あたりの平均宣伝費は3,334万円だった。
産業別 宣伝費合計は製造業トップ 1社あたりの平均は金融・保険業が突出
産業別では、2023年度の宣伝費の合計金額トップは製造業で、1兆164億4,1000万円と全体の3割超(構成比34.8%)を占めた。
次いで、情報通信業4,779億900万円(同16.3%)、小売業4,743億8,500万円(同16.2%)、サービス業他3,076億1,800万円(同10.5%)と続く。
5年間の推移では、農・林・漁・鉱業、建設業、卸売業、情報通信業の4産業は、落ち込んだ宣伝費が回復し、2023年度はコロナ禍前の2019年度を上回った。
一方、宣伝費の回復が鈍い産業は運輸業(2019年度比85.2%減)、金融・保険業(同34.8%減)、製造業(同28.6%減)で、2019年度から2割以上落ち込んで推移している。
平均宣伝費は金融・保険業がトップ
宣伝費ゼロの企業を除いた1社あたりの平均宣伝費は、産業別トップは金融・保険業10億37万円、次いで情報通信業3億7,571万円、小売業1億5,209万円、製造業1億2,398万円と続き、上位4産業は平均1億円を超えた。
2025年1月、タレントのトラブルを発端に、大手企業がキー局へのCMを当面差し止める動きが相次いでいる。
こうした動きが長引くと、宣伝費の回復に影響を与えたり、マスコミ4媒体(テレビ、新聞、ラジオ、雑誌)での広告からネットへの移行が加速する可能性もある。
売上宣伝費比率の平均は1.3%
2023年度に宣伝費を計上した企業(2023年8万7,490社)の売上宣伝費比率(売上に対する宣伝費の割合)は平均1.3%だった。
2022年度(1.2%)から0.1ポイント上昇したが、コロナ禍前の2019年度(1.6%)を0.3ポイント下回り、低水準で推移している。
資本金別では、1億円以上が1.9%で、1億円未満の0.5%を1.4ポイント上回った。資本金1億円以上は、同1億円未満の企業と比較し、利益率が高い企業が多く、資金的余裕から宣伝費を多く使える企業が多いことが要因とみられる。
産業別売上宣伝費比率 最高は金融・保険業8.2%
2023年度の販管費の内訳が判明した26万5,253社を対象に、売上宣伝費比率を算出した。
産業別の最高は、金融・保険業の8.2%で、クレジットカード業を中心に多額の宣伝費を計上し、比率が高まった。
次いで、ポータルサイト運営業などの情報通信業が3.1%、消費者向けの小売業が2.0%と続く。
売上宣伝費比率が5%以上の企業は、全体の1.3%にとどまった。全体と比較して、情報通信業8.3%、金融・保険業7.5%、不動産業6.2%などは突出して多く、宣伝費を重視する度合いの差が表れた。
【業種別宣伝費状況ランキング】職業紹介業と化粧品小売業は売上高の約2割が宣伝費
業種別(細分類)で、売上宣伝費比率と売上宣伝費5%以上の企業割合を比較した。
売上宣伝費比率が最も高い業種は、職業紹介業の18.8%で、求職者の目にとまるように宣伝費を多く計上している。次いで、化粧品小売業が18.4%で続く。化粧品関連は小売のほか、4位に仕上用・皮膚用化粧品製造業が14.1%でランクイン。消費者の関心を引き、製品の魅力を伝える手段として多額の宣伝費用を計上している。
売上宣伝費比率5%以上の企業割合は、結婚式場業が66.6%でダントツのトップ。次いで、エステティック業47.6%、クレジットカード業41.6%、ポータルサイト・サーバ運営業40.9%が続く。全体では、売上宣伝費比率が5%以上の企業割合は1.3%と低いが、競争環境の厳しい業種では、顧客獲得や知名度アップのため売上宣伝費比率を高めなければならない企業が多いようだ。