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企業の経営ビジョン 最多ワードは「社会」 卸売業、小売業は「人」と「私」が上位に

2024年「経営ビジョン」動向調査


 東京商工リサーチ(TSR)が全国の企業12万7,666社からヒアリングした「経営ビジョン」で、最も多く使われていたワードは「社会」(3万2,948回)だった。2位以下も「お客様」や「貢献」、「環境」など、社会貢献につながるワードが目立つ一方、「技術」や「社員」など社内に目を向けたワードも上位に入った。
 経営ビジョンは、社員や顧客、取引先、そして地域など、業務遂行に関わるステークホルダーとのつながり強化を謳うワードが多いようだ。円安やコスト上昇など、厳しい経営環境が続くなか、業績拡大とどのようにビジョンを両立させるか経営者の力量と器の大きさも問われている。

 経済産業省が提唱する企業の経営診断ツール「ローカルベンチマーク」の一つに、「経営者」の項目がある。TSRは2016年からその中の「経営ビジョン」にも着目し、データを蓄積している。
 企業は「経営理念」や「社是・社訓」、「社長挨拶」、「基本方針」などを独自に掲げており、経営者の資質や熱意、創造力、方向性を測るモノサシにもなる。
 経営ビジョンは、自社の原点、拠り所とするケースが多い。ただ、策定しても十分に浸透せず有名無実となるケースもあれば、作成から時間が経過し、実態にそぐわないこともある。
 「経営ビジョン」には、「社会」や「お客様」、「貢献」が多く使われていることがわかった。経営ビジョンの策定では、自社を分析することで客観的に強み、弱みを認識することができる。また、従業員に浸透すると、想定以上の収益向上につながる可能性もあり、ステークホルダーや業界内での評価アップをもたらす効果もある。
※本調査は、東京商工リサーチ(TSR)が蓄積した企業の経営ビジョンを分析した。同一ワードを複数回使っている企業もある。


最多ワードは「社会」

 12万7,666社の「経営ビジョン」を対象に分析した。最頻出ワードは、「社会」で3万2,948回だった。次いで、「お客様」2万8,325回、「貢献」2万6,069回、「人」2万2,601回、「企業」2万1,944回と続く。

 自社から相手や社会への視線が上位を占める一方で、「地域」、「環境」など大きな社会貢献を訴えるワードもある。
 また、「お客様」と組み合わされたワードとしては、「幸せ」、「第一」などが並び、「貢献」では「社会」、「人々の幸せ」など、ステークホルダーとの関連がうかがえる内容もあった。



経営ビジョンワード 上位25

産業別 製造業は「技術」や「品質」が上位に

 「経営ビジョン」が確認できた12万7,666社を産業別に分析した。
 産業別に目立ったワードとして、農・林・漁・鉱業は2位に「農業」、8位に「安心」、10位に「環境」など、仕事と直結したワードが目立つ。建設業では9位に「信頼」、製造業では5位に「技術」、10位に「品質」が入った。卸売業と小売業では「社会」、「人」、「私」が入り、社員や消費者など“ヒト”を優先する思想が強い。
 金融・保険業では1位に「地域」、8位に「金融」、10位に「発展」と立ち位置がわかるワードが入った。不動産業は1位に「お客様」、10位に「創造」と業界の視点がうかがえるワードが並ぶ。 
 運輸業は3位に「安全」、4位に「物流」が入る。サービス業他は、1位「社会」、2位「人」、5位に「お客様」と特色が出ている。

経営ビジョン 産業別



 「経営ビジョン」はわかりやすく、自社の使命を訴えるものが多い。今回の調査では「社会」や「お客様」、「貢献」などのワードが多く使われていることがわかった。
 経営ビジョンは、経営陣が中心となって作成するケースも多いが、求めるビジョンが全社に浸透しないと絵に描いた餅になりかねない。経営ビジョンを通し、会社と従業員が意思疎通を図りながら歩むことが、コーポレートガバナンス(企業統治)につながる。
 また、経営ビジョンの策定がゴールとなってしまうケースもある。社内掲示による全社共有、ホームページの対外的開示など、多様な発信で社内外での認識共有が必要だ。そして、何より経営ビジョンに沿った行動が求められる。
 


 2024年に「事業性融資の推進等に関する法律」が成立し、2026年に施行される。不動産などの有形固定資産の担保や経営者保証だけでなく、事業ノウハウや知的財産、顧客基盤などの無形固定資産を含む、すべての財産が今後は「企業価値担保」として担保権の対象に広がる。
 経営ビジョンは、経営者の事業への姿勢を推し量る指針だが、同時にビジョンを掲げる企業の事業性も融資や支援を得る材料になることを忘れてはならない。

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