• TSRデータインサイト

大学受験のニチガク、旧態依然の営業手法と不適切会計

 大手受験予備校「ニチガク」を運営する(株)日本学力振興会(TSR企業コード:293847398、新宿区)が1月4日に突然教室を閉鎖してから3週間が経過した。1月10日に東京地裁へ破産を申請したが、受験シーズンを目前に控えたタイミングの事業断念は受験生に動揺が広がった。

 東京商工リサーチ(TSR)が独自に入手した破産申立書には、生徒獲得に苦戦した背景や不適切会計の可能性などが記されている。
 申立書の破産経緯は以下の通り(要旨)。


 ニチガクは生徒募集を関係会社に委託していた(以下、委託会社)。委託会社は、生徒自宅に一軒一軒電話をかけて勧誘し、最盛期には月間4000万円を超える売上高をあげた。入学金や授業料は、ニチガクと委託会社が一定割合で折半していた。
 しかし、携帯電話が普及すると固定電話のある家庭が減少し、従来の勧誘が難しくなり、生徒数が減少。コロナ禍では緊急事態宣言の影響もあり、対面授業ができず、自習室の利用も制限せざるを得なくなった。このため、急激に生徒が減少(破産申請の時点で約130人)し、売上高は月間500万円まで落ち込んだ。これに伴い、給料遅配や税金滞納が慢性化した。
 創業者は金融機関からの借入に頼らず、自力で乗り切る方針だったが、2022年10月頃、旧知のA氏に経営を一任し、経営から身を引いた。A氏は電話勧誘を見直し、医学部受験の新設などで立て直しを図ったが、医学部受験用の自習室の確保や高額な講師料などが経営を圧迫した。
 打つ手がなくなったA氏は2024年10月、事情に精通していたB氏に経営を委ねた。それでも給与などを支払うメドが立たなかった。今年1月4日、校舎入り口に事業停止の張り紙を掲げると現場で混乱が生じ、マスコミやSNSで騒動となり、破産申請に至った。


不適切会計と給与未払い

 破産経緯とは別の申立資料によると、ニチガクは委託会社との間で決算の帳尻を合わせる不適切な会計処理に手を染めていたようだ。2023年11月期の決算書の債務超過額は1億円を超え、現預金はわずか25万円にとどまる。

 ニチガクは、給与未払いによって経理スタッフが退職し、正確な直近の債権債務額が把握できていない。2024年11月期の決算書も作成できておらず、債権者や負債の額が確定するには時間が必要で、桜の花が散っても混乱は続きそうだ。

「ニチガク」の本社

「ニチガク」の本社

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

【破綻の構図】マツオインターナショナル~膨らんだ債務と抜本再生への移行~

婦人服ブランド「ヴィヴィアン タム」「慈雨(じう)」「t.b2」などを展開し、ピーク時には国内外で約400店を構えていたマツオインターナショナル(株)(TSRコード:292635265、以下マツオ)が12月11日、大阪地裁に会社更生法の適用を申請した。

2

  • TSRデータインサイト

交響楽団の収益悪化、来場者戻らずコスト上昇 ~ 綱渡りの自助経営、草の根のムーブメントへの期待 ~

交響楽団が存立の危機に立たされている。多くの交響楽団で収入が落ち込んでおり、赤字が目立つ。会場費や団員などの人件費、楽器の輸送コストなどが上昇のうえ、寄附金や補助金による収入は頭打ちで綱渡りの運営だ。東京商工リサーチは、3期連続で業績が比較できる20団体を調査した。

3

  • TSRデータインサイト

地場スーパー倒産 前年同期の1.5倍に大幅増 地域密着型も値上げやコスト上昇に勝てず

2025年1-11月の「地場スーパー」の倒産が22件(前年同期比46.6%増)と、前年同期の約1.5倍で、すでに前年の年間件数(18件)を超えた。

4

  • TSRデータインサイト

長渕剛さん側、イベント会社の破産申立に続き代表を刑事告訴 ~長渕さん「徹底追求」、イベント会社代表「横領でない」と反論~

歌手の長渕剛さんが代表を務める個人事務所の(株)オフィスレン(渋谷区)が、イベント運営を委託していたダイヤモンドグループ(株)(東京都中央区)の代表を業務上横領罪で刑事告訴したことがわかった。東京商工リサーチの取材で長渕さん側が明らかにした。

5

  • TSRデータインサイト

「ペット・ペット用品小売業」倒産が過去2番目の14件 実質賃金の低迷と物価高がペットの世界にも影響

2025年11月の「ペット・ペット用品小売」の倒産は、1件(前年同月ゼロ)にとどまったが、1-11月累計は14件(前年同期比27.2%増)に達した。

TOPへ